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十二話 真実

 


 この国をどうしたいのか。


 それは物事の本質を穿つ言葉だったように思う。

 僕は名ばかりとはいえ国王で、ある意味この国を自由にすることの許された存在だ。

 欲望のままに国を食い荒らそうとも、名誉欲のままに名君たろうとすることも自由。

 今は自由に身動きができないまでも、本来的に一国の王というのはそういうものなのだという事実をリディアは僕の目の前に突きつけた。彼女にそのつもりはなかったとしても。


 そして――僕はその答えを持ち合わせていなかったのだ。


 僕は「長くなるから、後でな」とか言って、その場を誤魔化して逃げるように安楽室を飛び出した。

 全く、自分が嫌になる。鍛錬部屋にしているなにもない広間に飛び込んで鍵を閉めた。


「くそ、そうかよ。チクショウ」


 拳を握って、ドアを殴りつけた。

 力一杯殴りつけたのに、しょぼくれた音がひとつ響いただけで頑丈なドアはびくともしない。

 そうだ。

 僕はただ逃げ出してきただけなのだ。

 日本に還りたいわけでもない。

 この国を良くしたいわけでもない。

 ましてや、苦しんでいる国民を助けたいわけでもなかった。

 全て、ただの義務感からそうしなければいけないと思っていただけ。

 安っぽい正義感からそう思っただけ。

 そこには僕の意思なんてものは微塵も存在していない。

 答えられるわけがなかったのだ。

 明確な目標なんてなにもない。未来像ヴィジョンなんて欠片も持ち合わせていない。

 日々の生活に追われるばかりで、そんな夢想を膨らませている余裕なんてなかった。…いや、これはただの言い訳か。大学に在席していた頃だって、将来のことなんて漠然としか考えていなかった。就職活動だって、そうだった。


「志望動機とか、苦労したっけ」


 "やりたいこと"なんてなかったのだ。だからなにもできなかった。現状を変えようともしなかった。そのくせ、現実から逃げ出そうとして、こんなところまできた。

 僕は――どうしようもなく薄っぺらい。風が吹けば飛んでしまうようなそんな人間。

 通りで、なにかをやろうと思い立っても上手くいかないわけだ。目的意識がないから、その意思を貫き通せない。臆病なばかりで尻込みする。僕は慎重だったんじゃない、ただ臆病だった。


「陛下」


 ドア越しに声が掛かる。


「…ストラトか」


「なにか、ございましたか」


「リディア、何か言ってたか?」


「血相を変えて私の元へ飛んで参りましたよ。『わたくし、なにか粗相をしてしまったのでしょうか』と」


「そっか。心配、かけたな…」


 全く…主としてこれほどまでに酷い奴はそうそういないはずだ。


「なあ、ストラト」


「はい」


「国王って、どこまで我侭になっていいんだ?」


「お好きなように、なさりたいようになさってよろしいのですよ。

 元より、国王を召喚するということ自体、国民の望んだことでありますから、それ相応の覚悟はありましょう」


 既に状況が最悪なのだから、これ以上最悪にはならない。ということなのだろうか。

 誰が、どんな奴が王になるか分からない"召喚"などに国を委ねるだけの覚悟があるというのか。しかし、結果的にそれを望んだということは仮に今以上の最悪が降りかかることすら受け入れたともいえる。


「好きなように、か。

 僕には難しいな」


 良い成績。

 良い学校。

 良い会社。

 そんなレールの上を誰に強要されるでもなく走ってきた。

 アレもダメ。コレもダメ。そんな雁字搦めの社会の中では、そんなありきたりなレールの上を走るのが一番楽だった。何も考えなくても、目標が目の前にあったのだ。…最終的に、僕は脱線してしまって動けなくなってしまったけれど。


「ははっ、ダッセェなあ……」


 色々とダメな部分を露呈しっぱなしの僕だけど、今回ばかりは極めつけだ。

 僕は一体なにがしたいのだろう。

 しなければならないことと、したいことは違う。

 僕はこの国でなにをしたいのだろう。

 この国を――どうしたいのだろう。

 ドアを支えに、僕はずるずると座り込んで頭を抱えた。

 扉の向こうにいるストラトにも、どこかで泣いているかもしれないリディアのことも、気にする事ができないくらい、僕は悩んでいた。


上がったり下がったり忙しい奴です。

でも、ミノルは被害者なのです。私の。思いつきのままに書いていた形だけの主人公、空っぽの主人公だったのです。この場を借りて、懺悔を。


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