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京朔  作者: しゅん
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再会、はじまり

明くる年度。4月1日。入学式。え?どこに入学したのかって?それはもう、第一志望合格だ。飛ばしたけど、合格のふた文字をパソコンのディスプレイで見た時は、家族と共に飛び上がった。いや、それはもう文字通りに。

ただ気がかりなのは、

「”あの人”この学校なのかなあ」

そう。“あの人”。僕は今名も知らぬ1人の少女が気になっている。会えるかもわからない。それでも、少し希望を抱いてしまうのは良くないことだろうか。

流石に試験日もこの学校にはきているので、なかなかスムーズに学校には着けた。この学校では指定の制服があったのだが、志望するときに確認していたようになかなかセンスがいい。なんでも、世界的ファッションデザイナーが手掛けたとか、なんとか。まあなんにせよ、そんなセンスのいい学校を選んだ人たちとこれから学校生活を送れるのだと思うと、少し、なんだか高揚感に包まれる。

「15番!榊京かしわけい。」

呼ばれてはっと視界のぼやけが晴れる。そうだ。今は入学式なのだ。気づかぬまに禿げた校長の話も終わって点呼の時間になっていたらしい。

僕は慌てて立ち上がる。

「はい!」

入学式の点呼は大きな声で返事をするものだと母に習った。

..他の入学生が怪訝な目で僕を見る。

あれ?間違っていたのか?!

仕方なく僕は頭の中で母をこづいて叱る。

赤面しながらおずおずと椅子に戻ると少し誰かに視線を送られたような気がした。少し視線を動かしてみたが見つからない。

流石に式典中に体を振るわけにもいかないので僕はため息をひとつ吐いてから前を向く。

一体誰だったのだろうか、という疑問がひとつ静寂の式典にポツリと放たれた。

ただ最も気がかりだったのは、聞き逃しでなければ“あの人”の声は点呼中なかったように思えたことだったー。

緊張した面持ちで、校長先生のお話?を聞く。年は60代、といったところだろうか。少し間に皺がよっていて、あと..少し髪が薄い。話は固い。入学前ではかなり自由な校風と聞いていたので、少し驚きを覚える。15分くらいだろうか。私の通っていた中学に比べれば、校長の話にしては短いと思える方だ。

うちの学校おかしいのか..?

話し終えると、司会が、次の出席点呼に移らせる。

少し心を落ち着かせてから、新入生もとい、同級生の名前はどんなものなのかと、少し耳を点呼に移してみる。

『5番。安藤喜代あんどうきよ』キヨって珍しいな。YOuTuberかよ。

『8番。大野差巣』さすて。いやさずて。

よくない、よくない!こんなの、今の時代、炎上だよ..。

己の偏見に私はばつ印を下す。

そんなか、ふと一つに人物の声に、一気に私は現実味のない、脳内の世界から引っ張り出される。

『15番。榊 京。』

名前を聞いた時は何もない。ただ、その声を聞いた瞬間、私の記憶がフラッシュバックする。

あの時、助けてくれた、そのh..!え、会えた...!会えるんだ!よかった。会えるもんなんだ(?)

しばらく興奮するための数分が経ち、私は冷静に回想をする。背景では未だ点が続いている。

名前は榊くん。京くんか...。

少し耳が赤くなってしまう。想い人の名を知るだけでこんなにも嬉しいものなのか、と...。

ん!?...想い人!?い、いつから、か、榊くん?のことがす、好きとか!

そして思い出す。あの本のタイトルを。

結局耳だけでなく体の芯から熱くなってしまうのであった。


結局その日といえば、そのくらいで、自ら榊くんに声をかけるなんて気は一向に起きる気配を見せず、終わってしまったー。

4月某日。今日は新入生初の登校日である。

「はぁ、はぁ....初日から遅れちゃった。」

下駄箱の前のクラス分け表にはもうすでに多くの人が溜まっている。

私は後ろの方から、ただでさえ小さい背に加えて少しの背伸びだけをする。全然見えない。

でも、ヒロインが困っていたらヒーローは現れる。それが物語。

「あの~、大丈夫..ですか?」

あの時と同じセリフ、声質。間違うわけもなかった。今度こそは間違えない。そんな決意と共に私は、その質問に一つの回答を用意する。

「...はい!助けてください!」

愛も変わらずな快晴。そんな日の朝であった。私と彼との物語の本当の意味での始まりは。

早めには学校に来た。でも一の希望に縋って僕はある人を探していた。

「まだ時間はある。もう少しだけ..。」

もしかしたら遅れてくるかもしれない。

自分でもおかしいとは思う。だって、名前も知らないんだ。

入学式でも名前は呼ばれていなかったし。自分でもなぜこんなことをするのかわからない。

でもきっと、僕をこんなにも突き動かすのは、運命だなんて馬鹿げた妄想だろう。

まるで、悲劇の主人公とそのヒロインとのように、どうしても、なぜか、会いたかった。

「はぁ、はあ…。初日から遅れちゃった。」

「..!」

背伸びを、して、いる...!

い、いやそんなことはいい。

会えた。いた。本当に。

思わず相手の腕を掴みそうな僕のわがままな恋心を抑えて僕は必死に理性で声をかけてみる。

「あの~、大丈夫..ですか?」

さあ、京、正念場だ、そんなことを思いながら..。

【2話 終わり】

お読み頂きありがとうございます。

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