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九話 メイド

 


 結局、昨晩は明け方まで眠れなかった。

 それでも、気分は随分落ち着いた。顔色は良くないかもしれないが、調子は悪くない。前日な急激な運動の反動が来ていないことを思うと、筋肉痛は夕方か、明日辺りだろう。そんな到来確実な未来はさておいて、肉体改造ギプス(チェインメイル)を着込み、上着を羽織れば国王陛下の完成だ。

 と、ちょうどそのタイミングでドアがノックされる。


「陛下、起きておいでですか」


「ストラトか。起きている、入ってくれ」


「失礼いたします」


 ドアが開いて、立派な壮年の紳士が現れる。が、そこまでで部屋にまでは入ってこない。

 疑問に思い、問い質そうとしたところ、タイミング悪くストラトの声と被って尻すぼみに。


「先日受け賜りましたメイドのお目通りを願えれば、と存じます」


「あー、はいはい。構わんよ」


「それでは――失礼のないようにな」


「は、はいっ」


 ストラトのが背後に向かってなにやら話しかけている。多分、そこに件のメイドさんがいるのだろうが――ストラトがでかくて見えない。


「し、失礼いたしますっ」


 ストラトの後ろから現れたのは、小柄の長い金髪がとても印象的な女の子だった。ちなみに、この小柄というのは僕の主観。僕の身長167cmを基準として測ってみても随分小柄だ。150と少し、といったところか。髪は腰ほどまでで、金糸のように細い。…少し残念なのは前髪までも鼻梁にかかるほど長いことだ――が、全体的なパーツから推定美少女。ようやく異世界ファンタジーっぽくなってきた、と言ったら不謹慎だろうか。


「お初におめもじいたします。わ、わたくしは此度陛下の身の回りのお世話をさせていただくことになりました、リディリシア・ロートリンゲンと申します。リディア、とお呼びくださいませ」


 酷く緊張しているようで、つっかえも噛みもしていないが音の上がり下がりが激しい。正直、後半の名前くらいしかちゃんと聞き取れなかった。ガチガチのくせにわたわたとしている様がとても可愛い。なんというか、小動物のようで見ていて和む。


霧島稔きりしまみのるだ。こちら風にはミノル・キリシマか。よろしく、リディア」


 僕は、この世界で始めて、自分から名を名乗った。


「は、はいっ! 至らぬことも多々在るかと思われますがっ」


 ばっ、と勢い良く頭を下げる。その動きに釣られるように舞う髪を自然と目で追ってしまったりして――気がついた。


「…エルフ?」


 その、人間より長く、尖った耳に。


「はいっ」


 快活に。はっきりとそう答えてくれるが、それでは要領を得ない。


「ストラト?」


「お話しましょう」


 今まで僕らのやりとりを微笑ましげに見ていたストラトが応じる。

 というか、たった数日で僕の行動にすっかり合わせてくれるあたりにストラトの年季を感じる。


「彼女――リディアは取替えっチェンジリングなのですよ」


「チェンジリング?」


「はい。彼女の両親は我々と同じ人族ですが、稀に異種族の子が生まれることがあるのですよ。

 その昔には、妖精が悪戯をして子供を取り替えて行ったのだと言われ、今でも取替えっチェンジリングと言われているのです。実際には、ただの先祖還りなのですが、他国では未だに忌み子とされたりするそうですが…」


「へぇ…」


 改めてしげしげとリディアを見る。

 エルフといえば、理知的で素早い動き――というのがイメージだが、なるほど。リディアにはそれがない。…いや貶してるわけじゃなくて。

 僕はおもむろにリディアに近づき、頭に手を伸ばす。

 リディア本人はもとより、ストラトも「なにをするんだ、こいつ」みたいな目で見ている。や、リディアはただ緊張で硬直しているだけかもしれないけど。

 そっと邪魔なカチューシャを外し、頭を撫でる。さらさらの髪といい、適度な頭の位置といい、申し分ない。


 なでり。なでり。なでり。


 部屋を満たす微妙な空気も解せず、頭を撫でる。


「あ、あのー? 陛下?」


 控えめなリディアの主張ではっと我に返る。いかん、和んでしまった。


「あー、すまない。なんでもない」


 ごほん。と、微妙な空気を追い払うかのようにストラトが咳払い。

 ああ、でもいいなあ。この娘、すっごい和む。イメージはウサギだろうか。


「…続けますぞ?」


「頼む」


「我が国では、チェンジリングにも変な迷信も偏見もありませんから普通に家族として共に暮らしていたのですが、彼女の両親は昨年流行り病で亡くなりました。一人っ子でしたので、他に身寄りもなく。彼女の両親の友人であった私が面倒を見ていたのですよ」


 なるほど。ただ無意味に暇をしていたわけでもないらしかった。

 リディアの身に降りかかった不幸を思えば、喜べないが一番信用のおけるストラトの友人の娘ともなればこれ以上は望めないほどの好人物だ。人も、条件も。しかし――


「リディア」


「はいっ」


「リディアは、主が僕でいいのか?」


 何の気はなしに、手に取ったリディアのカチューシャはまだ僕の手の中にある。

 彼女は理解しているのだろうか。僕に仕えるということは、否応なしに厄介ごとに巻き込まれるということだ。一蓮托生、とまではいかないにしても平穏からは程遠い生活になるだろう。そんな気持ちを込めて、彼女に問う。


「勿論でございます、陛下」


 彼女の口元に笑みが浮かぶ。

 分かっているのか、いないのか。意思疎通のペンダントが、いろいろな考えを伝えているはずなのに、嫌な顔ひとつしない。本当にいい子だ。


「リディリシア…えと?」


「リディリシア・ロートリンゲンです、陛下」


 フォローもばっちり。

 少し離れたところでストラトが台詞を取られて悔しそうにしている。


「リディリシア・ロートリンゲン」


「はいっ」


「改めて、よろしく頼むよ」


 言って、カチューシャを再び頭に載せてやる。

 リディアはそれを少し頭を下げることでそれに応えた。


「我が血命と命運の尽きるその日まで、お仕えいたします。ミノル・キリシマ陛下」



期待の新人です。一話でいきなり退場したラフィリアに代わりましてエルフメイドの登場です。オッサンばっかりの異世界ファンタジーからようやく脱出、といったところでしょうか。

そういえば、主人公の名前が出たのもこれが始めてだったりします。はてさて、これからどうしたものか(笑)


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