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大黒パーキングエリアの出口はちょっと面白い構造をしていて本線と合流するまでに少し長い直線とその先に緩やかなカーブがある。直線の開始部分でアクセルをベタ踏みして加速していくのが車好きの流儀だ。

大和のニスモ仕様の銀色のGT-Rを先に通してから後ろをついていく。GT-Rが直線のスタート部分で一度止まった。カマロはその後ろにピッタリとつけた。


「ブォォォォン――キュキュルルル」


GT-Rから乾いたエンジン音とタイヤが滑る音が両方轟くとともに、およそ600馬力の車が全力で加速していく。後ろから見る4つ並んだ丸いテールライトが勢いよく離れていくの見える。

大和のGT-Rがカーブに差しかかったその瞬間、俺の出番だ。

クラッチを切りながら、アクセルを三度煽る。意味はない。ただ、このカマロは少しばかり癖がある。回転数を正確に合わせなければ、発進がもたつく。そのための儀式のようなものだ。

クラッチを素早く繋げ、一気にアクセルを踏み込む。1速でレッドゾーンぎりぎりまで回し、2速、3速へと繋げる。ギアが変わるたびに、地面を蹴るような加速感が体をシートに押しつける。

神奈川5号線に乗り、スピードメーターは150キロを越える。あっという間に横羽線へと合流した。ここからは大和を見失わないように速度を調節して運転する。

横羽線は湾岸線の隣の”本土”を走行する高速道路だ。景色はいたって普通。2車線しかないから大和を見失いことはないだろう。お互い追い越しあうのが続く。

ミラーをちらちら見ながらGT-Rがついてきているか確認する。ヘッドライトの部分しか映らないけどかろうじてついてきているのだろう。自分らの車を縫うように、別の走り屋集団が走り抜いていく。

15分ほどたって浜崎橋ジャンクションに近づいた。細かく言えばレインボーブリッジのループ橋の所だ。この辺まで来ると車はほとんどいない。いても自分達同じような走り屋だろう。

大和のGT-Rが真横についてきた。隣を覗くと親指を上げながらグッドのポーズをしてきた。レーススタートの合図だ。

************

ギアをシフトダウンして3速でアクセルを一気に踏む。エンジンが獰猛な咆哮を上げ、車体が生き物のように脈打った。速度が上がるにつれ後ろに引っ張られる重力を感じる。


「2週間ぶりのレースだからな。今回は負けてらんねーんだよ。たしかに低速からの立ち上がりはGT-Rに分があるが時速150㎞超えるとどっちも大して変わらないんだ。しかもこっちはFRだからコーナリングはちゃんとグリップがかかる。上級者はコーナーで差をつけるんだ。」


ブォォォォォォォーーーー


猛スピードで浜崎橋ジャンクションを通り過ぎる。GT-Rと並走状態だ。

ちらっとメーターに視線を送るとすでに時速230㎞にまで達していた。


「いいぞぉ!いい調子だ。そのまま300㎞まで加速しろっ!」


ブォォォォォーーーンブォォォォッォーーーーー


4速、5速へと勢いよくギアを変える。浜崎橋ジャンクションを通りすぎると江戸川ジャンクションまでの間はS字カーブの連続だ。個人的には高速域で走る時の難易度はめちゃくちゃ高いと思う。特にこのアメ車は重い。スープラやシルビアみたいな日本車なら小回りが利きそうな所でもこの車は外に膨らんじゃって曲がるのに一苦労だ。まぁカマロはタイヤはぶっとくてグリップは強いほうなんだが。

240㎞、250㎞ーーーーー

C1に入って最初のコーナーがやってきた。左、右のS字だ。比較的緩やかな場所だからアウトインアウトの原則を守る。ただし、コーナーの出口で膨らみすぎると、八重洲線に続く分離帯にぶつかってしまう。そのまま八重洲線に入れればいいがそのまま突っ込んでしまう車のほうが多いと思う。

右車線のギリギリまで車を寄せる。路肩走行なんてものは今の世界には存在しない。さすがにこのカーブで並走するのは無理がある。大和が少し減速をして後ろにピッタリついてきた。

カーブ30m手前あたりからギュッとハンドルを左に少し深く回す。


ブルルルルブォーーーンキュキュキュキュ


ギリギリ、タイヤが耐えているのがわかる。ドリフトまではしていない。


「ンッ、」


左に曲がったと思ったら急いで右へハンドルを返す。一刻の油断も許されない。


ーーーーキュキュキュ


後輪が少し空転しているがなんとかS字を走り抜けられた。パッとバックミラーを見るとGT-Rのヘッドライトが光っているのが見える。どうやらちゃんと付いてこられたようだ。

アクセルを深く踏んで再度加速していく。この先、下り坂で地下トンネルに入る。この中にも緩やかとは言えないS字カーブがまた存在する。

250㎞、260㎞、270㎞

数秒の間にグングン速度が上がる。速度が上がっていくのにつれ脳汁がジワジワと湧き出てくる。

大和はピッタリ後ろに張り付いている。正直、連続しているカーブで差をつけられる自信はそこまでない。大和もそれなりに腕はあるのだ。

カーブ30m手前くらいになった。さっきと同じ要領でハンドルをさばいていく。地下トンネルの中をエンジン音が響き渡る。

カーブを抜け、ちらっとバックミラーを見てもまだ大和はピッタリと張り付いている。内心少しビビッている。


「なんであいつはこんなにも俺の車にしがみついてられるんだ⁉」


しかもさっきよりも少しづつ速度を上げさらに近づいている


「俺のことを煽ってんのかよ。」


イライラしてきた。またあの時と同じような感じだ。

運転に集中を戻すとまたS字カーブがやってきた。C1内回りをさんざん走っているとコーナーの腕も職人レベルになる。

3個目のS字カーブ。ここも余裕で通過。

すると右のサイドミラーにGT-Rのライトが映りこんだ。


「ここで右から追い越そうなんてなんてどんな思考してるんだあいつは。」


それでもGT-Rの勢いは止まらない。ミラー越しに表情を見たくてもライトの逆光で見えるはずもない。


「大和の奴、まだグイグイ来るなぁ。」


速度は290㎞に迫る勢いだ。その疾走はまるで嵐の如く、地面を切り裂きながら進む。

徐々に苛立ちが募る。“こんなところで負けてたまるか”という思いが、心の奥で渦巻いていた。

目の前には、車線の間に橋脚が連なっている光景が広がっていた。その中でも特に注意が必要な場所が二か所ある。だが、二つ目の橋脚は特に危険だ。なぜなら、急な坂の先に待ち受けているからだ。この箇所では、減速が必須なのだ。


ブォォォォォーーーーーー、、、、チカッッーーーーー


最初の橋脚を過ぎた瞬間、猛烈な光が目に飛び込んできた。思わず顔をしかめたが、すぐに悟った。この光、以前見たあの光と同じだ。


チカッッ、チカッ、チカッ


「ングッ…クソッ。こんな大事な所で。何なんだよ。」


不規則に謎の強い光が点滅し、まるで頭の中で雷が弾けるようだ。視界が揺れ、徐々にその幅が狭まっていくのがはっきりと分かった。冷や汗が背筋を這う中、2個目の橋脚がぼんやりと視界に浮かんだ。しかし、すでに視力の半分近くが闇に飲み込まれている。


「ふざけんな…!あっ!」


グワン! 車が突然跳ね上がった。そこからはもう、スローモーションで時が流れていくように見えた。


「しまった!」


驚きに目を見開き、進路上を見た瞬間、路上に何者かが立っているのが目に入った。薄暗い夜道に、ぼんやりと白い光を放つ小さな人影。子供のようだが、輪郭は不思議にぼやけ、まるでこの世のものではないかのようだった。

ブレーキを思いっきり踏んでとっさにハンドルを切ったが、時すでに遅し。車体がフワッと浮き上がり、タイヤと地面が接触していないのがわかった。ブレーキもハンドルもまるで効かない。身体がシートに押し付けられ、心臓が喉元で脈打つ。


「くそっ!」


叫び声も虚しく響き、ハンドルをギュッと掴み、ただ本能的に目を強く瞑った。

しかし、次の瞬間、この世とは思えない光が脳内を襲った。


ビカァァァァーーーーーーーーーー


ハンドルを握ったまま体がさっきよりもフワっと浮いているのがわかった。宇宙空間にいるかのようだ。


すると突然、背後から強烈な衝撃が走った。


バコンッッ……ドンッ!


何かが後ろからぶつかってくると、同時に車が地面に着地する衝撃が全身を駆け抜けた。


キュルルルーーーーーー、キュルキュルルーー


タイヤが悲鳴を上げ、車はスピンをしはじめた。

数秒経つとようやく車が止まった。


カラン、カラン、ヒヒーン…


何かが近くを歩く音が聞こえ、ゆっくりと目を開けた。

車内に土埃があがっている。


ゲッホゲッホゲッホ…


最初に認識できたのは、広い道路の真ん中にいるということ。周りを見渡すと、馬が歩いている。しかも上に人が乗っていて馬車のようなものをひいている。ぱっと見た感じ19世紀のヨーロッパを思い出させるような街並みだ。すると馬の人間に怒鳴られた。


「おい!道の真ん中だぞ!邪魔だ!」


その怒鳴り声で我に返った。


「どこ?……どこだよ、ここ。」

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