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06. 再会…?


 どのくらい馬車に揺られ続けているだろうか。それすらもわからないほど長い間馬車で移動していた。前は少し浮かれていたからこんなに退屈な気持ちじゃなかった気がする。まあシャルロット家はサンピアーノ帝国の中でも屈指の貴族だから馬車の質は高く、椅子がふかふかだから思っているよりは身体に負担はないけれど…。ただでさえこれからのことを考えると憂鬱なのにこんな空間に何十時間も閉じ込められていれば気も滅入る。


 そうしているうちに外の景観が変わってきていた。

 ハウリット帝国はサンピアーノ帝国に比べて少し北に位置し、冬になると雪が降り続ける。しかしそのような食料を育てるのが少し苦しい土地ですら食べ物が潤沢にあるのはひとえにその土地の面積の広さのおかげである。サンピアーノ帝国もなかなか広い土地を所有しているが、ハウリット帝国はその1.5倍から2倍ほどの土地を所有している。


 今は少し寒い時期なのもあり馬車の中から見える外の景色は薄く白色のベールで覆われているようだった。まだ本格的に雪が降っている様子ではないけれど、軽く雪が積もっているようだ。

 その光景を目にして前世での生活を思い出す。あんなにシノアールの操り人形としてクロエト公爵家をかき回しておいてまた嫁ぐなんてなんて面の皮が厚いんだろう。そんな自嘲的な気持ちになる。だけどだからこそ、今回はクロエト公爵が被害を被るようなことはしない。シノアールの思い通りにさせるつもりはない。



 そしてそんなことを考えているとクロエト公爵家に到着した。馬車の扉が開かれ、恐る恐る外へ足を踏み出すと肌寒さを感じた。前を向くと大きな屋敷とその前に立っている男が目に入った。


 …お久しぶりですね、クロエト公爵様。

 

 あんな風に殺してきた相手を前にするとやっぱり不思議な感じだわ。だけど恨みだとかそういった類の念を抱くことはない。だって私もこのクロエト家をめちゃくちゃにしたんだもの。因果応報というものだ。


 私は少し歩いてクロエト公爵の前まできた。

 「お初にお目にかかります。サンピアーノ帝国のシャルロット公爵家から参りました、メルティ・シャルロットと申します。これからお世話になります。よろしくお願いいたします。」


 私が一通り挨拶を言い終えお辞儀をし、顔を上げるとそこには先ほどと同じように真顔でこちらを見ている公爵様がいた。何かしら…?何か気に障ったのかしら。

 「クロエト公爵様…?」

 私がもう一度声をかけるとクロエト公爵ははっとした様子を見せた。

 「失礼、リアム・クロエトだ。こからの案内はそこにいるエルヴィスに頼んであるからわからないことがあれば何でも聞いてくれ。」

 それだけ言うとクロエト公爵はすぐに振り返って屋敷の中へ入ってしまった。

 あくまでまだ客人として扱うつもりね。前世でもあなたは初対面から警戒しまくっていたものね。今となっては懐かしい。あの時の私はまだ純粋でバカだったからこの態度に酷く傷ついていたわ。だけどもうあの頃の間抜けな私に戻るわけにはいかないの。とにかくクロエト家をシノアールから守るためにはまず仲間だと認めてもらうところからね。


 「初めまして、わたくしはこの屋敷を総括している執事長のエルヴィスと申します。以後お見知りおきください。早速メルティ・シャルロット様のお部屋へとご案内いたします。こちらへ。」

 そういうとエルヴィスは私を客室へと案内した。

 そう。私が気づくなんて思ってすらいない。まあ私も前世ではここが客室だとは夢にも思わなかったわけだけど。だけどこれはエルヴィスが私のことをなめているからなどではなく間違いなく公爵の指示。エルヴィスは寧ろ私にきちんと向き合いたいと思ってくれているけれど公爵の命令に背くことなんてできるはずもないからこのように対応している。


 「メルティ・シャルロット様はこちらの部屋をご自由にお使いいただけます。そのほかの施設も公爵様の確認が取れ次第お使いいただけるはずです。」

 だけどやはりここで簡単に引き下がってちゃ本末転倒ね。

 「…私のことをバカにしているのかしら?」


 私の言葉にエルヴィスは硬直した。まさかこんな風に反抗してくるとは思っていなかったのだろう。


 「そ、それは一体…」

 「見た感じではここ、客室ではないですか?公爵様はそんなにあくまでも私のことを部外者、よそ者だとおっしゃりたいのかしら?」

 「っ…!!!」

 エルヴィスは何も言えないといった表情で顔を暗くさせた。

 「申し訳ありません、公爵様に代わって私が謝罪を申し上げます。」

 まあもとはと言えばすべてクロエト公爵の責任ではあるし、これくらいにしておこう。私はただこの姿勢を見せておく必要があっただけ。

 「まあいいです。ここまで案内していただいてありがとうございました。しばらくはゆっくりしていたいので誰も訪ねてこないようにしていただけますか?」

 「も、もちろんでございます!では、失礼いたします。」


 そそくさと退室していった執事長を横目に見ながらベッドに座った。

 「はぁ…。」

 憂鬱だ、これからクロエト公爵の警戒をときつつシノアールの手から逃れる方法を考えなければならない。そんなこと本当に可能なのだろうか。前世とは違ったシノアールの言動のせいでこの身体に黒魔術をかけられてしまった。まずはこれをどうにかしないとシノアールはいつでも私を思い通りにできてしまう。考えるだけでも大変だ。


ベッドにごろんと横になると自然と目を閉じた。私は馬車移動で思っていたより疲れていたのかそのまま睡魔に襲われ眠りについてしまった。





 次に目を覚ましたのは扉からのノック音だった。

 「メルティ・シャルロット様、公爵様から夕食のお誘いでございます。どうなさいますか?」

 扉を隔てて侍女の声が聞こえる。

 前世で夕食のお誘いなんてあったかしら?でもとにかく公爵に取り入るチャンスかもしれない。行かない選択肢はない。

 「すぐに向かいますと伝えてください。場所はどちらに向かえばいいかしら?」

 「はい、承知いたしました。場所はこの部屋を出て右に進みますと大広間に出ますので階段を降りましてすぐ前にあるお部屋でございます。」


 一応前世での記憶があるからすぐにたどり着くことができるけれど、この説明は少し分かりづらいわね。わざとかしら?こんなに屋敷の中に部屋があるというのに案内の者も寄こさないなんて。やっぱりあまり歓迎されていない様子ね。

 「わかったわ、ありがとう。」


 それとも私のよくない噂を聞いているから関わりたくないのかしら。まぁシャルロットの家にいるときもシノアールの言いなりになっていたから悪い噂や言動が広まっているのも納得ね。これまでの私を呪うことしかできないのが悔しいわ。


 すぐに身なりを整えて部屋を出る。

 久しぶりにこの屋敷のなかを自由に歩くわね。殺される前も自由ではあったけれど常に監視されているような感じだったから不思議な気分。

 それにしても変に緊張するわね、公爵と一緒に夕食をとることになるなんて。前世では徹底的に避けられていたし、出会っても無視されていたから。まぁそれも全部シノアールのせいなんだけど。とにかく今回はシノアールの要求を無視し続けて公爵との仲を深めることに注力しよう。



 そんなことを考えていると大広間についた。

 呼吸を整えて公爵がいるであろう扉の前に立った。


「ふぅ…。」


覚悟を決めて扉をノックした。





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