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三十三話 魔法技術 その壱


すっかり忘れてしまいがちですが、ファンタジー世界です。

それでは今週のびっくりドッキリメカ~~


…ごめんなさい。本編どうぞ

 

 ほんの小さな疑問が僕の中に芽吹いたのは革命マニュアルの作成の合間、安楽室でストラトが用意してくれたお茶で一服しているときのことだった。

 クラウト茶、という結構ポピュラーなお茶なのだそうだ。なんでも、家庭によって味が違うという代物であるらしい。そのために味は千差万別だそうだ。…日本で言うところの糠漬けなんかがそうなのかもしれない。で、その実態はといえば、薬草茶――もっとエレガントに言うならばハーブディーのようなものらしい。何種類ものある薬草を乾かしたものをブレンドして作るためにその配合によって味が変わるのだとか。またその効能もさまざまで、リラックス効果もあれば身体を温めてくれるものもあったりと非常に奥の深いもの――なのだそうだ。

 というのはストラトが熱っぽく語った話。お茶のブレンドはストラトの趣味でもあるらしく、薬草の育て方から効能まで事細かく薀蓄を垂れて、後宮では土いじりができない…と不満を漏らしたりもしていた。

 それは後宮はほとんどの外部要因に影響されない造りになっているのが原因だ。

 完全な環境管理のされた温室のようなものと考えてもらえればいいかと思う。外部からの影響を徹底的に排除するように作られているのだ。それも偏執的なまでの徹底振りで魔術を駆使し外部からの熱の移動すらもシャットアウトしてしまっている。

 中庭から見える青空でさえも実は偽物で、実際の後宮は野球のドームスタジアムのような造りになっていて僕が見ていたのはドームの天井に映し出された幻影なのだという。はっきり言って全く理解が及ばないのだが、つまり魔術によって高度に管理された擬似的な自然空間とでもいうのだろうか。魔術によって光源や空気の対流を作り出して日光やそよ風を演出しているのだという。それどころか、独立した水源を有し尚且つほぼ完全とも言える浄化循環施設が完備なのだとか。

 気温も湿度も常に一定で、最適の生活環境を常に維持されている。それこそ、季節感を喪失させるほどに。


 なんだこのトンデモキャッスル。


「この城は、古代遺跡の上に建っているのですよ。その設備が今も尚稼動しているというだけですな。とてもではありませんが、再現など不可能な高度な魔法技術ですよ」


 古代遺跡。

 魔道技術。

 このところ考えているのが現実問題ばかりでつい忘れてしまいがちになるが、この世界は僕の知っている世界ではなくて、魔法が至極当然に存在しているファンタジーな世界だ。魔法とか言うある意味なんでもありな事象の介在する世界。しかも、その魔法という技術は大昔に大半が失われ今現存しているのはほんの一握りでしかない。

 そしてその一握りから大きく逸脱する技術の塊が後宮なのだ。

 今のところ、僕の力の及ぶ唯一の城であるのにその内情を僕はまったく知らない。

 この、今僕が手にしているティーカップを満たしているクラウト茶を淹れるお湯にしても一体どうやって沸かされているのだろうか。薪か?炭か?ガスか?電気か?それとも魔術だろうか?僕の常識からすれば前者ふたつが最有力だが、リディアにお茶を――もちろん紅茶だ――を頼んだときにはほとんど待った覚えがない。もしかしたら常時保温してあるのかもしれないが、節制倹約が合言葉になっているかのような後宮でそのような無駄遣いが為されているとは思えない。


「なあ、ストラト」


「はい、陛下」


 突如振って湧いた疑問を解消するべくストラトに問いかける。


「後宮の熱源ってどうなってるんだ?」


 瞑目したまま、お茶の香りを楽しんでいたストラトが瞼を持ち上げ、僕を見返した。

 …ちなみに、僕はこのクラウト茶の匂いが苦手だ。日本人らしく、緑茶と麦茶に慣れ切った僕にはどうにも受け入れられない。しかし、健康にはいいそうなので薬と思って我慢して飲んだ。良薬口に苦し、と言うとおり苦い思いをしたが。


「やっぱり、古代遺跡そのままを使っているのか?」


「いえ、少し異なります。古代の技術であることには変わりないのですが、一部再現に成功しているものがありましてな。魔力式の"かまど"がございます」


「へぇ…魔力式」


 "かまど"というのがなんともシュールな響きだが、時代背景から考えると当然ともいえる。

 しかし、魔力という不可思議なものが燃料として使えるというのは便利だ。詳しくは知らないが魔力なんてのは時間によって回復するもので、木材や炭のように回復に何十年と掛かるようなモノではない。非常にエコだ。俄然興味が湧く。


「一体どんなものなんだ?」


「ご覧になりますかな?」


「見る」


 話を最後まで聞かない子供のように即答。

 魔法技術というだけで興味が湧くし、未知のものともなれば冒険心すら刺激されるというもの。


「では食堂へ」


 常にない様子を見せる僕にストラトは笑みを浮かべながら先導する。

 安楽室の向かいの食堂。毎日ここで食事を摂っているわけだけど、思えばその奥がどうなっているかを僕は知らない。

 ストラトの後を追ってついて行くが、そもそもそんなに遠いというわけでもないから現場にはすぐ到着した。食堂のすぐ隣部屋…といっても扉もなく、ただ布を上から垂らして一応区切ってあるというだけのもので、食堂とほぼ同じ広さの厨房がある。イメージとしては旅館の厨房だ。部屋の真ん中に作業台が置かれて壁際にかまどや水瓶などの熱源、水周りが設置されている――ドラマなんかに出てくるヤツである。

 目的の"魔力式かまど"はすぐに見てそれと分かった。壁に半ば一体化するように設置された腰ほどの高さの四角い長方形。上面に火口と思われる窪みも見える。

 それになにより、魔術が関係しているのだろうと一目で分かるようなの紋章が赤いペンキのようなもので描かれている。

 半円や直線、四半円…それらの組み合わさった紋様。

 強い既視感。


「…これは、この国の文字か?」


「然様です。もっとも、今では読み解くことも出来ぬほどに古いものですが。我々、魔術師が扱う呪文と同じ古代語です」


 不用意に触らぬように、と僕に忠告をしてストラトがいくつか連なる魔力式かまど真ん中に立つ。


「陛下、これから少し部屋が寒くなるかもしれませんのでお気をつけください」


「は?」


「ゆきます」


 かまどの中心――紋様が一際細かく、濃密に描かれている部分にストラトが触れるとそれを合図としたかのように、赤い塗料で描かれた文様に光が波紋のように広がり一呼吸置いて全体が淡い光を放つ。そこからは一瞬だった。かまどの火口から強い陽炎が立ち上る。それにつられるように両隣の火口からも陽炎が立ち昇る。しかし――


「…これだけか?」


 正直、少し落胆している。もっとド派手に火炎でも立ち上るものと思っていたのだが、なんとも残念な陽炎が立つだけとは。熱が発生している割には放射熱も感じられない。拍子抜けだ。


「陛下、そちらに片手鍋があります。水を張って持ってきてくださいませんか」


「いいけどさ」


 期待が大きかった分、落胆も大きい。

 魔法技術。期待していたのだが…。

 失意のうちに、壁に吊られている片手鍋を手に取り水瓶から冷たい水を汲んで、脇目も振らずにかまどを注視しているストラトに手渡す。


「陛下、少し離れていてくださいますかな? 危のうございますので」


 神妙な顔つきで、額に汗すら浮かべたストラトに尋常ならざるもの感じて素直にかまどから離れた。


「ゆきますぞ」


 ストラトがゆっくりと陽炎の片手鍋を翳す。

 一秒――変化なし。

 二秒――鍋から蒸気が上がり始める。

 三秒――盛んに蒸気が上がり、ボコボコと激しく沸騰している音が少しはなれた僕にまで聞こえる。

 四秒目にはストラトはさっと鍋を火口から外し、作業台の上に置いた。猛烈な蒸気が厨房の中に拡散していく。


「如何でしたか、陛下。"これだけ"です」


「………」


 僕は戦慄していた。

 圧倒的な火力…通常にあるまじき熱量に僕は言葉を失ってしまっていたのだ。

 ストラトに手渡した鍋は片手で扱うものだが、決して小さくはない。直径20cmほどの鍋でだいたいの容量は3.5Lほど。大体2/3ほどまで水を入れたので2Lほどだろうか。

 それほどのお湯を沸かそうとすればガスコンロでも五分ほどはかかるだろう。

 それがたったの四秒。常識外れとか言うレベルの熱量ではない。それでいて、その鍋を火にかけていたストラトにも火傷などした様子もない。放射熱もまったくと言って良いほどなかった。

 途轍もない技術力に、そしてある種の感動に、僕は打ち震えていたのだ。




一応、その弐まで予定しております。


誤字・脱字、ご意見・ご感想などお待ちしております。

感想など人目に晒すのはイヤ!という方はメールでも結構ですのでよろしくお願いします。



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