プロローグ
「小説家になろう」を読み荒らしていたら急に書きたくなったモノです。
突発的、衝動的に書き始めたのでいつ止まるかは気分次第!
異世界召喚。
漫画や小説ではメジャーな一ジャンルとして確立されているそんな現象に立ち会う機会ってのは、決して多くはないと思う。
それは現世界との隔絶を意味するから。
家族。友人。恋人。
地球。社会。家庭。
それらからの断絶を意味する。
たった一人、異世界への旅。
帰還の見込みは無い、片道旅行。
それは、現世での死とほぼ同義。
そんな愚かしい世界に飛び込んでいける馬鹿は、そんなに多くは無い。
余程の豪気者か。
馬鹿馬鹿しいまでの正義の味方。
そして、逃亡者。
僕は、ただ逃げ出したいだけの逃亡者だった。
* * *
大学を卒業はしたものの、就職に失敗。そこからは分かりやすい下り坂が待っていた。
折りしも、空前の大不況。新卒者ですら就職が困難なご時世に就職浪人の僕が就職なんぞできるわけもなかった。一日の大半をアルバイトに費やし、なんとか毎日を生きている。そんな状況。覇気や生気なんてのは失われて久しい。特に落ち込みの酷いときに思い出すのは、いつかに出会った少女。
「国を救ってくださる方を探しています」
そんなことを真剣な表情で語って見せた少女。
高校三年の頃だったか。受験勉強で鬱屈していた僕にそんな風に声をかけてきたのは。
なんの新興宗教だ、とそんな感想を抱いたのが最初だった。でも、それでも気分転換くらいにはなるかと思って色々と聞いた。……紅白袴の改造巫女衣装のコスプレ姿の胡散臭い女ではあったけれど、日本人離れした容姿と風貌は見ているだけで眼福モノだったから、というのが一番の理由だった。
彼女の口から語られたのは異世界召喚モノのテンプレート(お決まり)。
曰く、彼女の王国は代々国王を異世界から召喚して、その知識と教養をもって発展してきたのだという。そして王が亡くなり、次代の探しているのだという。もちろん、魔法で。
高校生だった僕は、気晴らしとばかりに色々なことを聞いた。
地理。政治。社会体制。思いつく限りのことを聞いた。
それが真実かどうかはどうでもよかった。それが彼女の想像の産物であっても、聞くだけの価値があった。真実、納得させられるだけの重みがあった。
「私の国を、救ってはくださいませんか」
僕は、その求めに応えることは無かった。
巻き込まれる形での召喚ならば、散々わめき散らした後にでも最善の方法を模索するくらいのことはしたかもしれない。しかし、選択肢が与えられているのであればそんな誘いには応じられるはずも無い。
勉強漬けの毎日は確かに苦しいが、無事に合格すればめくるめくキャンパスライフが待っている。そんな不確定な世界に、命の遣り取りをしなければならないような世界に自分から飛び込んでいくような真似ができるはずもなかった。その時の僕には。
それから十年。
楽観的な希望など全く失ってしまった僕の前に、そいつは再び現れた。
全く変わらない容姿とは裏腹に、すっかりとくたびれてしまった表情。彼女もまた、失意のうちにこの年月を過ごしてきたのだろう。後姿が、それを雄弁に物語ってた。
「やあ」
彼女は緩慢な動きで振り返り、力のない瞳が僕を見据える。
十年前はあんなに輝いていたのに。
「ああ、いつかの」
彼女もまた、覚えていた。
「国王様は見つかったかい?」
「いえ、誰も」
彼女はゆるゆると首を振った。
「それじゃあ、立候補してもいいかな」
「…何にです?」
「貴女の国への亡命者として」
「待遇は厳しいですよ」
「構わない。少なくとも、この世界よりは有意義だろう」
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