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六話 二時間目 民俗学

なんか、説明口調の授業が続きます(笑)

 


「さて、先ほど異種族の話が出ましたので、そのことについて少しお話しましょうか」


「あー、それはいいや。僕の世界にも、伝説とかにはよく登場する種族だし」


「ほほぅ。そうなのですか?」


「多分、大体は同じだと思うよ。だから、特性なんかよりは種族間の関係とか、歴史の方が知りたいな」


 エルフは長耳。フェザーフォルクは有翼人。人魚族はそのまんま。確か、男のマーマンと女のマーメイドがいたはず。ドワーフは…もはや語るまい。


 ふむ。とストラトはひとつ頷いて口を開いた。


「では、まず短いところから参りましょうか。

 まずは、ドワーフです。彼らには迫害された歴史はありません。ずんぐりむっくりの姿からは想像できないほどに器用で、金属加工の技に優れておりますので、どの国でも友好的に迎えられております。我が国でも同様。ほとんどが元からこの地域で暮らしていたものたちばかりです」


「やっぱり、武器とか防具は人間よりいいものを作ったりするのか?」


「ええ。寿命も我々の二から三倍ありますからな。技術では敵いません。ただし、偏屈者が多いですからな、気に入らんものは絶対に作りません」


 …やっぱり、ドワーフが頑固者なのは全世界共通なのだろうか。


「次に、エルフですが、地域によっては迫害の対象になったり、住処の森が開発されたり、ですな。もっとも、動物ではありませんからエルフたちは抵抗しました。それが一層迫害を過熱させる要因にもなったのでしょう。新たな住処を求めて彷徨い続けて辿り着いたものが多い、と聞きます。それと――」


「それと?」


 ストラトが表情を曇らせている。大方、なにか言い難い事なのだろう。ここは現代日本ではない。中世の異世界だ。その辺りのことを気遣ってくれているのかもしれない。


「大丈夫だ。話してくれていい」


 ストラトたちから見れば、日本人の僕はいかにも年若く見えるのだろうが、一応これでも歴とした大人だ。日本に居た頃は税金だって納めていたのである。…あまり関係のないことだけど。


「はい…。見目麗しい一族ですので、狩り出され貴族の慰み者にされた過去があります」


「…そうか。それは他国の話か、それとも我が国の話か?」


「幸い、我が国のことではなく、過去に他国であったことでございます。現在では、我が国のほかにはエルフはほとんど見かけなくなりましたからな…」


 隠れたか、滅んだか。そのいずれか。


「エルフは魔法に長けた一族、って認識は正しいのかな?」


「ええ。彼らの多くは精霊魔法の素質を持ちます。もともと、魔術の素質を持つものが多いので古代語魔法を身につけて大成するものもおりますな。彼らはなにせ寿命が長い。我々の研鑽の及ぶところではありませんな」


 羨ましいものです。なんて苦笑い。

 老境にあるストラトからすれば、常若の種族というのは少し眩しく見えるのかもしれない。


「愚痴が混じってしまいましたな、お恥ずかしい限り。

 次はフェザーフォルクですな。彼らもまた、他国ではほとんど見ることがなくなってしまいました。人が足を踏み入れることのできない奥地に移り住んだか、狩り尽されたかのどちらかでしょう。エルフよりも酷い迫害の歴史を送ってきました」


「翼か」


「然様です。貴族の道楽、それとも嫉妬か。理由は存じませんが執拗に狩ったと言われております。その他にも、翼は便利なマジックアイテムの材料でもありましたからな…」


「この国では、そういうことは起きなかったのか?」


「建国以前にはそういったこともあったようですが、建国王がフェザーフォルクの一族を厚く保護することを決めてからはフェザーフォルクを狩ることは重罪になっております」


「…ちなみに、どれくらいの罪になるんだ?」


 投獄か、極刑か。はたまた――


「拷問の後に、公開での四肢切断。しかる後に郊外引き回しの刑、それでも尚生きているようであれば餓死するまで生き埋めです」


 極悪だった。

 死んだ方がマシじゃないのか、それは。


「その重罪の理由は分かりませんが、建国王は彼らのことを『天使』と呼んだと記録にはあります」


 天使。

 真っ白な羽の生えた人間の姿で描写される、キリスト教の天の使い。


「……そのフェザーフォルクは、白い羽の?」


「そうです」


 …建国王、アンタはキリスト教徒だったのか。

 ファンタジー思考のすっかり根付いた僕らの世代でなければ、それはまさに天使に見えたことだろう。


「黒くなくて良かったなあ…」


「は?」


「いや、なんでもない」


 羽か黒かったら逆に狩り尽くされていた可能性が高い。なんて笑えない話はどうでもいいのだ。…しかし、逆にそれが異種族を徹底的に排除する要因になっていたかもしれないと思うと、やはり心中穏やかならざるものがある。そんなことは、実際に暮らしている彼らには関係のない話なのかもしれないが。


「最後は、人魚族か」


「ええ。彼らもまたその命を狙われた歴史があります。なんでも、一地方ででは人魚族の血肉を喰らうことで不老不死の身体を手に入れることができる、と本気で信じられていたとか」


 …八百比丘尼?


「その他にも、人魚族の歌には魔力があり、船を座礁させることから、害悪指定されましたし、やはりその魔力を宿した身体がマジックアイテムの材料になりましたから…」


 セイレーンの歌声。船を惑わし、そのまま帰らなくなる…というヤツだ。しかし――


「実は、歌で魅了しているんじゃなくて、歌に勝手に引き寄せられて――人間が、勝手に自爆しているだけじゃないのか?」


「その通りです。人魚族は自分たちの歌にそのような魔力があることを知らなかったのです」


 典型的な勘違い。

 しかし、事実はどうあれ。船が帰らなかった、座礁させられたという事実が残り、"人魚族は船を惑わせ、座礁させる"という認識が成立する。


「で、グラーフ王国ではどんな関係なんだ? 勘違いはともかく、船を惑わせる事実に変わりは無いのだろう?」


「話せば分かってくれますよ。我が国の船には、一隻につき専属の人魚族が就きますからな。座礁知らず、遭難知らずですよ。世界中の海を自由に航行できるのは、我が国だけでしょうな」


 …本当に懐の深い国民性である。


「山はドワーフたちが、森はエルフたちが、海は人魚たちが、そして平地で我々が。互いにバランスを取って暮らしておるのですよ」


「貴族どものせいで関係がこじれたりはしていないのか?」


「若干、そういう動きもあるようですが、彼らの利益にも深く関わっている以上、関係を損ねるのは良くないと、手出しはしておらぬようですな。逆に、我々が助けられているほどです」


「信頼関係は、崩れるのは簡単だからな…」


「全く」



 すぐにでも、なんとかしたい問題が山積みなのになにもできないのが歯痒い。

 元の世界から逃げ出してきた僕なんかが、王になるにはこの国は良い国過ぎるのだ。

 守らなければ――そう強く思う。


 この奇跡の国を。


 僕は拳を強く握った。強く、強く――



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