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一話 孤立

 異世界とやらにやってきてすでに三年がたった。

 状況はなにも改善されていない。

 むしろ悪化の一途をたどっている。

 国民の弾圧。

 過度の重税。

 政治・経済の硬直化。

 さらにそれらに伴った治安の悪化。

 権力機構の腐敗は極限に達していた。

 そういった事情はは召喚の巫女――ラフィリアから聞いていたけれど、貴族たちはそれをおくびにも出さない。


「陛下の御威光は国の隅々にまでいきわたり、平民は皆陛下を尊敬しております」


 彼らが決まって口にする言葉だ。

 惜しみない賞賛と美辞麗句ばかりが並べ立てられる。

 何もしてないないのにどうやったら国民が尊敬などするというのか。

 もし、それが本当だというのなら王であれば誰でも良いのだろう。ただの記号だけの存在だ。などと皮肉ばかりが思い浮かぶ。

 …第二次世界大戦中の天皇陛下もこんな感じだったのだろうか。元の世界にいた頃は思いもしなかったことばかり考えてしまう。

 しかし、そんな耳に心地よい言葉が嘘だと僕は知っている。ラフィリアが教えてくれた。

 けれど僕は何も知らない風を装い、素直に騙された振りをしている。こんなことをしている間にも、本来守るべき国民は苦しんでいる。それでも、なにもできなかった。

 まだ。

 今は―――


 *   *   *


 グラーフ王国。

 それが僕の治めるべき国の名前だった。

 決して大きな国ではないながらも、広い海岸線を有しまた国境でもある巨大な山脈が鉱物資源と豊かな水をもたらす。地理的にはかなり恵まれた国だといえる。海流の影響である程度の四季もある美しい国だ。

 そのような豊かな条件を兼ね備えている割りに今まで他国の侵略を受けたことが無い。というのも、豊かな実りをもたらす海流は急で、海底の地形からか酷く潮が読み難いことから一国を襲うほどの海軍を投入できないこと。そして陸路は巨大な山脈が行軍を阻むかのように聳え立ち、大規模な行軍を極めて困難にしていることがその理由だ。更に、国境山脈は神代の時代から生き続けるエンシェントドラゴンの縄張りであり、そこを軍団が通るのは困難だとされている。縄張りをあらされて怒らないほど、エンシェントドラゴンは大人しくはない。

 そんな事情があって、グラーフ王国は腐りに腐り、乱れに乱れているにも関わらず、他国からの侵略を受けずにいる。本来なら国の腐敗は他国の侵略を許すきっかけとなるために、自浄作用が働く。ある程度の不正はあるにしてもあからさまにはならない。

 しかし、この国は違う。

 海と山に守られ、かつ豊かであるために本来は自戒し国をより発展させるべく働く貴族たちが私利私欲に走り、富と権勢の我欲を満たすために暴走を始める。そして、そういう奴等は悉くがその富を手放すまいとして結託する。法を歪め、金に飽かせて道理を捻じ曲げる。…そしてそれを止める術は民にはない。国の腐敗は政官財が結託して完成する。

 僕が召喚されたのは、そんな国だった。

 一見、大切にされているようで毛ほども価値を見出されていない。あるとすれば召喚王としての未知の知識による新たな権勢。召喚された僕が持ち込んだトランクケースを見る目は暗い情熱を宿した目だった。…なんにしても、欲の塊でしかない。

 味方は全く居なかった。

 宰相も近衛の騎士団長も、宮廷魔術師も。全てが金で地位を買ったようなやつらばかり。唯一、国王不在の間閑職として干されていた侍従長くらいのものだった。その彼にしても、権限の大部分を削ぎ取られ今は居ない国王の身辺のお世話とこれまた誰もいない後宮の管理を行うのみで全く政治に関わることは無かった。悪いことはこれで終わらない。召喚して早々に巫女ラフィリアとは引き離され、後の報告によれば召喚の術による無理が祟り間もなく死亡したという。十中八九、殺されたのだろう。虚偽か真実かを確かめる術は僕にはないけれど。とりあえず、僕としては一番信頼できるはずの人を、何かが始まる前に失ったらしい。それともこれは警告か。"我々の利益を損なうような真似をするならばお前もこうだ"ということか。


 元居た世界も地獄なら、逃げ出した先の世界も地獄で当然。

 でも、抗う術はある。お飾りでも王は王だ。

 社会の部品から、社会の意思を操作しうる立場。

 状況は正に最悪。

 国の傾きを直すどころか、改革の基盤を作ることからはじめなければならない。

 それよりも先に、快適な生活環境からだろうか。


「まあ、精々引っ掻き回してやるさ」






主人公の名前を出し損ねてタイミングを見失った(笑)

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