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三十一話 革命論 序

 


「なあ、リディア。理想的な革命ってのはどんなもんだろう?」


「は、はいっ!?」


 僕がリディアに素っ頓狂な声を上げさせたのは朝食を摂っている最中のことだ。

 食堂――とはいっても、無駄に長い机の置かれたとかそんな部屋ではない。後宮の個室程度の広さの部屋に調理場が併設されているだけの簡素なものだ。机にしても、ただの六人掛けのテーブルだ。そこに僕とリディアが対面で座っている。

 朝食のメニューはオートミールにサラダと魚の塩焼き、そしてフルーツジュース。もちろん果汁100%だ。

 日本風に言うならば白いご飯とアジの開き、そして味噌汁くらいにオーソドックスな内容だ。グラーフ王国での生活もそろそろ三ヶ月になろうかという頃。正直、白米に醤油や味噌といったものが恋しくなってきてはいるが、特別それを不満に思わないのは間違いなくリディアの努力のお蔭だ。

 ほぼ毎日のように食べるオートミールにしても、ただ粥にするだけではなくナッツやドライフルーツを混ぜたりと色々工夫をしてくれているお蔭で嫌気が差すこともない。変わり映えのしないサラダも、僕から料理に関する情報を引き出してはドレッシングを工夫してくれる。

 そんな心配りの行き届いた毎日の食事は間違いなく、僕を健康にしてくれている。

 油脂類を控え、炭水化物も全粒使用でミネラルとビタミンに優れ、毎食しっかり盛られるサラダは同じくミネラルとビタミンを。そして所々で使われている牛乳などの乳製品はカルシウムを…と、不健康極まる現代日本人が必要とする栄養素をバランスよく供給してくれている。

 栄養学、なんて学問はこの世界に存在しないらしいがリディアの作ってくれる数々の料理は栄養学的観点からしても全く素晴らしいものだった。

 このところ、重点的に行っている身体強化トレーニングにもしっかり身体がついてくるのは多分この食事による体質改善のお蔭だと僕は思っている。

 つまるところ、僕の身体の調子は絶好調であるということだ。それに伴うかのように精神状態も目覚しい復調を見せている。…それでも、全快には程遠いが。


 閑話休題。


 革命の話を突然リディアに振ったのもちゃんと理由がある。

 意識調査、というわけではないが革命をどんな風に思っているのか知りたかったし、なにより考えを纏めるためにも話し相手が欲しかったのだ。


「えーっと…そうですねー」


 口元に運ぶ途中だったスプーンを器に戻して、思案するように顔を上げる。

 "お仕事中"の前髪フェイスガードのためにどこを見ているのかは分からないが、多分視線を彷徨わせているのだろう。最近、僕の前ではすっかり大人っぽくなってしまったリディアだが「えーと、えーと」とか言いながら首を傾げて様子は歳相応でどこか安心する。


「う~ん……そもそも、わたくしには革命というものがよく分かりません…」


 しばらく唸った後に、肩を落としたリディアはそのように答えた。


「ふむ…」


 それもそうかと思い、一つ頷く。

 元より革命は王政に対する反発、政治主体の奪取を目的として起こす簒奪行為のことだ。

 これまで何の疑いをも抱くことなく王政と言う制度が維持されてきたというのであれば、そもそも王政をひっくり返そうと考えたことすらないのだろう。


「でも…」


「ん?」


「誰も辛い思いをしなくて済めばいいな、って。そう思います」


「それは…――」


 無理だろう、と冷静な部分がそう告げている。

 どんなに控えめに考えても人死にの伴わない革命などありえない。熱狂に飲まれ、理性を半ば放棄させるような集団幻想とも言える力が革命にはある。常識で考えるまでもなく、許されないような行為が平然と正当であるように思えるような、そう思い込ませてしまう力がある。優しい気持ちをどこかに置いて来てしまう。


「…そうだな。それが一番だな」


 それは至極当然のことで、忘れてしまいがちになること。

 やろうとすることが大きくなればなるほど、犠牲は付き物だとか、仕方ないとかそんな風に思ってしまう。遠くを見つめていると、足元が見えなくなるように。


「リディアは凄いな」


「は、はいっ!?」


「リディアは、本当に凄い」


「え、ええっ!? わ、わたくしはそんな褒めていただくようなことは何もっ!」


 おろおろと取り乱して、酷く慌てているリディアを見るのも随分久しぶりな気がする。大人っぽい雰囲気を漂わせるリディアも魅力的だが、やはり純真で慌てんぼのリディアのほうがいい。

 リディアが傍にいてくれる限り、僕は正気を保っていられるだろう。革命という熱狂に飲まれずにいられるだろう。


「ミノルさま?」


 いつの間にかリディアが怪訝そうに僕を見ている。


「何を笑っておいでですか?」


「い、いや…?」


 口では否定して見せても、口元は意地の悪い笑みを形作ってしまっているし、腹筋は痙攣の兆しを見せている。…つまり、何処からどう見ても笑っている。


「ミノルさま! からかっていたのですねっ!?」


「い、いや…だから」


「知りませんっ!」


 リディアは頬を紅潮させ、ぷいっとそっぽを向いてしまう。

 僕はといえば、不思議とこみ上げてくる笑いをどうにかしようとするのだが、それがどうにも笑うのを我慢しているように見えてリディアには不興のようだった。




 しかし、お蔭で"教科書"の書き出しの目処は立った。具体的な内容はまだまだだが、まず何よりも大切なことは"自分を見失わないこと"だ。革命という一種のお祭り状態に流されないこと。理性を手放さないことだ。




 追記。

 ちなみに、リディアのご不興を買ってしまった僕はその日半日リディアに口を利いてもらえなかったことと、入れてくれた紅茶がそれはそれは渋かったことをここに報告しておく。



誤字・脱字、ご意見・ご感想などお待ちしております。

感想など人目に晒すのはイヤ!という方はメールでも結構ですのでよろしくお願いします。



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