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三十七話 革命論 二章

 


 厳密には"革命"という単語はグラーフ王国――だけではなく、この世界に存在していないようだ。

 僕はすでに"革命"という言葉を普通に使っていたが、それを皆が理解できないということもなくさしたる混乱も起きなかったのは、意思疎通のペンダントが上手い具合に言葉のニュアンスを翻訳してくれていたからだそうだ。

 そこから導かれる事実は、この世界においては国家の興亡というのは全てが戦争などの外的要因によるものであり、内部崩壊という例はないのだということ。ましてや、政治権力の打倒などは思いも拠らないことなのだろう。

 それゆえに、"革命"という言葉が存在しない。概念もイメージも、全てが無だ。あるとすれば、それは願望だ。

 僕は現状で話し合いのできる人間を集めて革命に望むものを聞き出した。

 リディアが革命に"優しさ"を求めたように、ストラトは"平穏"を。ラフィリアは"公正"を。ジルヴァは"正義"を。レヴェッカは"平等"を。それぞれ求めた。

 それらは革命の内包する重要な要素である。僕の役目はその願いを実現する方策を示すこと。差し当たってはその革命の理念――理想を具現化することだ。



「第一に、市民生活を維持、向上させること。

 とにもかくにも、明日食べる物がきちんと保障されることだ。食べ物がある間は絶望もしなければ自棄にもならない」


「第二に、公平性の維持と徹底。

 生まれや職業で差別されることは許されないし、罪は罪として平等にこれを裁く」


「第三に、行政の改革。

 国家は国民への奉仕機関に徹するべきであって、市民の統制下に置かれるべきである」



 全てを実行できないまでも、志として掲げるには調度良いだろう。

 こっそりと考えている腹案はいろいろあるのだが、それも全てはこの革命が上手く済んでからの話だ。それに物事はシンプルな方が理解が早い。そのくせ、考える場合には様々な意味合いで捉えることができるため、広い見方ができる。議論も白熱するだろう。


「できました!」


 僕が口述していた基本理念を羊皮紙に書き付けていたリディアが声を上げる。


「ん。ご苦労」


 言って、リディアの頭を撫でる。書き物をするために椅子に座っている彼女は元々の背の低さとも相まって非常に撫でやすい位置に頭が来る。…またそれを嫌がるでもなく受け入れてくれるからこそ、ついつい手が伸びてしまうのだが。


「やっと、第一歩ですね」


「ああ、そうだな」


 掲げる目標は、あくまでも指標であって完全に達成することは不可能だろう。

 奇麗事であり、夢想であり、世迷言だ。

 血の流れない革命はありえない。それがまるまる一晩考えた結論だ。

 リディアには悪いが、誰も辛い思いをしないという願いは叶えてやれない。将来的には幸せを掴む人間が涙を飲む人間より多くなるようにするつもりだが、産みの痛みを避けることはどうにもできそうにない。

 私人としては誰一人死んで欲しくはない。…というよりも、僕の指示ひとつで誰かが死ぬという事実を受け入れたくないだけ。しかし、王として――公人としての僕は否が応でも処断を下さなければならないときが間違いなく訪れる。大を生かすために小を見殺しにするときが必ずやって来る。特別秀でるところのない僕には、超人ではない僕には両方を守りきることは出来ないのだ。

 …そのとき、リディアは変わらずに僕の傍に居てくれるだろうか?それだけが不安だった。この柔らかな微笑が軽蔑や侮蔑に変わることに、僕はきっと耐えられないだろう。


「ミノルさま?」


 撫でる手が止まったことを不審に思ったか、リディアが僕を上目遣いに見てくる。


「……リディアは、僕を見捨てたりはしないよな?」


 こんな言い方は卑怯だろうと、僕自身思う。

 優しい彼女が、否定などするはずもないのに。


「そんな悪いことをなさるおつもりなんですか? …ですがご安心ください、ミノルさま。そのようなことをなさる前に、わたくしどもがミノルさまを止めて差し上げますから」


 冗談めかしてリディアは笑うけれど、そうではないんだ。僕が言いたいのは――


「何度でも申し上げます、ミノルさま。

 我が血命と命運の尽きるその日まで、わたくしは貴方様と共にあります」


 泣いて、笑って、苦しんで、その全てを共に。

 その声は真剣そのもので、咄嗟に思いついたアドリブでもでまかせでもないことが察せられた。

 信頼ではない。

 盲従でもない。

 献身ですらない。


「運命共同体というやつか」


 その真意は僕には分からない。

 それでも、最後の最後までお供してくれるというのであればこれほどに嬉しいことはない。人身御供なんてナンセンスだとは思うが、純粋に心強い。右も左も分からない異世界で、常識どころか言葉すら通じない世界で最後の最後まで傍らに居てくれるという。

 これは絆などという綺麗なものではない。鎖であり、楔だ。切ろうとしても切れない関係。投げ出すことも叶わない呪い。

 リディアを見遣れば、満面の笑みと力強い肯定。

 互いに血を流しあう関係になったとしても、共に在り続けようという血盟。

 …いいだろう。リディアが覚悟を決めているのに僕が迷っているなんて格好の悪い真似はできない。ならば、実行の暁にはどこまでも冷酷に冷血に事を成し遂げよう。万難を廃し、新たな国家を建設して見せよう。



「僕も誓おう。

 ――この身命を賭してグラーフ王国に黄金の時代をもたらして見せよう」






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