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第一章「戸惑いの帰り道」7


 昨日の帰り道とは打って変わって、シズクの心は沈んでいた。すっかり陽の落ちた暗闇は、そっとシズクの心に忍び寄るようにその漆黒を広げている。

――同性が好きってのはバレなかったけど、よりにもよってあの女のことが好きって誤解されるなんて……あんな子全然タイプじゃない! リュウトだってあいつ、ゴリ女って言い掛けてたし!

「俺はあんな女、好きじゃねーっての。リュウトの目は節穴かよ……」

 歩道を歩くシズクの足元でコツリと石が音を立てた。その石を苛立ちと共に蹴り飛ばす。

 わかってはいるのだ。リュウトにとって、恋愛とは異性とするものなのだ。それがこの世の中の大多数の意見であり、“普通”のことだ。だからかっこいい男とごつい女が並んだあの状態を見て逃げ出したシズクを見たら、“普通”の人間はごつい女に恋をしていると思うのだ。だからリュウトのこの反応だって“普通”で、彼は至って真面目にシズクのことをとても心配してくれている。

 わかってはいるのだ。リュウトがどれだけシズクのことを心配してくれているのかも。でも、リュウトはシズクのことをわかっているつもりで、その心の奥底までは見抜くことが出来なかった。

 しかしそれは、シズクだってそうだった。シズクだって彼のことをわかっているつもりだったが、彼はシズクが思っていた以上に“普通”の考えをしていたから。シズクの好みなんてリュウトには丸わかりだろうに、それでも彼は多少不自然には思っていただろうに、それでもあの女に、よりにもよってあのゴリ女に片想いしていると決めつけた。

「あーあ。明日からどうすんだよ……」

 リュウトとはあれから少し話をして別れた。別れ際、彼は意気揚々と明日からの計画を話してくれたのだが、そのどれもが大きなお世話で大迷惑な計画だった。

 まずはあの女とリュウトが接触し、週末に遊園地に誘う。そしてそれにコウも誘って四人でデートをするというのだ。ちなみにコウには事前にこちらの計画は伝えないが、それでも極力シズクとあの女が二人きりになれるようにリュウトは動くという。本当に迷惑だ。二人きりになりたいのはコウだと言うのに。

 しかし――

「四人は四人だけど……コウと遊園地、行けるのか……」

 まてよ、と止まりそうになった足を意識的に動かす。これはチャンスかもしれない。

 理由はなんであれ愛しい人と遊園地に行けるのだ。こんなこと、積極性の足りないシズクには出来ない芸当だ。思い至ったら即行動のリュウトに感謝しなければならない。リュウトには悪いが遊園地では上手く立ち回ってコウと回れるようにしたら良いし、なんだったら少し話してみたら理想と違ったとか伝えるのも有りだろう。

「ま……あのゴリ女には悪いけど、俺にはコウの方が大事だから仕方ない、よな」

 どう転んだとしてもこちらの都合で振り回す形になるであろう彼女には申し訳ないが、その罪悪感には気付かないふりをして、シズクは目の前に迫っていた自宅の扉に手を伸ばした。


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