Prologue.
この物語は、純粋な怪盗物語です。
戦闘シーンがまあまあ多いので、時折残酷ま描写が入るやも知れません。
苦手な方はご注意ください。
それは、今からそう遠くない未来。
小さな島国のジパングが、やっとのことで『ネオジャパン』と呼ばれるようになった頃の物語である。
時代は機械、そして電力。
環境保護とは口だけの政治が進み、文化財保全と切り取られた区間以外を急速に発展化。立ち並ぶビルの群れ。出来る影は美しい円筒形を描いていたり、オブジェのように華やかであったり。
夜道の街灯は月よりも眩しく、夜空よりも煌びやかで、人類の進化を誇らしげに伝えていた。そんな、時代。
そして何の前触れもなしに、“ヤツ”は現れた。
時代錯誤な蒼いビロードのマントを優雅に羽織り、その黒髪を風に靡かせる。夜の街を、嘲笑うかのように駆けていく。
その左眸の片眼鏡の向こう、レンズ一枚越しの黄金色の左眸を三日月に歪ませて。まるで電力に縋る者どもが心底愚かだとでも言うように。“ヤツ”は不敵に笑うのだ。たった一言、これまた時代錯誤でキザで――重く深い言葉を残して。
「Starry sky is beautiful tonight. 」
――――星空は今宵も美しい。
今日も“ヤツ”は、聞き心地の良い端麗な世界語と、停電した夜の街を残して去っていく。
骨董品から装飾品、挙句の果てには公園に飾られている優美な置物まで。目についた美術品を、たった一枚の予告状で指し示し、わざと相手をおびき寄せ、そして攫う。
機械と電力のこの時代。あまりにもそぐわない職業の“ヤツ”は、カナリ傍迷惑な小細工をして、警察の手をノラリクラリとかわすのだ。
“ヤツ”のことを周囲の人間は、キザな捨て台詞と予告状で示した自身の名から、迷惑感と敬意を示して、<星の怪盗>。そう、呼んだ。
“ヤツ”の名は<怪盗プラネテス>。
惑星の名を持つ怪盗は、今宵も華麗に夜空を舞う。
それがまるで、自らの宿命であるように――――――