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【なろうが無意識的欲求に与えるもの】

【なろうが無意識的欲求に与えるもの】

 もう一度、前項の結論を繰りかえす。

 なろう系が生まれたのは、

 “人々の持つ、無意識の欲求を満たすため”だ。

 そもそも、何故人は自分の欲望、願望、感情の一部を無意識下に押し込めるのか。

 それらが、社会や他者とのかかわりあいの中で生きていくのに、恥ずかしかったり、不都合であったり、邪魔であったりするからだ。

 成人し、社会人として生きていけば無意識が占める領域はますます大きくなる。


 そこで、私は先ほどの定義にもう一語、“幼年期的”という言葉を加えたい。

 なろう系が生まれたのは、

 “人々の持つ、幼年期的無意識の欲求を満たすため”だ。


 自我に目覚める前の幼年期、ヒトは誰しもただ本能のままに成長し、自己実現に全力で取り組んでいる。

 ただ生きるために、ハイハイを覚える。立つ。言葉をしゃべる。

 快を求め、不快を避ける。

 そこには善悪の価値基準もなければ、他者との比較も存在しない。

 ただ動物的、本能的欲求があるだけだ。

 成長するとともに、人には分別と理性が身につき、この幼年期的欲求は”恥ずかしいもの”として無意識下へ追いやられる。

 成人し、社会的立場を担うようになれば、ますます幼年期的無意識はかえりみられなくなる。

 だが、無意識は意識上に浮上しなくなっただけで、消滅したわけではない。

 主も気づかないままに、その欲求を満たしてくれる場所を求める。

 そして出会った。

 そう、”なろう系“である。

 そこでは、主人公はただただ自己実現のために邁進する。

 善悪の価値基準にはとらわれない。

 欲しいものは手に入れ、嫌なものは避ける。


 現実世界でそんな振る舞いをすれば、たちまち社会不適合者の烙印を押されるだろう。

 いくら小説の中とはいえ、現実を舞台にそんな主人公が大活躍するのは不自然に映る。

 そこで異世界だ。


 コミック「賭博黙示録カイジ」の中で、カイジと対立する金融業者帝愛カンパニーの幹部トネガワが「世間はおまえらの母親ではない」という名言を残した。

 だが、なろう系主人公にとって、異世界は母親そのものである。

 転生主人公にとって異世界は、世間の冷たい寒風吹きすさぶ荒れた大地ではなく、温かく安らかな母なる海なのだ。

 前世の知識を残した主人公がそこで何か行動すれば、異世界は必ず褒めてくれる。讃えてくれる。ご褒美をくれる。赤ん坊が立って歩くためにつかまる手を放さなければいけないように、時にはささやかな試練ももたらされる。しかし、必ずその結果は成功する。そして、より大きな賞賛と報酬が待っている。

 なろう系の物語を読んでいる間だけ、読者は無意識的欲求に耳を傾け、これを満たすのに注力できる。


 しつこく繰り返すが、以上の描写をもって「だからなろう系はくだらないんだ」と言うのはもう止めて欲しい。

 いままでどんな小説も、ヒトの持つ原始的・プリミティブな無意識的欲求を満たすことなど叶わなかったのだから。

 ライトノベルも、官能小説も、大衆娯楽小説もなしえなかった。

 そこに必ず作者の自意識と読者の自意識が介在したからだ。(そしてそれこそが良質な小説であると信じられてきた)

 投稿サイトが流行し、ウェブという膨大な世界でランキングを競うといういままでになかった形態が、偶発的に、誰も意図することなく、奇跡的に、なろう系を生んだのである。


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