どちらと婚約しても変わらないだろう?と貴方は仰ったけれど。
世界観や設定は甘目になっております。
文字数が予想外に増えてしまいました(汗)
いつも以上に、お時間のあるときに読んで頂けると幸いです。
ここキセシモ王国の王都フヨチには王家と貴族が出資して設立された王立ラカト学院がございます。この学院は王族や貴族の令息・令嬢、裕福な商家の子、一部の優秀な平民が十五歳になると入学することが可能となり、三年間ほど在籍して卒業後の社交や領地経営、就職先で必要な知識を学ぶことが出来ます。
そして今日はその学院の卒業式の日で、午前中に式がつつがなく執り行われ、今は在校生が主催する自由参加の卒業祝賀パーティが開かれています。
仲の良かった先輩との別れを惜しむ後輩達、お世話になった先生へ挨拶をする卒業生、祝う想いの中に一抹の寂しさを感じながらも過ぎていく穏やかな時間、私も今年で卒業ですので後輩達と楽しく談笑する予定でした。それなのに、私は思いもかけない事態に見舞われてしまいました。
「わが婚約者、北方辺境伯家令嬢スノー・トクサ! 私、バサロシ・キセシモ第三王子の名において、今このときをもって其方との婚約を破棄させて貰う!」
ズビシッ! と音がしそうなほどに勢い良く私を指さしてとんでもない宣言を行っているのは、私の婚約者であらせられる、バサロシ殿下。
金色の髪に碧い瞳、白い肌と王家の特徴が良く出ている、眉目秀麗な、それこそ誰もが憧れる王子様と言ったご容姿の正真正銘の王子様。
ただ、線が細くて華奢な方で、数年前までは病弱で良く寝込まれていたりと健康面で問題がありましたため、本来なら十五歳で入学されるところを十八歳になってようやく入学され今年でご卒業。
なので、今は二十一歳と思慮分別が十分以上に付いておられる筈なのですが、このような場でいきなり何を宣っていらっしゃるのでしょうか。私は内心の動揺を抑えながらこの後の展開をどう進めていくか考えつつ殿下を咎めます。
「殿下、このようなおめでたい祝いの席でいきなり何を仰られているのです。そもそも私達の婚約は王家と辺境伯家の縁を強める為に国王陛下と私の父との間で協議の上、結ばれたもの。殿下の独断で破棄出来るものではございませんでしょう」
「そのようなことは百も承知だ! 私がその程度のことも理解できないお馬鹿さんだと思ったか!」
現在進行形でそう思わせるような行動を取っているのは何処のどなたでしょうか、思わず懐から手鏡を取り出したくなってしまいました。
というか、殿下。二十一歳にもなってお馬鹿さんとか、子供っぽいことを言うのはどうかと思うのですけれど。まぁ、そこが殿下の可愛いところなのですが。
「では、そのことを承知していらっしゃる殿下は何故、私との婚約を破棄すると仰るのでしょうか。私には理解しがたいのですが、ご説明を頂けますか?」
「うむ、まずは私が婚約破棄したいと思った理由だが……はっきり言って其方が私の好みではないからだ!」
「なっ!? どこを見て仰っているのですっ!」
そう言って私の体の一点を見つめてくる殿下に、思わず私は殿下の視線から遮るように胸元を腕で覆い隠してしまいました。
その瞬間、一部の男子からほぅ、という熱っぽい溜息が零れ、一部の女子から羨望と嫉妬の入り混じった視線が私の胸へと突き刺さってきます。
そしてその一部の男子の更に一部から、隣に立つ女子に肘打ちをされたり足を踏まれたりして痛みに呻く声も聞こえてきました。婚約者が隣にいるのに、お馬鹿さんですわね。あら、私も子供っぽい台詞を考えてしまいましたわ。でも、口に出してないから大丈夫ですわよね。
「私は其方のような背が高くスタイルの良い美しい女性よりも、小柄で可憐な、守ってあげたくなるような可愛い女性の方が好みなのだ!! というか其方、色々と大きすぎるだろう!」
「私だって好きでここまで育った訳ではありませんわ! あと、それってセクハラですわよ!」
そう、私は同年代の女性に比べれば背が高く、自分で言うのもなんですがスタイルも良い方なのです。
ですが! こういうことを言うと怒る人もいるかも知れないですが、私だって小柄で可愛い方が良かったのです。
大きいからっていい事なんてありません! 邪魔だし重たいし、男性にはいやらしい目で見られるし、サイズが大きいせいで侍女達にもお嬢様はこちらの方がお似合いですって、私が本当はつけたい可愛い系の下着じゃなくて大人っぽい系の下着ばっかり勧められるし! ドレスも背が高いから可愛い系を着ると自分でも何か違う、となってしまうから必然的に大人っぽいデザインのものになってしまいますし。
本当に好きでここまで育った訳ではありませんですわ!
「女性の身体的なコンプレックスを指摘するような最低の行いをして申し訳ないとは思う、しかし、そこは私にとって譲れないところなのだ。それにそなたと話すとき、首が痛くなって地味に大変なんだぞ? それから、北方辺境伯領のような寒さの厳しいところに行ったら私なんぞあっという間に体調を崩して死んでしまいそうではないか」
「申し訳ないと思っていらっしゃるならなさらないで下さいませ! それから、確かに冬になると毎年、我が領では痛ましいことに領民に凍死者が出ておりますが、流石に殿下がそうならないように致しますわよ? 防寒対策を徹底した屋敷も新しく建てておりますし」
そう、殿下と私とでは頭一つ分くらい、私の方が背が高いのです。殿下が病弱だったのが原因なのか、殿下は男性にしては背が低いのです。対して私はというと何故かすくすくと育ってしまい、ここまで大きくなってしまいました。
それから厳寒の地ではございますが王族を婿に迎えるのですから、ちゃんと防寒対策を徹底した屋敷を建てる予定になっておりますし、心配はないのですが。
「そもそもそのような理由で婚約破棄が出来るとでもお思いですか? 王家と辺境伯家で交わされた契約に基づく婚約なのです、不可能だと殿下も分かっていらっしゃるでしょう」
「確かに、普通に考えれば不可能であるな。そのような理由で破棄するのは。しかし! 私にいい考えがある!」
なんでしょう、私には嫌な予感しかしないのですが。殿下が無駄に自信満々なのが怖いですわね、こういう時の殿下はとんでもなく突拍子もないことをしでかしてくれますから、心の準備をしっかりしておかないと。
「それでは、今まで待たせて済まなかったな。出番だぞ!」
そう言って殿下が右手を掲げて音高く指を鳴らすと、音を立てて人込みが真っ二つに割れて、その間を歩いてくる方の姿が見えました。背が高くしっかりした体つきの男性で、どなたかしら? と思って目を凝らしていたのですが、その方がどなたか分かった瞬間に私は慌てて膝を折って頭を垂れ、その方が近づいていらっしゃるのを待ちます。周りの皆様も気付いた瞬間には、私と同じように膝を折り、お言葉を待つ体勢を取られていきました。まさか、第四王子であらせられるラト・キセシモ殿下がいらっしゃるなんて……いえ、バサロシ殿下の卒業式の後ですし、次年度にはご入学されるのですからいらしてもおかしくはないですわね。ラト殿下は優秀で常識的な方と聞いておりますし、バサロシ殿下を説得してくれるかも知れません。
「ええと、取り合えず皆、面を上げて楽にして欲しい。無礼講、という訳でもないけどこの場はそういう堅苦しいのはなしでしたいからね。それで? バサロシ兄上、呼ばれるまで静かに待っていて欲しいって言うからそうしてたけど、流石に勝手な婚約破棄の片棒を担ぐのは嫌なんだけど?」
「ははは、そう言うな、ラト。それに関してはさきほども言ったが私にいい考えがあるのだよ」
ラト殿下のお言葉に従い、顔を上げて立ち上がればバサロシ殿下が無駄に自信満々の顔で仰っています。そのお言葉にラト殿下は半信半疑の表情を浮かべながら溜息を零されました。実の兄がこのような場で暴挙に及んで頭が痛い、という感じでしょうか。
「それで? 兄上、さっきから言っているそのいい考えって言うのはなんですか? そこまで仰るからにはさぞ名案なのでしょうね?」
「うむ。そもそも私とスノーの婚約は、王家と辺境伯家の縁を強めるためのもの。それならば、無理に私がスノーと婚約している必要はない、つまり、どちらと婚約しても変わらないだろう? そなたが私の代わりにスノーと婚約をし直せば良い、と、そういうことだ。どうだ、名案だろう?」
バサロシ殿下の言葉に思わず唖然としてしまいます。確かに王家と縁を繋ぐことが目的の政略結婚なのですから、間違ってはいないのかも知れないですが……そこまでして私との婚約を破棄したいのでしょうか。私は膝から崩れ落ちてしまいそうな感覚を覚えましたが、どうにか淑女としての意地で堪えます。
「名案かどうかは何とも言えないけど、それならこんなところで婚約破棄を宣言するんじゃなくて、陛下に進言すれば良かったんじゃない? それが通るかどうかは別としてだけど」
「はっはっは、ラトにしては察しが悪いな。陛下に進言してもこんな話が通る訳がないだろう? だから、この場で宣言したのだよ。これだけ大事になれば陛下としてもこのまま婚約を続けることは出来ないと諦めて下さるだろうからな。これならば確実に婚約は破棄されるだろう?」
「バサロシ殿下っ! 殿下は、殿下はそんなに私との婚約がお嫌だったのですか!? このような場所で宣言して、後戻り出来ないようにするほど、私のことがお嫌いだったのですか!?」
我ながら名案だと言うように笑うバサロシ殿下に、お二人の会話に割って入るのは非礼だと分かっていても私は思わず声を上げてしまいました。十歳のときに婚約者となってから八年間、政略結婚ですから殿下に恋愛感情はなかったとしても、信頼関係は築けていて結婚すれば熱情はなくても穏やかな夫婦関係を築けると思っていたのに。そこまで……そこまで私は殿下に内心で嫌われていたのかと思うとショックが大きかったのです。
「スノー、私はお前のことを嫌っている訳ではない。王家と辺境伯家を結ぶための婚約であるなら、私よりもお前を好いている者、愛してくれる者と結ばれる方が良いだろう? その者ならお前のことを大事にしてくれるだろうし、お前も幸せになれるだろうからな」
「え……? 私を好いて愛してくれる方……?」
バサロシ殿下の言葉に驚いてしまうものの、私もそこまで鈍くも頭が悪いつもりもないのでラト殿下の方を見つめてしまいます。だって、この場でバサロシ殿下のお言葉に該当する方、王家との縁を繋ぐことが出来る方はラト殿下だけなのですから。
驚いたように目を見開いていたラト殿下は、私が見つめていることに気付かれるときょとん、とされた後に首と手を横に振って必死に否定する仕草をされていました。
「はっはっは、照れることはないのだぞ? 我が弟ながら可愛らしい反応だな、ラトよ」
「兄上!? 何を仰っているのです、私は別にスノー嬢のことなど……」
「それ以上は言うべきではないな、ラト。この兄の目が節穴だと思うてか? そなたがスノーを見る目、最初は年上の女性への憧れだったものが恋心へと変わっていったのを、スノーの側にいた私が気付かないとでも?」
ラト殿下が反論しようとしているのをバサロシ殿下が大声で被せて封じ込まれてしまいます。ラト殿下、別に私の事をそういう風に思っていらっしゃる訳でもないようですし、どういうことでしょうか。
「スノーも、私の婚約者だからと己を律していてラトの気持ちに気付かないように、意識しないようにとしていたのだろう? 時々ではあるが、そなたがラトを見る目の中にそういう感情が混ざっていたことに自分で気付いていなかったか? 私にはとても分かりやすかったのだがな」
「人聞きの悪いことを仰らないで下さい! 私はバサロシ殿下の婚約者です、ラト殿下のことは別に……」
「それ以上はスノーも言うべきではないな。全く、似た者同士でお似合いなことだ」
殿下の言葉に反論しようとする私の言葉を遮り、殿下は呆れたように笑みを浮かべてラト殿下の手を掴んで私の横に並ぶように引っ張ってこられます。そして小さな声で「すまない、事情は後で話す」と囁かれて、戸惑う私達から離れて満足そうに頷かれました。
「ああ、やはりスノーの横に立つのは私ではなくラトの方が似合うな。さて、それでは私は馬に蹴られてしまう前に退散させて貰うとしよう。二人とも、後の事は頼んだぞ?」
「兄上!? どこに行かれるのです! まだ、話は終わっていませんよ!」
「いいや、もう既に終わっているのだよ、ラト」
もう既に終わっている、その言葉に私もラト殿下もはっとします。
そう、確かに終わってしまっているのです、バサロシ殿下がこの場で、衆人環視の前で王命である婚約の破棄を宣言してしまって、破棄を取り消すことが出来ない状況に陥った時点で。
王命に逆らったならたとえ王族でも罰を受けねばならず、その罰もまた王命であるが故に重くなること、そうなったなら王族とはいえ罪人となってしまった殿下と私との婚約は、どうしたって破棄せざるをえないということに。人の気持ちも知らないで、何を考えていらっしゃるのでしょうか、殿下は。
「ふふ、本当に二人は優秀で嬉しくなるな。それでは、私は陛下の元に出頭してくるとしよう。そろそろお耳に入っているころだろうからな。では、さらばだ!」
そう言うとバサロシ殿下は私達に背を向けて、颯爽とパーティ会場から立ち去って行ってしまいました。
そのお背中は、もう何も言うことはないし、何も聞くつもりはないと語っていて……私もラト殿下も、その場にいた誰もが引き止めることは出来ませんでした。
そして、私とラト殿下は、どちらからともなく視線を合わせると頷いて、まずはこの場を収めることから始めることにいたします。
どういうことなのかと私達の周りに集まる皆様をいなしながら、どうしてバサロシ殿下が突然このような暴挙に至ったのかを考えていたのですが、私にはその理由が全く思いつきませんでした。
それから事態はめまぐるしく動いていき、私は目が回るようなその忙しさの真っ只中を必死で駆け回りました。
私は騒動があった時には国王陛下と会談中――卒業式の来賓として王都を訪れていた――だった父に、ラト殿下は国王陛下に事情を説明し、婚約者が入れ替わるならそのことを私は受け入れるということ、殿下もそうなった場合には異議はないということ。王家と辺境伯家の間に縁が繋がることに変わりはなく、政略結婚による利は損なわれないということを、バサロシ殿下の処罰を少しでも軽くするため、どうにか納得して頂けるように繰り返し説明をしました。
最初は公衆の面前で娘が恥をかかされた、と激怒していた父ですが、バサロシ殿下の有責での婚約破棄とすること、王家から辺境伯家に賠償金を支払うこと。殿下に対して相応の処罰を陛下が与えることと引き換えに怒りを収めて頂きました。
その処罰とは、バサロシ殿下の籍を王族籍から抜いて、子を成せないように処置を施し、王都から追放してもし王都に戻ってくるようなことをすればその時は問答無用で死罪にする、というものでした。
ただ、追放して行方不明になられても困るので、王家が所有する領地にある館を与えられて、その敷地で王家の監視下で過ごし、敷地から出た場合でも死罪とすることになったそうです。
それから私とラト殿下の間で新たに婚約を結び直そうということになったのですが、流石に騒動の後に直ぐというのも外聞が悪かったですので、冷却期間も含めて一年後に婚約を結んで殿下が学院を卒業されてから結婚、ということになりました。
そして、国王陛下からこの度のことで私に迷惑を掛けたのだから、何か望むことがあれば叶えようと言われて私は国王陛下にバサロシ殿下との面会を願い出ました。国王陛下は困ったような顔をされながらも了承して下されて、あの騒動以来、一度も顔を合わせていなかった殿下との面会が叶うことになりました。後で事情は説明する、そう言われていましたがあの後直ぐに殿下は拘束されて謹慎させられていたので会えていませんでしたから、どういうつもりなのかを問いたださなくてはなりません。
そして、今日はその面会の日。自分もどうしても一緒に面会したいと陛下から許可を得たラト殿下と共に、バサロシ殿下が謹慎されている罪を犯した王家の方が入られる塔の一室へと私達は案内されました。
ドアの前に立っていた近衛兵がドアをノックし、中にいる侍従へと私達の来訪を告げるとドアがゆっくりと開かれ、私達は室内へと足を進めます。
「ようこそ、スノー、ラト。見苦しい姿で申し訳ないが、どうか許して欲しい」
中に入るとそこはとても殺風景な、クローゼットと丸テーブルと椅子、ベッドがあるだけの簡素な部屋で、第三王子であるバサロシ殿下が過ごすには余りにも質素すぎる部屋でした。
そのベッドの上で、顔色を悪くした殿下はそれでもいつものように笑顔を浮かべて、上半身を起こした姿でいらっしゃいました。
「どうしたのです、兄上。顔色が随分と悪くなって……まるで昔に戻ってしまわれたみたいではないですか」
「本当に学院に入られる前のようになられて……貴方達、バサロシ殿下がこのように具合を悪くされているのに、何をしているのです。医師の手配はしたのですか?」
かつて、病弱だったころのバサロシ殿下に戻ってしまったような顔色の悪さに、侍従達を咎めるように言えば殿下が苦笑いを浮かべて、彼らのせいではないと手と首を振られました。
そのお言葉に私達は首を傾げつつも、勧められるままに椅子に腰かけ、殿下が人払いをされるのを黙って見ておりました。
「さて、これでようやく話が出来るな。まず、私の顔色が悪いのは薬のせいだ。子を成せないようにするための、断種の薬を飲んだせいでこうなっているのだよ。強い薬だからな、その影響で飲んで以降はずっとベッドの上での生活を余儀なくされていて、本当に昔に戻ったような気分だ」
「っ!? 兄上、断種の薬を飲まれたのですか……?」
断種の薬、それは王家に伝わる秘伝の薬で、なんらかの咎で王族から籍を抜くことになった男性が飲まされる、文字通り子種を断つ薬のことだそうです。子を成せないように処置を施すというのはこういうことだったのですね。
「まぁ、本当に効果があるのかどうかは分からないがな? とはいえ流石に試すわけにもいかぬし試す相手もおらぬからなぁ。迂闊な相手に試すわけにもいかないしな。もっとも、このありさまでは試す以前の問題だがな、切り落とされるよりはましだろう? おっと、これもセクハラになってしまうな、あっはっはっは」
「殿下っ! 笑い事ではないでしょう!? 王族から籍を抜かれた上に、地方に追放されて幽閉されてしまうのですよ!?」
あっけらかんとして悲壮な様子を微塵も感じさせない殿下に、寧ろこちらの方が悲壮な雰囲気になってしまいます。
「まぁ、落ち着け、スノー。王族籍を抜かれる、ということは盃を賜らずに済むと言うことだ。厳寒の辺境伯領と違って温暖な気候で長閑な場所らしいのでな、余生をのんびり過ごすには丁度良い」
「兄上……何故、そんなに落ち着いていらっしゃるのですか。そもそも、婚約破棄をしたりしなければ、こんなことにはならなかったというのに……事情を話して下さいますよね?」
そっとラト殿下がバサロシ殿下の手を握り、悲しそうな眼で見つめられています。
ラト殿下の視線に少しばつが悪そうにしていらっしゃいましたが、小さく溜息を零してバサロシ殿下は私達を見つめ返して来られました。
「そのことに関しては二人の意志を無視したやり方をしてしまって、私の我儘で振り回してしまって申し訳ないとは思っている。しかし、陛下の……いや、父上の余りにも冷酷なお言葉にショックを受けて、父上の想い通りになどなってやるものか、と思ってしまってな。王族としては失格なのだと分かってはいたのだが、従う事がどうしても出来なくてな」
「陛下の、父上のお言葉とは……兄上がそこまでお怒りになられるなんて、何を仰られたのですか?」
基本的に飄々としていて、何事も柳に風と受け流すバサロシ殿下がそんなにも怒るようなことを国王陛下は仰ったのでしょうか。私が聞いて良いことなのか、視線を殿下に送りましたが頷かれたのでそのままお聞きすることにします。
「知っての通り、私は元来体が弱い。ようやく学院に通っても大丈夫なくらいになって無事に入学して卒業できたが、身体が劇的に頑丈になった訳ではないのだ。ふとした拍子に体調を崩すこともあったからな。それなのに年の三分の二が雪に閉ざされているような厳寒の地である北方に行けば、恐らく私の体は長くはもたなかっただろう。だから、折角、政略結婚とは言え婿に入った王族が直ぐに死んでしまっては辺境伯家と縁を繋ぐにしても強固な縁にならないのではないか。それまでに子が出来れば良いが、出来なければ辺境伯家との縁は強くならないのではないか、そう陛下に尋ねたのだよ」
「それで、国王陛下は何と仰られたのですか?」
確かにようやく人並み程度に健康になられたとはいえ、病弱だった殿下は季節の変わり目に良く体調を崩されていました。実のところ、寒さ対策を施した屋敷に住んで頂くとはいえ、殿下が耐えられたかどうかは微妙なところではありました。
そして子を成す前に殿下がお亡くなりになられては、王族の血を辺境伯家に取り込むことも出来ず、政略結婚の意味も薄まってしまうという殿下のお言葉は確かに納得できました。跡継ぎである兄上の子と私と殿下の子を結婚させて王族の血を取り込む予定でしたから、子を成すことが出来なければその予定が崩れてしまいますし。
「それに対する陛下の返事がこうだ。婿に入れさえすればそれで対外的には縁を強めたことになるからそれで良い。お前が早逝しても、子が出来ても出来なくても辺境伯家に王族が婿入りした、その事実がありさえすれば良い。どうしても縁を強めなければいけない訳でもない、婿に出すのに丁度よい王子がいたからそうするのだ。子に関しても、寧ろ子を成さないでくれた方が王家の血が広がらなくていいから都合が良いくらいだと言われてな。確かに王族の政略結婚というのはそういうものだろう。しかし! しかしだ! 病弱な体で、何もなせぬ残せぬと絶望していた私がようやく人並みの健康を手に入れて、ようやく何かが出来る、何かを残せると思っていたのに……それを許されぬなど、私には耐えられなかったのだ、これではただの捨て駒ではないか!」
「父上がそんなことを……」
「酷いですわ……」
王侯貴族の結婚とはそのようなもの、そう言われればそうだと言わざるをえないでしょう。しかし、陛下の仰りようは余りに冷酷過ぎますし、我が辺境伯家を軽んじておられますわ。余っていて丁度いいから婿にやろう、なんて……しかも、子を成さない方が辺境伯家に王族の血が混ざらなくてありがたい、それに殿下が辺境伯領で死ねば辺境伯家が王家に対して引け目を持つだろうと、そう言っているようにも聞こえます。
病弱だったお身体がようやく健康になったのに、死ぬためだけに婿に行けなんて、殿下が感じた絶望は如何程のものだったのでしょう、想像すると胸が痛みます。
「本来なら、王命ならば死をも受け入れるのが王族というものなのだろう。しかし、私が死んだ後のことを考えるとな。スノーは若くして寡婦になって再婚は難しくなるし、再婚できたとしても碌でもない相手と再婚させられそうだしな。ラトはまだ、どこに婿入りさせるのが国の得になるかを父上が考えているから、婚約者はいないのが幸いした。それなら私が婚約者から外れるのが父上に対する意趣返しになるし、私は命が助かってのんびり余生を過ごせるし、辺境伯も私とラトが入れ替わるが王族を迎え入れられるから良い方法だと思ったのだよ。ラトならば私と違って頑丈だから、あちらでも大丈夫であろうからな」
「兄上……実行に移す前に、相談してくれれば良かったのに。もしかしたら死罪になっていたのかも知れないのですよ?」
「そうですわ。そうすればもっといい方法が見つかったかも知れないですもの。死んでしまっては元も子もありませんでしたのよ? それに、それって私とラト殿下の気持ちを全く考えていらっしゃらないですわよね?」
ラト殿下に婚約者がいないのは、早い段階で婚約を結ぶより貴族の力関係を見て、ここぞという家に婿入りさせるために、立場を浮かせておきたかったということなのですね。早くに婚約者を決めると、いざ結婚するという段階で婿入り先の家が力を失っていたりしていては困りますから。
しかし、殿下の企みにはこちらの都合や気持ち、というのが全く考慮されておりません。いきなり私が婚約者に、となるとラト殿下も戸惑うでしょうに。
「その場合は、連帯責任でお前たちにも何らかの処罰が下っていたかも知れないからな。辺境伯家に迷惑を掛けないようにしようと思ったら、こうするのが最善……ではなかったかも知れないが良いと思ったのだよ。辺境伯家に王族から婿を入れるのは確定事項なのだから、ラトに累が及ぶのも防げるからな。死罪になるかならないかは、賭けの部分もあったが二人ならそうならないようにしてくれるだろうと信じていたからな。それに、ラトにならスノーを任せても大丈夫だと、私は信じているからな」
確かに、私達が殿下の企みを知っていて加担したとなれば何らかの罰が下されたことでしょう。それは殿下の本意ではないということで、一人で考えて一人で決行なさったのだと思えば何も言えなくなってしまいます。
それにしても、もし私達が処罰を軽くすることに失敗していたら命を落としていたというのに、本当に無茶をなさいますわ。
ラト殿下は確かに仰られる通り、良い方であることに間違いはありませんが、そういう風には見られませんわ。それに、私はまだ殿下のことを……ええ、そうですわね。諦めてしまってはそこで終わり、ですものね。
「なので、だ。二人は私に遠慮することなく幸せになって欲しい。二人が子宝に恵まれれば、父上も予定と異なる事態になって困るだろうからな。ああ、私が子を成せない体になっているからと言って遠慮したりするのではないぞ? 寧ろ王家の血を引く者が増える方が父上も頭を痛めるだろうからな。二人とも励めよ?」
「あ、兄上っ!?」
「殿下っ! なんてことを仰るのです!」
思わず怒りで顔を真っ赤にして声を荒げてしまいます。ラト殿下は何故か顔を真っ青にしていらっしゃいますわね、何でですかしら? それにしても、本当にバサロシ殿下はこんなときにでもからかってくるのを忘れない方ですわね。本当に、人の気も知らないで。
「んぅっ、ごほんっ。ところで兄上。ラバイ兄上とサク兄上には今回のことは相談されたのですか?」
「はっはっは、するわけがないだろう? お前は末の弟だから可愛がられていて、あの二人が本気で怒ったときの怖さを知らないのだ。今回のことを話したら何をされるか……兄上達が外遊で国にいなくて本当に良かった」
ちょっとした意趣返しのようにラト殿下がにやりとした笑みを浮かべながら尋ねられます。
内政と武略、個人の武勇にも優れたラバイ王太子殿下、そしてその右腕として複数の外国語を使いこなし、交渉が得意で外交面を支えていらっしゃるサク第二王子殿下。お二人が国王陛下の代理として隣国を外遊されていなければ、バサロシ殿下の行動を止めることが出来たのでしょうか。
「それだけ兄上達が兄上を大事に思っているということの証でしょう。どうでも良いと思っていれば本気で怒ってくれたりはしないでしょうから」
「それは……そうかも知れないがな。はぁ、二人が戻って来る前に早くあちらに行きたい。もう少し体調が良くなれば出発できるのだがな。のんびり出来るようになるのが今から待ち遠しいよ」
流石の殿下も、あのお二人には敵わないのでしょうね。不敬ではありますが国王陛下も跡継ぎが優秀で安心ではあるものの、優秀過ぎていつ玉座から追い落とされてしまうか恐れているとも噂されてますし。
国王陛下はまだまだ王位を譲る気はなく、権勢を振るうことを望んでいらっしゃいますから優秀過ぎても怖いのでしょう。
一部の貴族は早い世代交代を望んでいて、表立っては不敬になるので言えないもののそういう態度や雰囲気を醸し出しているそうですから、なおの事恐れていらっしゃるとか。
「無理だけはしないで下さいね、兄上。今回の件でだいぶ無茶をしたのですから、本当に静養なさってください」
「分かっているよ。それでは、ラトの言葉に甘えて休ませて貰ってもいいか? 少し、身体がだるくなってきてしまってな。スノー、この度の件では迷惑を掛けた。本当に済まなかったな」
「殿下……本当に大変だったのですからね、反省して下さいませ。とにかく、お体を労わって下さいな。もう今回のような無茶はなされないで下さいね?」
殿下の謝罪の言葉に頷きを返し、本当は色々と言いたいこともあったのですがそれは飲み込むことにします。殿下の顔色が大分悪くなってきていて、これ以上のご無理をさせては申し訳なくなってしまいましたから。
「それじゃあ、兄上。僕達はこれで失礼するよ。多分、もうこれで会えるのは最後になると思うけど……元気でね。今までありがとう」
「殿下、これまでお世話になりました。どうかお体に気を付けてお過ごし下さいませ」
「ああ、私も二人には迷惑をかけて申し訳なかった。そしてありがとう。ラトは私の自慢の弟だったし、スノーは私には勿体ないくらい素晴らしい女性だった。これからは二人で仲良く過ごして欲しい」
殿下のお言葉に私は涙が零れそうになりますが、ぐっと堪えて一礼をします。そしてドアをノックして、ドアを開けた侍従に面会を終えたことを伝えて部屋を後にします。
陛下も殿下との面会を何度も許してはくれないでしょうし、殿下は出発するまではあの部屋から出ることは許されないでしょう。
そして王命に逆らった咎で王都から追放される殿下をお見送りすることは、誰にも許されることはなく、王家の監視が付く以上は文を出したとしても届かない可能性が高いです。
もしかするとこれが今生の別れになるかも知れません。後ろ髪を引かれる思いをしながら、私達は塔を後にしました。
ですが殿下、これで終わりなんてそんなこと、絶対にさせませんからね……? 私だって、やる時にはやるのですから。
バサロシ殿下と最後にお会いして、あれから三年の月日が経過致しました。
私は今、穏やかな日差しの差し込むテラスにて、長閑にゆったりとお茶を楽しんでおります。
私とは対照的に、私の前にテーブルを挟んで向かい合わせに座っていらっしゃる方が居心地悪そうにしていらっしゃいますのを、私はついつい意地悪気な表情で見てしまいます。
「あれから色々とありましたわ。バサロシ殿下が幽閉地へと出立されるのと入れ違いにラバイ王太子殿下――いえ、今ではラバイ国王陛下ですわね――がサク第二王子殿下と外遊から帰国されて。私とラト殿下から話を聞かれて弟をそこまで追い込むなんて! と激怒されたお二人があっというまに先王陛下を退位させてしまわれて」
電光石火、というのはああいうことを言うのでしょうね。こういう事態に備えて先王陛下の色々な悪事の証拠を握っていらしたのは流石と言いましょうか。
その後、先王陛下は王都から遠く離れた自然豊かで風光明媚な場所へ、表向きは隠居と言う形で実質追放されてしまいました。
貴族達も、先王陛下よりもラバイ陛下の方が優秀でしたので多少はざわつきましたが直ぐに平穏を取り戻しました。
「ラバイ新国王陛下の即位に合わせて、恩赦が各方面に出されたというのに、頑なに王都に戻ることを断っている方がいらっしゃるそうですわね。なぜでしょうか、不思議でなりませんわ」
そう、ラバイ新国王陛下が即座に行動に移ったのは恩赦を出してその方の罪を軽くする為だったのです。弟の為に父親を蹴落としてしまうなんて、愛が重いと思ったものですわ。まぁ、かくいう私も大概だったりするのですが。
「先ほどから、私だけがしゃべっていてつまらないのですけれど、何か仰ることはございませんの?」
「なぜ、ここに貴女がいるのだ、スノー嬢」
ようやく喋った相手に、私はにっこりと微笑んで差し上げます。
そう、金色の髪に碧い瞳、白い肌と王家の特徴が良く出ている、眉目秀麗な、それこそ誰もが憧れる王子様と言ったご容姿の正真正銘の王子様……だったバサロシ殿下。流石に籍を戻すことまでは出来ませんでしたので、今では平民となった只のバサロシ様へと。
「だって仕方ないではないですか。バサロシ様に続いてラト殿下にまで婚約破棄されてしまったのですもの。二度も婚約破棄をされてしまって、私は瑕疵だらけの傷物令嬢になってしまいました。もう嫁の貰い手も婿の入り手もいないと、何で二度も破棄されたのだと怒った父に勘当されてしまいましたの。ですから、責任を取って頂こうと思いまして」
「ラトが婚約破棄を……? なぜだ、あいつに限ってそんなことをするとは思えないんだが」
「それはバサロシ様の勝手な思い込みでしょう? ラト殿下、実は想い人がいらっしゃいましたの。先王陛下の下では結ばれないと諦めていらしたのですが、新国王陛下ならもしかして、と相談した結果、弟想いの陛下が認められまして。誰かさんと違って、ラト殿下はちゃんと相談の出来る方だったようですわね」
正確には、婚約を結び直す前でしたから婚約破棄ではないのですが。私とラト殿下が婚約を受け入れたのは、あくまでもバサロシ様の罪を軽くしたかった私の思惑と、先王陛下に想い人との婚約を認めて貰えないだろうというラト殿下の諦めからのことでしたし。
二度も王族から不義理をされた、ということで父はまた激怒されましたが……今回は私が集めておいた父の不正の証拠の数々で黙らせました。それに王家から補填として税の軽減措置と物資の援助というエサも陛下達が用意して下さいましたし、黙らせるのは割と簡単でしたわ。その代わり、私は勘当されてしまいましたけれど、それは覚悟の上でしたから受け入れましたわ。跡継ぎは兄上がいらっしゃいますし、私もその方が都合が良かったですしね。
「ラトに想い人が……? ふふ、どうやら私の目は節穴だったみたいだな。だが、責任を取れと言われてもな。恩赦が出たとはいえ、私の身分は平民なのだぞ? スノーに渡せるようなものはないのだが……ああ、この屋敷と土地くらいなら渡せなくもないのか? しかし、それには王都にお伺いを立てないといけないか……」
「あら、父から勘当されたと申しましたでしょう? 今の私も平民なのですよ? それから、このお屋敷と土地と、そして貴方様を合法的に私のものにする方法がありますでしょう?」
考え込むバサロシ様に、私はにっこりと微笑みかけます。訝し気な表情を浮かべた後、まさか、と言うような顔をするのに私はついつい愉悦に浸ってしまいます。お馬鹿さんではないのですから、言葉の意味に気付いたみたいですわね。
「お気づきになられたみたいですわね? そう、私を責任を取って嫁に貰って下さればこの屋敷も土地も、貴方様も私のものですわ」
「何故、そこまでして……? 私はもう王族ではないし、そのうえ子を成せない体になっている。それにスノーに最初に婚約破棄をしたのも私なのだぞ?」
「身分で貴方を好きになった訳ではないですし、子供はいざとなれば養子を取ればいいでしょう。婚約破棄は傷つきましたが、そこも責任を取って頂くのですから構わないですわ。バサロシ様、私のことはお嫌いですか? 私は貴方のことを愛しております、誰よりも、心から」
聡いようでいて、意外と鈍いのですから。私がどれだけ貴方様を愛していて、どれだけ妻となれるのを楽しみにしていたのか、分かっていらっしゃらなかったのですね。
婚約破棄を宣言されたときとラト殿下と子供を作れ、と言われた時はとてもショックでしたけれど、その後の展開は私に都合よく動いてくれて、私も望みを叶える為に動いた甲斐があったというものですわ。
ラト殿下も、想い人と結ばれるために途中から協力して下さったのも助かりましたわね。
満面の笑みを浮かべて言う私に、最初は驚いた表情を浮かべていたバサロシ様でしたが、照れたように頬を赤らめて立ち上がって私の側へといらっしゃいました。
「正直、私のどこを貴女が好いてくれているのか分からないし、自分にもまだ自信が持てない。しかし、こんな私を選んでくれるというのなら、私は貴女に心から永遠の愛を誓い、大事にすると約束しよう。スノー、私の伴侶となってくれるか?」
「これから、たくさん教えて差し上げますし、自信が持てるまで何度でも言い続けますからご安心下さいませ。はい、バサロシ様、喜んで。私も貴方に心から永遠の愛を誓い、大事にすると約束致します。私を伴侶にして下さいませ」
そっと跪き、私の手を取って見上げてくる彼の熱い視線をこの身に受けて、ゾクゾクしながら私は喜んで返事を致します。
長かったですわ、初めてお会いしたときに私は一目で好きになってしまったのに、貴方はいつも飄々とした態度を崩されないでいて、私ばかりが好きなようで実は悔しかったのです。
あのまま結婚していれば、ここまで貴方は私を熱を持って求めてはくれなかったでしょう。
いつか、私に振り向かせて見せる、そう思っていましたけれどなかなか貴方は振り向いてくれなくて。
だから、紆余曲折ありましたけれど結果良ければ全て良し、貴方は私に愛を囁いてくれている。これからはこの屋敷を二人の愛の巣にしてずっとずっと、死が二人を別つまで幸せに暮らしましょうね。ああ、想像するだけで幸せですわ。貴族で無くなった以上、淑女として嗜み深くある必要はなくなったのですから、これからは遠慮なくいかせて頂きます。
うふふふふふ、愛してますわ、バサロシ様……どちらと婚約しても変わらないだろう? と貴方は仰ったけれど、私は貴方が良かったのです、貴方でなくては嫌だったのですよ。