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四十話 革命論 四章

長らくお待たせしました。

…その割には内容がアレですが…。クライマックスに向けて超展開を開始するかもしれないです。

 

 数度の書簡の遣り取りを経て、僕はついに直接指導に踏み切った。

 …なんて、いかにもジルヴァたちの出来が悪いような言い分だけれど、そんな事実は微塵もない。彼らは意欲的であるし勤勉だ。僕なんかよりずっと。

 はじめから全部僕が悪かったのだ。この弱い心のせいで、非効率的な手段をとらなくてはならなくなっただけ。元々が困難であることをやっているというのに意思伝達の効率を下げてさらにそれを難解なものにしていた僕の責任。自業自得だ。



「いいか。革命と呼ばれる行動には、大別して二通りがある。夥しい血を必要とする暴力革命と、話し合いによって達成できる平和革命の二つだ。さて、僕たちが目指すのはどちらの革命だ?」


 困惑の声が上がる。

 それも当然。僕たちがやろうとしていることはこの両方だ。暴力的な手段を用いて、平和裏に革命を成功させようなどともくろんでいるわけだ。

 平和革命はそもそもが革命によって引き起こされる夥しい流血を理性を持って回避するために登場したもので、革命の根源にあるのは暴力性である。不平不満の反動の高まりは最終的には暴力という形で噴出する。行き場のないエネルギーが荒れ狂う。

 それを巧く誘導し、方向性を持たせることで暴力性を限りなく押さえ込もうというのが僕の考えだ。


「為政者が権力を手放すことを潔しとしない限り、平和革命は成り立たない。しかし、暴力革命ではすでに疲弊しきった国民にさらに負担を強いることになり、後の秩序回復が困難になる。それでは革命を成功させたとしても、その後に課題を持ち越すことになる。

 これらの課題をクリアするには、だ。革命のお膳立てを全て我々の手で成し遂げ、最後の仕上げに国民の奮起を促すという方法を取ることになる。まあ、方法論については後々諸君らと協議を行うことにして…。革命に身を投じる者として、忘れてもらっては困ることがある」


 僕は一度言葉を切って、一同の顔をゆっくりと見回す。

 革命を指揮することを決意してから半年どころか四ヶ月も経ってはないが、それでも共に過ごした時間が希薄なものであったはずもない。一人一人の顔と名前を反芻しながら言葉を重ねていく。


「僕たちが人間であるように、相手もまた人間であることを忘れないでほしい。

 どれほど非道な相手であったとしても、どれほどの外道であったとしても。僕たちは人間を相手にしているということを忘れないでほしい。

 僕たちと同じように笑い、涙を流し、時には怒りもする。そんな人間であることを、決して忘れないでほしい」


 それがどれほど難しいことか。

 反発心と、あるいは憎しみの感情を原動力に革命を画策しながらもそれを否定しようとしている。

 なんという無謀。

 なんという愚行。

 なんという妄想。

 僕はそれを求めよう。

 無理のある高潔を。

 無茶を押し通す理性を。


「僕たちは! この世界に新しい歴史を作る!

 その歴史を血を以って赤く彩るか、その分岐点がこの革命だ。僕たちが暴力に訴え、憎しみで国を奪い取れば次は我が身だ。だからこそ、我々は高潔で誇り高くあらねばならない。その第一歩としての革命だ」


 完全に流血を防ぐことは絶対にできないにしても、それを肯定しない強さを。仕方ないと認めてしまわない、そんな強さを。僕はある人から学んだ。…いや、人間として当然のことに気付かせてくれたというのが正しいだろう。もちろん、"非常時"に"常識"を持ち込むことのおろかさは承知している。それでも必要だと思ったのだ。この世界で新しく語られる、夢が。

 人は前例に倣う。だから、血に染まらない革命が必要なのだと、僕は思っている。だから、無理を強いるし無茶を要求する。


 "新しい革命概念の構築"


 それが僕の狙い。

 言葉すら存在しなかった革命を、流血を伴わないクリーンな政治主体の交代手段とすること。

 国家の側には潔さを、国民には自立心を。それぞれに歩み寄りを。

 そんな絵空事が実現するはずもないが、それでも僕は願ってやまない。なまじ、命の儚さというものを自分自身の身で知ってしまったがゆえに。

 僕は甘い。

 こんな生易しい方法で計画が立ち行くはずがない―――そう冷静に判断している僕が居る。

 きっと、その判断は正しいのだろう。僕は決して正しいやり方を選んではない。美しくはあっても、決して正しくない。

 どれほどの血が流れたとしても、革命を完遂するのが正しい路だ。短期的には大きな損失ではあっても、長期的に見れば大々的な改革は概ね上手くいって国は栄えるだろう。

 でもその道を敢えて僕は選ばなかった。

 その流されるであろう血の多さに、僕はきっと耐えられない。そして失うものの多さに耐えられない。

 だから―――


「いいか。くれぐれも忘れるな。僕たちが人間であるように、相手もまた人間であるということを!」


 僕は声を張り上げた。

 これでもう後戻りはできない。一度口に出した言葉はもう引っ込められない。


「馬鹿め」と笑う自分の声がする。

 馬鹿でも構わない。今までの僕は、理屈をこねるだけで一度も実行には移してこなかった。それを変えるには、今しかないとそう思えるから。

 変革の時が来たのだ。ただ受け入れるだけの変化ではなくて、自分から変わろうとするときが。


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