十三話 再開
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これからも頑張ってまいります!
どれくらい時間が経ったのだろうか。
もしかしたら寝ていたのかもしれない。
いくら考えてもなにも思いつかない。僕自身が、どうしようもなく薄っぺらい。
一体何をしてるんだ、僕は。部屋はすっかり暗闇に沈んでいた。
「そうね。一体、こんなところでなにをしているのかしら、亡命者さん」
渋い、重低音でも。
心地よい陽気の様な声でもない。
凛とした涼やかな声だった。
その声を聞いたのはそんなに昔のことじゃない。いや、つい最近のこと。ほんの数日前のことのはずだ。
「ラフィリア?」
召喚の巫女――ラフィリア・ヘルゴラント。
僕が逃亡者であることを知っている、この世界では多分唯一の人物。
「ええ、そうよ。霧島稔。貴方をここに連れてきたラフィリアよ」
「そっか。無事で何より――彼氏には会えたか?」
「お蔭様でね」
声はすれど、姿は見えず。
一寸先すら見えない濃密な暗闇が辺りを覆っている。
「死んだって聞かされてたけど、大丈夫だったんだな」
「ええ。貴方のお蔭で殺されずに済んだ」
「そいつは良かった」
これは、心から。
少し話を聞いただけでも、新たな国王が歓迎されるような印象ではなかったから、召喚の直後は気をつけるように言っていたのが功を奏したらしい。
ラフィリアとは、お互いに傷を舐めあった――愚痴や不幸自慢の類でしかなかったけど、不満をぶちまけあった――そんな不健全な仲だ。
若い身空で国王探しなんて大役を押し付けられ、順調だった彼氏とは引き裂かれ、やってきた異世界では絶望の連続。変な連中に絡まれたこと数知れず。挙句、十年もの年月を彷徨うことになった。――不幸中の幸いなのが、現実には召喚は一瞬で探していた十年という時間が実年齢には反映されない事だと笑っていたっけ。
こちらの世界に来る前に、最後の贅沢とばかりに二人で美味い物を食って酒を飲んで二人仲良く潰れたのだった。
人間らしく話をしたのが随分久しぶりだったこともあって、良く覚えている。
「それで、貴方はなにをしているの」
「ご覧の通り、しょぼくれてるよ」
「待遇は厳しい、って言ったでしょうに」
「いや、そうじゃなくてさ」
言葉に詰まる。
僕がどうしたいのかなんて、ラフィリアが知っているはずもない。
それでも、彼女の前でそんな気遣いや遠慮は無意味だろう、愚痴仲間だ。
「僕は何をしたいんだろうな」
言った。
言ってしまった。
バイト先の愚痴とか、日本の社会が歪なんだとか、色々責任転嫁しまくった愚痴や泣き言を散々言い合ったラフィリアだって、さすがに呆れるだろう。
「はあ?」
予想通り、素っ頓狂な声があがる。
そりゃあそうだ。僕だってそうだ。
でも、帰ってきた答えは意外なもので。
「貴方、散々わたしに言ってたじゃない。楽園を作るぞー、だとかなんだとか。よく覚えてないけど」
楽園。
ああ、言ったかもしれない。自分の怠慢を全部棚上げして、この社会が間違っているんだ叫び、喚き散らした世迷言だ。
誰もが夢と希望を持って、それを誇りに思い一直線に走り抜けられる――そんな楽園を。
夢も希望もついぞ持つことのなかった、僕の夢物語。到底、実現不能な妄想。
「――ああ、そうだっけ」
「そーよ。思い出した?」
「うん。思い出した」
目の前にある困難に圧倒されて、芽生えかけていた夢を見失っていた。
「王様になって、好き勝手に国を作り変えて、楽園にするんだっけ」
僕の生き易いように、僕の我侭のままに、やりたいようにやる。そんな子供染みたことを考えていたっけ。
そうだ、僕にも"やりたいこと"はあった。勢いのままに喋っていた全てを実現はできないまでも、それは明確な指針。
「お、ちょっとイイ顔するようになったかな?」
「かもな」
「では、感動のご対面といきましょうか!」
眩い光に目が眩む。
辺りを埋め尽くしていた闇が一転光へ変わる。
思わず目を覆った僕を、ラフィリアが笑っている。チクショウ、いいように遊びやがって。
でも、感謝している。一番大切なことを気付かせてくれた。
僕と同じ、黒髪の巫女は。悪戯っぽい表情を浮かべて笑っていた。
見覚えのある鍛錬室。
たった数日で見慣れた改造紅白袴。
そしてここ数日で浮いたり沈んだりの激しい僕。
でも、ようやく。本当に落ち着くことができそうだ。
仕えられる対象でもなく。金の成る木でもなく。ましてや、国王などでもなく。
ただ一人の人間、霧島稔としてやっていく。
その足元が固まった。そんな気がした。
陰鬱なお話はここまでです。…多分。
ようやく、物語が開始といったところです。随分、遠回りをしてしまった(苦笑)
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