恋のお話
こちらは当然あちらのことが好きなわけだけど、あちらもこちらを好きだということは、どういうことでしょうか?
……もしかして、両想い?
いやいや。いやいやいやいや。そんなバカな。そんなはずはない。
だって王侯貴族の結婚だよ? 王侯貴族の結婚は恋だの愛だの関係なく、シンプルに家と家の繋がりを求めるもの。
王家に生まれたこの私が、さらには王家の役立たずであるこの私が、恋愛結婚などあるわけがない。
だって私は政略結婚の駒になることで初めて王家の役に立てるのだから。
「あ、セリーヌさん!」
「は、はいっ!」
「ん? どうした? 体調悪い?」
おそらく私の顔が赤かったからだろう。熱の有無を心配してくれている。
心配せずとも熱はないし顔が赤いのはあなたのせいです。と言うわけにもいかず。
「大丈夫です」
「本当に? 大丈夫じゃなかったら遠慮なく言ってね」
勇者様はにこりと笑って私の頭を撫でてくれた。
おかしい。先日までは勇者様もなんとなく照れた様子を見せていたのに、最近はなぜだか普通に戻ってきている。
いや、それどころかスキンシップが増えた気がする。やめてください死んでしまいます。
「セリーヌさん、今日も薔薇のお世話はする?」
「はい、いつも通りに」
「えっと、俺もついて行っていい?」
「もちろんです」
「あと、その時にちょっと時間もらってもいい?」
「はい」
私の返事を聞いた勇者様が、もう一度私の頭を撫でる。
その時、その手にいつもと違うものが見えた。
「タイキ様、それはお怪我ですか?」
人差し指に、包帯が巻いてあったのだ。昨日まではなかったのに。
「うん、ちょっと火傷」
ちょっとした火傷なら魔術師様の治癒魔法で治るのでは?
「治さないのですか? ちょっとなら、頑張れば私も治癒魔法が」
「頑張るってどのくらい?」
「魔力切れの……直前くらい」
「危なっ! やめてやめて、これは名誉の負傷だし大丈夫だから! じゃあまたあとで!」
治癒が嫌だったのか、私の魔力切れが嫌だったのかは分からないが、勇者様は急いでこの場から去っていった。
次に会えるのは、ほんの数時間後か。
さて、その前に小鳥たちの世話をしに行こう。
「お姉様」
ふと背後から声を掛けられた。
声の主は、妹、側妃様の娘であるルナールだった。
「あらルナール。ソシアと一緒じゃないなんて珍しい」
ルナールは大体双子の兄であるソシアと一緒に行動していたはずだけど、今日は一人だった。そして、どこか浮かない顔をしている。
「……お姉様は、今から小鳥のお世話?」
「ええ、そうよ。一緒にどう?」
「行く。もふお、いる?」
「いるわ。お腹を空かせて待っていると思う」
もふおというのは、羽毛がもふもふの可愛い小鳥。あの小屋の中で一番私に懐いていて、いつも私の足元にいるから見分けがつきやすく、ソシアとルナールが面白がってあだ名をつけたのだ。
ぽつりぽつりと会話を交わしていれば、あっという間に小鳥たちの小屋へと辿り着く。
「あ、もふお」
小屋についた途端、私に気が付いたもふおが走ってきているのが見えた。お世辞にも長いとは言えない足で、てちてちと。彼は飛べない鳥なので、走るしかないのだ。かわいい。
「もふおは本当にお姉様が好きよね」
ルナールがそう言いながらもふおの羽毛をもふもふとつつく。
「ルナール、何かあった? ソシアと一緒じゃないことと関係はある?」
小鳥たちの餌を準備しながら尋ねると、ルナールは拗ねたように唇を尖らせる。
「ソシアはなんか忙しいってどっかいった。……ソシア、最近女の子にモテ始めて生意気」
喧嘩でもしたのかな?
私はお兄様と喧嘩をしたことがないから兄弟喧嘩がどういうものなのかがいまいちわからないのだけれど。
「私と大して変わらない顔してるくせに、ソシアだけモテて私は男子たちから避けられる。皆自分より強い女は嫌みたい」
確かに二人はよく似た顔をしている。しかしなぜかソシアだけがモテるらしい。
それがなぜかと言うと、ソシアを狙うご令嬢達がしたたかだから、って可能性がとても高い。そして確かにルナールは魔力が強いから、自分より強い女が隣にいるとプライドを傷つけられるという男もいるのかもしれない。
私のように魔力がないのも大変だけど、魔力が強いのもそれはそれで大変なんだろうな。
「ソシアには好きな子がいるらしい。でも、私にはいない。……だからお前も羨ましいの、もふお」
ルナールがもふおの羽毛をもふもふもみもみしながらそう言った。
恋に恋するお年頃、というやつなのだろう。周囲の雰囲気が変わっていくのに自分だけ何も変わらないという焦りみたいな気持ちが分からないわけでもない。
……まぁ私はそんなお年頃の時から無能だと自覚していたので恋自体を諦めていたけれども。
あの時は確かに諦めていた。だけど、今の私には勇者様がいる。
「お姉様は、恋をしたこと、ある?」
「え? あの、その、えーっとぉ……私は、そのー……」
「なんだ、勇者か」
「えぇっ!?」
「……ふふ、その過剰な反応、当たりだね」
これは一本取られましたわ!
「え、な、なぜ」
「最近のお姉様、いつもどこか楽しそうだったから、聞くまでもなくなんとなく分かってた」
我が妹ながらとても鋭い。なんて思っていると、もふおをなでまわすのをやめたルナールがそっと立ち上がる。
「安心した。勇者はアレとは違うみたいで」
「ええ、そうね。アレとは全然違うわ」
そう言って笑って見せれば、ルナールが両腕を広げた。これは、抱きしめてもいいということだろうか? と、こちらも両腕を広げれば、ルナールのほうから飛び込んできて言うのだ。
「幸せになってね、私の大好きなお姉様」
なんて、とっても嬉しいことを。
「ええ、ありがとうルナール」
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