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10. それぞれの思惑


 「り、リアム様…どうされましたか?」

 私のドタキャンについて怒っているのだろうか。

 「いや、たださっき使用人からお前が体調不良だと聞いて少し来てみたんだが。」


 …まさかあの公爵が心配してきてくれたってこと?

 いや、まさかね。嘘をついてるんじゃないか確認しに来たってところかしら?


 「ご心配おかけしてすみませんでした。そんなに大したことじゃないのですけど、少し気分がすぐれなくて横になっていました。約束していたのに行けなくなってしまって申し訳ありませんでした。」

 とにかく今はちゃんと謝って、何事もなかったように振舞わないと。

 「いや、それは気にしなくていい。俺が急に誘ったからな。」

 どうして急に下手に出てくるのだろう。

 「ご配慮いただきありがとうございます。」

 これで帰ってくれるかしら。

 

 「そうだ、なにか必要なものはあるか?タオルなど必要なら使用人に頼んで用意させよう。」

 「え?」

 なぜそんなに急に私を気遣ってくれるような態度を見せてくるんだろう。何か思惑があるのか。

 「いえ、気にかけてくださってありがとうございます。使用人の方にもたくさん気にかけていただいていますから、十分です。」


 今のこんなひどい状態を見られるわけにはいかない。クドクソウでソフィーリア様がやられてしまっているこんな状況で、謎のけがを負っているなんて知られれば変に勘繰られるにきまっているから。

 「そうか、わかった。何か他にできることがあれば教えてほしい。」

 どうしてそこまで気を使ってくれているのかわからないけれどこれは挽回するチャンスだわ。

 「リアム様、でしたら今回私のせいでなくなってしまったのでもう一度一緒に食事をする機会をくださいませんか?」

 「ん…?そんなことでいいのか?構わないが。」

 そんなことと公爵は言うけれど私たち、前世ではまともに会話することも滅多になくて食事なんてもってのほかだったんだけど…。

 「ありがとうございます。」

 「明日は大事をとって休め。もし体調が戻りそうであれば明後日の昼食でまた会おう。」

 「お心遣いありがとうございます。ぜひそれでお願いします。」


 それにしてもやっぱり公爵の態度もなんだか前世と違うような気がしてならない。こんなに私の様子を窺ってくれていただろうか。そもそもこんなに積極的に関わってこなかったように記憶している。


 「なんだかよくわからない変化ね…これが凶と出るか吉と出るか。」

 とにかく今回は対立したくはないし、信頼を獲得するためにはいい展開にはなっているか。


 この日はシノアールのせいでどっと疲れたため、そのままダラダラと一日を過ごした。




 

 次の日の深夜、私は息苦しさと激痛に思わず飛び起きた。

 「ぐっ…ああああ!!!?」

 何事かと脳を覚醒させていると首元に黒魔術の文様が浮かび上がっているのが見えた。


 まさかこの黒魔術、顔を合わせずともこんな風に簡単に発動できてしまうものなのね…!

 シノアールが私に行動を起こせと脅しをかけているんだ。


 朦朧とする意識の中でこの黒魔術をとにかくどうにかしなければ平穏は訪れないということを脳では妙に冷静に考えていた。

 そんなことを考えていると次第に痛みが落ち着き始め、眠気と苦痛に意識を手放した。



 次の日の朝、侍女の申し出を丁重に断り一人で支度をしていると扉のノック音と、その後にバタバタと廊下を走る足音が聞こえた。

 …何かしら?


 不思議に思って扉を開くとそこには誰もおらず、悪質ないたずらか嫌がらせか頭を悩ませそうになったが下を見ると扉の前の地面に小包のようなものがぽつんと置かれていた。

 一体何…?

 拾い上げて包みを開けてみる。


 「…まさかこれっ!?」

 中に包まれていたものを目にした瞬間、思わず周りを見渡して誰もいないかを確認した。そしてすぐに部屋の中に戻って扉を閉めた。扉を背にどくどくとはやる動悸を抑えるように胸の上に手を重ねる。

 「どうしてこんなものが…。」


 その小包のなかにはいっていたものはクドクソウをすり潰して粉末状にしたものだった。


 ソフィーリアがあんな状態にある今、こんなものを私の部屋の前に置くなんてそんなことをする人は多くないはずだ。まさか本当に嫌がらせ…?

 だけど嫌がらせにしては幼稚なうえに、そのためにクドクソウを持ち歩いていたのを見つかるリスクがあるというのを考慮すると少し無理があるように感じる。


 であれば考えられるのは…


 シノアールの指示ね。

 これを使って公爵を害せと言いたいようね。だけどそういうわけにはいかないわ。そんなことをしてしまったら私は即刻処刑されてしまうだろう。

 そう考えていると…


 ブゥゥン…という不気味な音を立てて首元に黒魔術の文様が浮かび上がる。

 「あぁっ…!!」

 まずい、またむやみに発動されてしまう。そう考えて思わず身構える。しかし、いつまでたってもあの地獄のような苦痛は襲ってこない。

 …どうして?まさかこの状態で脅しているということ…?

 こんなことが続くとまずいわ。こんな黒魔術を公爵に見られてしまっては怪しまれ、疎まれるにきまっている。黒魔術なんて使うのかと疑われ、黒魔術を体にかけられていると気づかれれば爆弾を抱えているようなものだと面倒がられるはずだ。

 そんなことになれば仲を深めるどころか幽閉状態にもなりかねない。


 なにより、こんな状態で過ごすことになれば私はきっと冷静さを保てなくなる。思考が滞り、シノアールの好き勝手になりとんでもない事態になるだろう。そう思うと意図せず身体がカタカタと震えてくる。

 このままじゃだめよ、とにかくこの黒魔術をどうにかするまではシノアールの指示に反発できない。

 従うとまではいかずとも軽く従順なフリは必要になる。


 そうしているうちに首元の文様は静かに消えていった。

 とにかく今は少しでもシノアールの信用をもらわなければ何も行動に移せない。


 少しの覚悟を決めた私は公爵にとある提案をしようと決めて、次の日の約束の昼食に向かった。



 部屋に入るとそこにはすでに公爵が椅子に腰かけていた。

 「申し訳ありません、お待たせしてしまいましたか?」

 侍女に声をかけられてすぐに来たつもりだったけど遅かったかしら?

 「いや、俺が早く来てしまっただけだ。気にするな。」

 意外にすんなりと自身の非を認められ呆気にとられる。

 「お、お気遣いありがとうございます、リアム様。」

 軽く会釈をして席についた。


 そのまま食事が始まり、会話が弾むことはなかったけれど初日ほどの冷たい空気でもなかった。

 「あの、リアム様。」

 公爵は私の呼びかけに食事の手を止めることなく目線だけをこちらに向けた。その視線から発言を許可されたとみなして言葉を続ける。

 「お互いまだ知らないことも多いですしリアム様とお茶会をしたいと考えているのですが、よろしければお時間を作ってくださいませんか?」

 緊張で少し声が震えてしまった。怪しまれないだろうか。

 公爵は少し怪訝そうな顔をしてから考える素振りをした。


 やはり少し変だろうか。

 「…わ、私お茶を淹れるのが得意なんです。もしリアム様がよろしければ、と思ったのですけれど…やはり迷惑でしたか…?」

 自信がなくなってきて思わず語尾が消え入るほど小さくなった。


 公爵はこちらをじっと見つめ、しばらくの沈黙の後「ふぅ…」と小さく息を吐いた。

 「…構わない。」

 「え?」

 急な承諾に声が出てしまった。

 「お茶するくらいの時間は空けられる。また時間をエルヴィスにでも伝えておいてくれ。」

 「あ…ありがとうございます!」

 まさか本当に一緒にお茶できる機会をもらえると思っておらず大きな声で反応した。

 公爵はわずかに驚いたような顔をしたが、またすぐに無表情に戻り食事を続けた。


 その後、食事が終わりそのまま解散となった。

 

 他に特に大きな出来事はなかったが、公爵とお茶会の約束を取り付けられたことは私にとってとても重要なことだった。



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