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めちゃめちゃキレてる

シリアス寄りの空気で始まりますが基本的にはゆるふわコメディです。

ゆるい気持ちでお楽しみください。

 快晴の空の下、穏やかな風が吹き抜ける。

 美しい花々が咲き誇る手入れの行き届いた庭園の中に、凝った意匠のテーブルが1つ。

 テーブルの上には上品な香りの紅茶ところりとした可愛らしいお菓子が乗っている。

 それを囲む椅子は2つ。

 座っているのは整った顔の男と、美しく着飾った女。

 聞こえてくるのは二人の男女の軽やかな談笑の声……ではなく。


「はぁー……」


 そんな、男のあからさまで大きなため息だった。


「俺、あんな女と結婚なんかしたくないよ。親が決めた婚約なんてうんざりだ」


 男は情けなさをじっくりことこと煮込んだような声でそう言っていた。

 着飾った女は、微笑みながら優しく数度頷いている。


「俺は君と結婚したい。君と愛に溢れた結婚生活を送りたいんだ」


 男のその言葉を聞いた女は、にっこりと満面の笑みを浮かべたのだった。


 そしてその会話をうっかり聞いてしまった私はそっとこめかみあたりを揉む。

 男はその嫌で嫌で仕方がないであろう婚約者の実家で、なんという話をしているのだろう。

 婚約者がいる身で別の女と二人で会っている時点でとんでもないというのに、婚約に対する不満を婚約者の実家でこぼすなんて。

 わざと聞こえるように言いたいのだとしても、場所はもう少し選んだほうが良かったのではないかと思う。

 なぜなら今、目の前に、猛烈に激怒した私の身内がいるから。

 私だけに聞こえる場所だったら、あの人に聞かれることはなかったのに。

 もう少し頭を使えば、痛い目を見ることはなかったのに。

 可哀想な人。私はそう思いながらも、助け舟を出す気なんてさらさらなかった。


 なんかもう、どうでもよくなっちゃった。


 静かに激怒した私の身内は、優雅な足さばきで音もたてずにその場を去っていった。

 おそらく彼女は私の父であり己の夫である、この国の王の元へと向かったのだろう。そしてきっとあの男の今の言動を伝えるのだろう。

 ああ、あの男の人生が終わる。

 そう思いながら、私もその場をそっと立ち去ることにした。

 ……しかし、どこに行けばいいのだろう。こんなどんよりとした気持ちのままで誰かに遭遇したくはないが、自分の部屋に戻るにはきっと時間がない。

 なぜなら今日はこの後パーティー会場に行かなければならないから。

 ここから自分の部屋に戻る時間と、自分の部屋からパーティー会場に向かう時間を考えれば……部屋の滞在時間がほんの数分程度になりかねない。


 困ったなぁ。あの男のせいで。


 と、ほんの少し苛立ち始めていた時だった。

 急いだ様子の侍女長の姿が視界に入る。キョロキョロしながら足早に廊下を駆け抜けているので、何かを探しているのかもしれない。


「あっ、セリーヌ様! 陛下がお呼びでございます!」


 私だった。


「……陛下が?」


 王妃様であればさっきの件で何か言われるのだろうなと思ったところだが、陛下が? お父様が?


「王妃様も側妃様もお揃いで、それぞれのお子様たちも!」


 勢揃いでは?


「それにもちろんクロム様も!」


 お兄様まで?


「わ、私、何かやらかしたのかしら」


 私のそんな呟きを拾った侍女長は、相変わらず焦った様子で口を開く。


「とにかく皆様お揃いで、お急ぎのようでしたよ?」


 王妃様からの呼び出しであればなんとなく分かるのだが、お父様までとなると、さっきの浮気現場目撃の件ではないのかもしれない。

 そうなると、浮気現場目撃の件は後日? だって今日まとめて話すには、パーティーが……そうだ、パーティー!


「今から皆を集めていたらパーティーに間に合わないのでは?」

「だから皆様お急ぎなのではないでしょうか?」

「確かに」


 わけも分からず皆勢揃いの場に行くのは少し恐ろしいけれど、パーティーの開始時間が押すのはまずいだろうから、私は急いで侍女長の案内に従った。

 そもそも最近のお父様は常に困った様子で、ことあるごとに「困ったなぁ」とあからさまな独り言を零していたから、私なんかがここでぐずぐずしてお父様の手を煩わせるわけにはいかないのだ。

 お父様には心穏やかに過ごしてほしいもの。お仕事以外では。


「お待たせいたしま、っ……した……?」


 なんだこの空気!

 お父様のみ酷く困った顔をしていて、他の皆は揃いも揃って絵に描いたようなキレたツラをしている。こわい。

 お兄様も、王妃様も側妃様も、そしてその二人の息子、娘たち計六人も皆めちゃくちゃキレている。


「お、あの、え……?」


 誰かに助けを求めたいけれど、誰に助けを求めたらいいのか分からない。

 ただ一つ、確実に分かることといえば、さっき静かに激怒したのをこの目で目撃した王妃様には触れないほうがいいだろうということ。

 ちょっとつついたら爆発しそうだもの。しかも噴火レベルの爆発。危ない。


「セリーヌ」


 お父様の、静かな声が室内に響く。


「はい」


 お父様は私の返事を聞いてから、ゆっくりと口を開いた。


「……お前の、婚約の破棄が決まった」

「あ、はい」





 

読んでくださってありがとうございました。

完結までお付き合いくださると幸いです。

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