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四十一話 経年

 


 革命が現実的に動き出した。

 方針が定まってくればなにをしなければならないか、なにを準備し、どうしなければならないかが見えてくる。

 確固たる信念を討論を通して固め、熟成させていく。

 目指すべき将来像を思い描き、それを共通の理想として計画を進めていく。


 思想教育。

 革命計画。

 実行計画。

 進行予定。


 挙げてゆけばキリのないほどの計画予定が必要になってくる。しかし、それを全て僕が準備するわけにも行かないから当然、後宮に集った仲間たちにそれを割り振っていくことになる。大まかな方針だけを伝えて各所を詰めさせて全体で協議、最終的に僕が監査する…そんな具合で大まかに準備を進めていく。最初からきっちりと組み上げていかないのは今後方針の変更があった場合に対応していくために、計画全体に余裕を設けておく必要があるからだ。

 やらなければならないことは革命計画の策定だけではない。革命を成功させた後、どのように国を治めていくか。混乱の極みに陥っているであろう諸地方をいかに迅速に収拾するかの方策の検討。以後の政策方針。行政計画etc.....とやることは山積みだ。


 計画の大筋は、市民を中心として革命組織を作り、行政府を襲撃・占拠するというもの。

 ただやることを言葉にすれば簡単だが、事は簡単には進まない。

 今の権力は完全に貴族が握っているし、反対に僕たちにはなにもない。あるのはわずかばかりの志だけというお寒い状況。

 それでも、そんなだから付け入る隙もある。

 行政が腐敗し、国民を抑圧すれば彼らは彼らで身を守るための行動を起こし始める。市民同士、個人同士の結束は強くなって対抗しようと動き始める。僕たちはそこに働きかける。強い人の結びつきを利用する。


「いきなり市民全員を革命に参加させる必要はない。組織には顔役やリーダーがいるから、まずはそんな人物と顔をつないで準備を始めればいい。全員を巻き込むのは最終段階、仕上げのときだけでいい」


 秘密保持の鉄則は、秘密を知る人間をできる限り少なくすること。

 国家転覆などという重大すぎる秘密を早々に国民に知らせてしまってはいくら入念な準備をしていても全てが無意味になる。仮に"義に厚い"と一般に評される種族が居たとして、その彼ら全てが一様に儀礼を重んじるわけではない。中には軽薄な者もいれば残忍なものもいてあたりまえなのだから。

 現状、国の状態に不満を持たないものは貴族で恩恵を被っている者たちだけ。不満の種はすっかり成熟し、発芽のときを待っている。土壌もすっかり準備が整っている。向けようのないエネルギーを導くのは酷く簡単だ。爆発寸前。臨界直前。問題は、それが暴発しないように間違いなく誘導すること。その方法については幾度も討議を重ね、何重にも保険をかけた。最悪の場合でも、被害が小さく収まるように。


 もちろん、国民の感情を煽って原動力にするだけでは足りない。彼らにエネルギーはあっても財力も、武力も持ち合わせていないただの"数"でしかない。確実に革命を成功させるには"数"と"力"と"策"が必要になってくる。理想的な革命のためにはそれらが不可欠になってくるから、当然それも確保する。

 狙うのは地方に放逐された貴族たち。その中でもマトモそうな連中。…とはいっても、僕自身が出かけて確認することはできないから信頼の置ける人物に交渉を任せることにはなるが、国の現状を憂えているのであればまず間違いなく協力が得られるだろうと僕は考えている。それに、人間の中にもいろんな者がいるように、貴族の中にも高潔な人物というものは居るものだ。時代の流れに乗れない、古く不器用な連中が。僕はそんな彼らに期待している。…まだ見ぬ、存在すらも確かではない彼らに。その足がかりとして、以前僕を暗殺しようと送り込まれてきた暗殺者を解放し、使者として送り返している。僕にとっては触れたくない案件でもあるため、詳しくは聞いていないが、迅速な返答があり既にストラトが交渉を開始していると聞いている。同時に、件の暗殺集団『曙』の協力も取り付けたと報告を受けている。…僕個人の感情としては複雑ではあるけれど、彼らの存在は革命の成功率を押し上げることは間違いない。


 そして最後の"策"を整えるのは僕の仕事だ。

 たいしたことができる立場ではないけれど、"形だけでも"僕は国王なのだから、ある程度融通を利かせることもできるだろう。それも、腐敗貴族たちにとって都合のよい人形であることが必要になるけれど。彼らの権益を侵さない程度の行動は起こせる。無害で無能な羊を演じ、その中で王城内部にも協力者を募ることができれば最高だといえる。上辺の道化を演じるには欲に溺れ、放蕩三昧をしているように見せかけることだ。そのための役者もストラトにリストアップさせている。

 無知無能を信じ込ませ、仕上げに行う国を挙げての祝賀会。それが革命の合図。

 国中から貴族という貴族を全員招聘しての大式典。よくよく国を治めてくれている臣下への褒賞としての祭典。

 もちろんこれは、表向きの話。実際にはこの式典を革命に利用する。当然、国中の要人が集まるのだから警備は厳しいだろうが、そこはそれ。裏側から手を回してできる限りを無力化する算段を立てている。

 そして、全員を一網打尽にすることによって革命は完成する。貴族連中を打倒するにはこの上ない機会だ。…まあ、僕の自作自演なのだけど。


 正直な話、こんなに話が上手くいくとは思っていない。

 どこで計画に綻びが生じるか、あるいは問題点が見つかるか。どんなミスが起こるかなんて、全くわからない。自信満々に皆に語っては見せたけれど、僕は革命運動に参加した戦士でもなければ革命家でもない。純粋に、ただの一市民でしかなかった存在だ。その場その場で問題に対処していくしかないという精緻に見えて幼稚な計画。信じてくれる皆には申し訳ないが、成功の確率はそんなに高くない。


「やれることを、最大限にやるだけのことだ」


 他でもない。自分自身が生き残り、目標を達するために。


 そして、大切な―――優しい人たちを喪わないために。



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