9 エピローグ
〈ビクトール視点〉
地震で宿が潰れた。俺は1階にいて、潰れた梁の下敷きになった。
でもそのせいで、アヴィオールに出会った。
奇跡の聖女。
闇オークションの情報を得て、俺は聖石を隠し持っている者を罰しに来た。
でもそれが彼女だと知って、もう何だか、どうでもよくなった。
懺悔しながら治療するってどういうことだ。笑ってしまう。
【聖石】はちゃんと神殿で使ってたし、まあいいかと思ったけど、王太子妃を狙ってるって話が出てきて、やっぱ罰は必要かと思った。
しかし、公爵がきちんと謝罪して石も返すという、なんか肩すかしを食らった感じだ。
選定会で彼女は、「私は偽聖女です」って笑って言った。腹の底から笑える女だと思った。
俺は決めた。アヴィオールは俺がもらう。
俺の蘇生で【聖石】は空っぽになった。
俺の懐にあった聖石は、アヴィオールの祈りに反応して、勝手に聖力を全放出してしまった。
だからアヴィオールを「責任者」として連れ帰った。
今は毎日プロポーズしてる。断られてるけどな。
俺はしつこい男なんだ。
アヴィオールが首を縦に振るまで、諦めない。
*******
今、私はハーレン国のビクトールの宮に住んでる。朝は鳥の声で目が覚めて、昼は【聖石】に聖力を流して、夜になると殿下が花束を持ってやってくる。
どうも彼に囲い込まれてしまったようなの。
「アヴィオール、今日の調子はいかがかな」
「気分は上々、聖力はイマイチよ」
私の役目はもう“癒やしの聖女”でも“王太子妃候補”でもない。ただ、石に聖力を戻す係。
ちなみに石の正体は竜の魔石。王家に嫁いできた初代聖女が、一生かけて浄化し続けたんだって。
私は無断で2年使い倒して、ビクトール様の蘇生にも使われて、空っぽになった。
なので、いま、せっせと補充中。
「≪懺悔≫しながら聖力を注いでるけど、さすがにネタ切れ気味なのよね」
「もう声は聞こえないんだろ? じゃあ、≪感謝≫でもしてみたらどうだ」
「感謝? 誰に?」
「俺になんてどうだ。運命の相手に出会えてよかったです……ってな」
「……わりと悪くない案だわ。でも、結婚はナシで」
──正直、タイプじゃないのよ。年上だし、王子様なのに、筋肉質で騎士様のような風貌。
エドワーズ殿下は中性的で甘いマスク、私と同じ年。中肉中背で威圧感が無いのも好ポイント、初恋の大好きだった人。
「まだエドワーズ殿下が好きなのか?」
「ううん、今は……ビクトール様の方が、好きよ」
毎日口説かれるとね、タイプじゃなくても、好きになるわよね。
【聖石】を2年間使い込んだのを見逃してくれるよう陛下に頼んでくれたのもビクトール様だった。
口は悪いけど優しい人。
「俺は気楽な第四王子で受け取る爵位も低いけど、浮気もしないし腕っぷしも強い! 買い得だろ? 俺」
「うん、命がけで助けてくれたものね。……でも、私って悪女よ?」
「今は俺の聖女だ」
……なによ、それ。
「……無精ひげ、ほんと苦手なの」
「今日も剃ったぞ。触ってみるか?」
「ええ、どれどれ──って、あっ!」
抱きしめられて、すりすりって頬ずりされて……
「む、ん、ん……っ」
……うん、キスくらいなら。
「こら、お尻はダメ!」
「アヴィ……もう俺の妻になってしまえ」
そのまま服が少しずつズレていって、私は目を閉じた。
───ああ、逃げられない。
降参だわ。
婚前交渉なんて、また≪懺悔≫が増えるじゃない……って、思ってたけど、
───いいえ。私はこの出会いに≪感謝≫してる。
≪懺悔≫の神様、ありがとうございます。
───おしまい。
最後まで読んでくれてありがとう。
アヴィオールより、感謝を込めて。
最後まで読んでいただいて有難うございました。