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【いま集合的無意識を】

【いま集合的無意識を】

 さて、私がそう主張するようになろう系と口承文学が数多くの類似性を持つとしたら、それはなぜか。

 断定はできないが、なろう系作品の作家先生方がみな、千夜一夜物語を熟読し、これを参考に物語を構成している、ということはおそらくないと思う。


 となると、似た構造を持つのは偶然だろうか? 私の単なる思いこみだろうか?

 いや、そうではない。

 心理学者C・G・ユングはその著書『心理学と錬金術』の中で、以下のような趣旨を述べている。


 人間が無意識下に持つ原型的心理というものは時代や外的事象にとらわれることなく不変で、神話という物語の中にその原型が見て取れる。(本記事筆者要約)


 またしても無意識である。

 ここでもう一度、私のなろう系の定義をご覧いただきたい。

 “なろう系とは、 『ウェブという膨大な集合体が抱く無意識的な欲望・欲求を満たす物語』 のことである。”

 私はあえて、物語という言葉を使った。

 本稿で私はライトノベル小説やなろう系作品とは言っても、なろう系のあとに”小説”という語を続けたことは一度もない。

 なろう系物語は、小説的要素を持ちながらも、その枠組みを大きく越え出て物語的性質を持つに至った。


 民話・神話の類には、一般的に作者は存在しないとされている。

 人々の想い、願い、無意識的な欲望を汲み取り、それを誰かが形にし、別の誰かがそれを変容させつつ語り継ぐ。それを聞いたまた別の誰かが新たな物語を付け加えつつ、誰かに語り継ぐ。

 曾祖父から祖父へ、祖父から親へ、親から子へ。

 村の語り部から旅人へ。

 詩人から民衆へ。

 物語は人々の無意識的欲望を反映し、絶えず変容しながら拡散され、膨張し、そして一部は忘れ去られていく。

 このように口承文学の物語は、匿名性と普遍性の極めて高いものだった。

 人から聞いた匿名の物語であるから、何一つ恥じらうことなく無意識的欲望が赤裸々に物語

 中には描かれる。

 主観的な物言いだが、口承文学を読むと昔の人たちの方が現代人よりも、無意識的欲求に素直に向き合っていた印象を抱く。


 すると、文化的交流の存在しないはずのまったく別の地域、時代でほとんど同じような類型の民話が誕生したりする。

 ユング言うところの、人類が普遍的に持つ、無意識的原型のなせる業である。


 近代以降、個の確立と共に口承文学は世界中で急速に失われた。

 代わりに、個人の思想・信条・人生経験・知識・願いや欲望を基とした小説が誕生する。

 作者の個性が作品には込められ、読者は文字で描かれたそれに共鳴・あるいは反発する。個から個への時代だ。

 我々にとっては文学といえば小説というのが当然のように考えられているが、人類の物語史からすれば今のありかたの方が、歴史はずっと浅い。

 口承文学が廃れても、無意識的欲求そのものは普遍のはずだ。(ユングもそう言っている)

 だから我々は、誰が言ったともしれない都市伝説や、掲示板のショートストーリーなどにえも言われず心惹かれるのかもしれない。


 そして、いつの間にか、死んだと思われていた口承文学的物語がしれっと復活していた。

 そう、なろう系である。

 膨大な無意識の声に耳を傾け、それを最も鋭く感じ取り、最も色濃く反映して描いた物語がランキング上位を占めるという投稿サイトの世界。

 そこで生き残るために語り部たちは、今日も人々の言葉にできない、どころか意識すらできない欲求を感じ取り、巧妙に変容させながら、物語を紡ぎ続けているのだ。

 ヒトの持つ集合的無意識の原型が近代以前と何も変わらないのだと考えれば、なろう系作品と口承文学が多くの類似点を持つのは、必然と言える。

 SF作家神林長平先生の短編集タイトルをそのままお借りし、私は叫びたい。

「いま、集合的無意識を!」


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