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Bloody Mary

ギギギギ——


古びた木製の扉を、恐る恐る押し開けた。意外にもそれは軽く、鍵すらかかっていなかった。目の前に広がるのは、底知れぬ暗闇。まるで光を呑み込むような、深い闇だ。


「すいませーん。誰かいますかー」


声をかけてみるが、こだますらしない。もう二、三度呼びかけたが、返事も、物音ひとつもない。ただ、重い静寂があたりを支配している。ただ中はひんやりしている。

それでも、この建物が何なのか、好奇心が疼く。ここまで来て何もわからず引き返すのは癪だ。ポケットからスマホを取り出し、画面をタップしてライト機能を起動した。これで何か手がかりが見つかればいい——せめて電気のスイッチでもあれば。

ピカッと光があたりを照らすが、スマホの頼りない明かりでは、せいぜい5メートル先がかすかに見える程度だ。しかし、何やら見覚えのある反射板のようなものがかすかに光を反射しているのがわかる。それがずらーっと並んでいるので広々とした空間が広がっているのがわかる。壁や天井は遠く、影に溶け込んで見えない。おそらく倉庫か、それに類する大きな建物なのだろう。

すこし足を踏み入れて建物の中を探し回る。反射しているものに近づこうとした。


「なんだよこれぇ」


その瞬間、驚きと目を疑うような感覚が鈴鹿を襲った。

わずかな光でも、目の前に広がる光景はすぐに理解できた。

赤く、その特徴的な四角い背の高いウィング、丸目の4灯テールライト。まぎれもなく、あのフェラーリF40だ。

だがなぜこんなところにあるのだろうか。六本木、銀座あたりを一週間いてもおそらく見ることはないであろう車だ。おそらく時価数億は優に超えるであろう車がなぜこんな所に置いてあるのか。

運転席側に回り込み、窓にスマホを当てて中を照らした。

間違いない、F40だ。どうせなら運転席にも座ってみたい。そう思った瞬間、頭の中で天使と悪魔がささやく。


「知らない世界でリスクを冒すのか、それともすぐにここを立ち去るべきなのか?」


周りを見渡しても、誰もいない。気持ちが揺らぐ。運転席のドアへと手が伸びる。一瞬の躊躇の後、ドアスイッチに手がかかった。


再度周りを見渡しても誰もいない。


ガチャッ


思いのほか軽く、あっさりと扉が開く。さすが軽量化車体といったところか。しかし、この持ち主はこんな高級車でも鍵をかけていないらしい。


鈴鹿が腰を落として運転席に乗り込もうとした——そのとき。


バキッ!


背後から、木製の扉が勢いよく蹴破られる音が響いた。

反射的に振り返る。

そこに立っていたのは、ぼんやりとしか見えなかったが、黒い衣服を翻し、鋭い目つきの女。マシンガンのような物が構えられていた。


次の瞬間——


バババババーッ!!!


爆音が倉庫内に轟いた。

鈴鹿の耳が鳴り、視界が一瞬白く染まる。

同時に、F40の運転席側のガラスがバリバリッ!!!と粉々に砕け散り、無数の破片が宙に舞った。

わずかコンマ秒の間だろう。

体が無数の鋭い横殴りの重力を受けながら、床に倒れていくのを感じた。


それから、すべてが、闇に呑まれた。

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