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二話 これから①

早くも評価をいただきました。ありがとうございます。

お飾りの王様のやることは少ない。

好んで読んだ異世界召喚モノの主人公たちは揃って山のような書類と格闘して睡眠不足に悩んでいたものだが、僕には縁の無い話のようだ。なんといっても、政治に関わるようなことが一切無い。数日に一度、ご機嫌伺いか定期報告のようなものを聞かされるだけ。頭を突っ込もうと思えばきっと難しくないのだろうが、それは命懸けになるだろう。腐った貴族連中というのは自分の利益を損ないそうな存在には敏感だ。過敏とすら言える。――漫画や小説などの貴族像からの推測だけど。

しかし、概ね正解のようだ。施策の報告に来たナントカ伯爵に少し変更してみてはどうかと提案したときの目がそう物語っていた。僕にあるのは召喚王という立場だけ。古くからある血筋でも、救世の勇者でもない。首を挿げ替えることくらい、なんてことはない。いくらでも替えの利く道具でしかない。雁字搦めのお人形マリオネット

もし、国民が一斉蜂起すれば、全ての元凶という事実をでっち上げてスケープゴートにされるのはほぼ確実というオマケつきだ。有難すぎて涙が出る。

だが、今は耐える時だ。

力を蓄えて、念入りに下準備をすることだ。

マッチ一本でも大火事を起こすことは出来る。でも、そんな偶然を期待するのは愚かなことだ。大火事にしたければ空気の乾燥した日を季節を選び、油を撒く。そうすれば確実。そのための、準備。

トランクケース一杯に持ち込んだ宝物が役に立つ日は遠そうだ。こちらの世界に来てから一度も開けることなく、居室のベッド下に放置されている。上手く事が運んで、傀儡から実質の王として立つときが来たならばそれは確かな繁栄を約束してくれるだろう。物語の中の主人公たちが持っているような、身体強化や底なしの魔力は僕には無いけれど、ついでに人望も信頼できる仲間もいないけれど、僕の手の届くありったけのものをトランクケースに詰め込んだつもりだ。

当面、僕に出来ることは勉強と訓練の二つだけ。というよりも、最重要。

この国の文字を覚え、言葉を覚え、習慣を覚えなければならない。

特に言葉は重要だ。

様々な特典がないのはまあ構わないにしても、整合性保持のための言語調和――異世界に居るはずなのに、言葉は不思議と通じる――がないために、大変に不便だ。そのあたりのことは、皆心得ているようですぐに翻訳魔術を掛けてはくれたのだが…これまた効果時間というものがあって度々掛けなおしてもらわなければならないという面倒っぷり。しかも、この魔術。なかなかに高等な魔術らしく、かけてくれた魔術師は結構辛そうにしていた。さすがに、何度も何度も掛けなおしてばかりもいられないと、古代の遺跡から発掘された意思疎通のマジックアイテムが献上されることになった。憎たらしいとばかり思っていた貴族たちだが、このときばかりは心から感謝したものだ。

これで言葉の問題は解決…と思っていたのだが。


「なりませんぞ、陛下」


勉強部屋(本来は執務室だが)に戻るなり、老侍従長にたしなめられた。


「ストラト」


「陛下のお言葉が不自由な間はそれでもよろしい。ですが、この先外国へ訪れることもありましょう。一国の主ともあろうお方が、翻訳魔術に頼っているようでは示しがつきませんぞ」


ストラト侍従長の言は至極真っ当。反論の余地は全く無い。

なので、当面は語学を中心に学ぶことになった。といっても、机にかじりついて文法がどうの、というのではない。意思疎通のマジックアイテムを外して話し、つけては意味を確認する。全く以って非論理的!と叫びを上げそうになるが、確かに一番早く身につくかもしれない。実践英会話、といったところ。

このストラト侍従長。

髪はすっかり真っ白で薄くなりはじめた老境の男性だが、背筋はピンと伸び、眼光にも全く衰えが感じられない完璧な紳士っぷりである。初めて顔を合わせたときはすっかり耄碌ジジィだったのだが――みるみる力を取り戻し今ではこの通り。人間は環境の申し子、とはよく言ったものだ。少しでもだらけた発言をしようものなら生活指導が入る、スーパー侍従長である。更にスパルタ教師の称号もオマケで献上する。

さっき、語学を中心に勉強を…と言ったけれど。

実践会話形式でやる、と言ったけれど。

会話の内容は断じて世間話ではない。その内容すら勉強だ。

その知識の広いこと広いこと。古典文学?の類から地理から法律から。なんでもござれの生き字引。

なんでも王の身辺のお世話は警護も兼ねるようで侍従長自身、高位の魔術師であるらしい。知識の門番たる魔術師が一般人――しかもこの世界の人間に知識で負けるはずも無いが、あまりにも万能すぎる。


「お褒めに預かるようなことではございません。いつか王になられる方のため、知識を蓄えただけに過ぎませぬ」


とはストラトの談。

侍従の鏡といえよう。



…会話が少ない(笑)

そして登場人物がやっと三人です。

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