第三章「午後3時のログイン通知」
好きだと気づくのは、いつもほんの小さなきっかけ。
ログイン通知のタイミング、何気ない一言、
それだけで一日が明るくなるような気がしてしまう。
――この気持ちは、ただの友情じゃない。
まだ気づかないふりをしていたふたりの距離が、
少しずつ、確実に近づいていきます。
「午後3時、Reiがログインしました。」
その通知が、Kuro――晴翔のスマホに届いたのは、
放課後の図書室で、課題を片付けていたときだった。
(いつもより早いな……)
通知だけでわかる。
オンラインになっただけなのに、
少し心がふわりと浮いた気がした。
そっとスマホをポケットにしまって、立ち上がる。
宿題なんて、今はどうでもよかった。
⸻
一方、凛のほうも、その日だけは特別に早く帰宅していた。
昼過ぎに授業が終わる日。
コンビニでパンをかじりながら、ソワソワしていたのは自分でも分かっていた。
「……どうしよ、今日早すぎるかな……」
でも、ふと考えてしまう。
もしKuroもログインしていて、同じくらいの時間に「会えた」としたら――
それは、ただの偶然? それとも。
(……いや、考えすぎ)
自分に言い聞かせるようにゲームを起動した。
ロビーに入った瞬間、待っていたようにKuroからの招待が届いた。
『Kuro:Rei、早いじゃん笑』
『Rei:今日はちょっとだけ、時間があったから…』
文字にしてしまうと簡単な会話。
でもその一行ごとに、心のどこかがくすぐられる。
⸻
その日のバトルは、どこか違っていた。
Reiが攻めに出て、Kuroが支援する。
ふたりの動きは息ぴったりで、敵チームを翻弄していく。
最後の1v1でReiが撃ち抜いたとき、Kuroがチャットを飛ばした。
『まじで、今日のRei強すぎじゃん笑』
『たまたまだよ! Kuroくんのカバーがあったから!』
その「くん」付けに、Kuroの指が止まった。
(――くん、って。今、初めてじゃない?)
でも、それを指摘すると照れくさくなる気がして、
あえてそのまま話を流した。
⸻
ゲームを終えた後、Kuroからのダイレクトメッセージが届いた。
『今日さ、もしよかったらちょっとだけ話さない? マイクつないで』
Reiはその文字を見て、指先が震えた。
マイク。つまり、ボイスチャット。
今まで文字でしか交わしてこなかった会話に、
「声」が加わることの意味を、ふたりは無意識に知っていた。
(……声、聞いたら、もっと近くなるのかな)
Reiは一度、目を閉じて深呼吸した。
それから、震える指で返した。
『……うん、いいよ』
⸻
その夜。
小さな「ピッ」という通知音とともに、ふたりは繋がった。
「……あ、聞こえる?」
Kuroの声は、思ったよりも柔らかくて、
Reiの想像よりも優しい音だった。
「うん……聞こえるよ、Kuroくん」
一瞬の沈黙。
でも、もう戻れない。
声で繋がったふたりの距離は、確かに「名前」以上のものになり始めていた。
この章では、ついにふたりがボイスチャットで声を交わすという
大きな転機を迎えました。
今までは文字だけで繋がっていた関係。
でも、「声」が持つ力は絶大で、
ふたりの気持ちに新たな温度と臨場感をもたらします。
心の中に芽生える淡い想いは、
いつか現実と交わってしまうのか、それともすれ違ったままなのか――
次回は、ふたりが声を通じてさらに心を近づけていく第4章。
どうぞ、お楽しみに。
――綾城 透夜