十六話 続・悪巧み
「企みがバレたらどうするの?」
至極あっさりと、一番嫌な懸念を口にしてくれるのはラフィリアだった。
大体、隠密作戦なんてのは規模が大きくなればなるほど発覚しやすくなるものだ。当然、そのあたりのことも考えてはある。
「バレたら、とりあえず僕は助からないな。でも、安心してくれていい。作戦は失敗したときのことも考えての二段構えだ。その時は、内戦ってことになるだろうけどね」
不満の種はもう撒かれているのだ。僕は、それを芽吹かせてやるだけでいい。
「なんにしても、発覚は遅ければ遅いほどいい。後は野となれ山となれ、だ」
「そんな適当でいいの?」
「いいんだよ。やり方さえ示してやれば、そのうち起こる事だよ」
「…まるで他人事ね」
「他人事だよ。実際に革命を起こすのは僕じゃない。命を賭けるのも僕じゃない。やるもやらないも、国民次第さ」
「……」
冷たいようだが、それが真実だ。
道筋を書いて、準備を念入りに行っても、実際に行動を起こすのは僕じゃない。
現状に不満を持つ一人一人の国民だ。
皆が一様に口を閉ざして僕を見る。そのまなざしに込められている思いはどんなものなのだろうか。…まさか、尊敬ではあるまい。
勇者として召喚されていたのであれば、その力を求心力に革命勢力として台頭できたのかもしれないが――僕は王だ。力を持たぬ王。しかし、王であるが故にできることもある。
血を流すか、流さないかという選択だ。
「もし、バレずに上手くやれたら国中の貴族を集めてでっかい祝賀会をやる。そこを強襲してもらう。そうすれば被害は最小、効果は絶大――悪くはないだろう?」
「できることをやる、ってわけね。それでわたしはなにをすればいい?」
「ラフィリアは転移魔術で飛び回ってもらうことになる。異種族の里を廻って顔を繋いでおいてほしい。それと、貴族連中が彼らに手を出さないように監視するのと、市民組織の監督を頼む」
「りょーかい。詳しいことは後で聞かせてね?」
「ん。ストラトはさっきも言ったように、王城内の情報を集めてもらう。あと適当に人にも声を掛けておいてくれ。使えるかどうかは僕が見る」
「御意に」
「リディアは、普段どおりの仕事と後宮の管理を任せる。人も増えてくるかもしれないが、僕の名代として、好きにやっていいから」
「は、ははは、はいっ! がががが頑張りますっ!」
リディアにはいきなり荷が重いようにも思うが、やってもらわなければならない。誰かに負担を集中させるわけにもいかない。
「陛下はどうなされるのですか?」
「僕は人材教育と、自分の教養と、訓練と――あとは道化かな」
「道化?」
「うん。貴族連中に僕が無害だと思ってもらう演技と、利用価値のアピールかな――特別な力はないけど、知識だけは蓄えてきたからそれを餌にさせてもらう」
「…異世界の技術」
三人が息を飲む。
ラフィリアはその片鱗を実際に見てきてはいるが、それがどのような意味を持つのかは知らない。ストラトとリディアには想像すらできないだろう。
とはいっても、考えなしに知識や技術をばら撒いたりはしないし、またできないだろう。日本での生活は高度な科学技術によって支えられている社会であって、身近な製品ひとつであってもとんでもない技術が惜しみなく使われているのだ。この世界では実現できないものも多い。いや、むしろほとんど役に立たないだろう。
それでも、異世界の技術というだけ価値がある。それがある程度、身を守る盾にもなってくれるだろう。
僕はひとつ拍手を叩き、逸れた注意を引き戻す。
「以上で作戦会議は終了! はい、各自行動に移る!」
「貴方はどうするのよ」
「僕か? 僕は寝る。筋肉痛でもう動けないし」
真剣なムードは一気に霧散し、白けた視線が僕を射る。が、動けないものは動けないのだ。
僕は柔らかなベッドに身を投げた。
中身が薄くて申し訳ありません(陳謝)もう少し文章量があれば…とは思うのですが…。なかなかどうして、頭が回りません。
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