運命の人~僕とつきあってください~
カクヨムの「KAC2022 ~カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ 2022~」のお題「出会いと別れ」で執筆したショートショート(ホラー)です。
時間は深夜2時を回っていた。
男は深夜に散歩をするのが日課だった。
その日、家から少し離れた公園で、男は出会ってしまった。
春モノのピンクのロングコートを着たその女性は、月の光に照らされて、まるで女神のように見えた。
ふわりと漂ってくる香しい匂い。
巷で売っている香水や、お香の匂いでは無い。
男の心の底を優しく、かつ情熱的にくすぐる。
「運命の人だ」
男はつぶやいた。
聞こえるような声で言ったつもりはなかったが、女が振り向いた。
ああ、なんて魅力的な瞳だろう。
男は一瞬で女の虜になった。
「彼女は間違いなく、僕と同類だ」
そう確信した男は、女に近寄って告げる。
「不躾で恐縮です。僕とつきあってください」
女は驚いた様子もなく、微笑みと共に返答する。
「私なんかで良ければ、ぜひ」
男はポケットに突っ込んでいた右手を、女の方に向ける。
女もロングコートの袖に隠れていた右手を、男の方に向けた。
2人の手には刃渡り30cmを超えるサバイバルナイフが握られていた。
キィン、キィンと、金属がぶつかる音が閑静な公園に響く。
「ああ、なんて楽しんだ。こんなに幸せな時間は初めてだよ。君に会えて本当に良かった」
男は満面の笑みを浮かべて、サバイバルナイフで女の心臓を狙う。
これまで男は、このサバイバルナイフで14人を殺めている。
人を殺せば一時的に気持ちは収まるが、満足感を得られたことは無かった。
「わたしもよ。名前も知らないあなただけど、きっとあなたは私の運命の人だわ」
男の一撃を躱した女は、すれ違い様にサバイバルナイフを繰り出し、男の腹部をかすめた。
鮮血がピンクのロングコートに跳ねる。
「君のコートが僕の色の染まっていく」
「もっと、もっとよ! もっとちょうだい!!」
2人の腕が交差して、月明りが影を浮かばせる。
男のサバイバルナイフが女の肩を、頬を、脇腹を抉る。
女のサバイバルナイフが男の腕を、鼻を、太腿を抉る。
辺りに血の匂いが漂う。
男が女と出会ったときに、ふわっと漂ってきた香ばしい鉄のような匂い。
香水や、お香では決して表現できない、この香り。
アドレナリンとドーパミンが脳からドバドバ出ている気がする。
そして、2人の影が重なった。
「ああ、熱い。君は本当に最高だ」
「天にも昇る気持ちってこういうことを言うのね」
男のサバイバルナイフは女の心臓に。
女のサバイバルナイフは男の心臓に。
男と女はナイフから手を放して抱きしめ合う。
サバイバルナイフはより深く、2人の心臓に突き刺さっていく。
2人は運命の相手と最高の出会いをした。
2人は自分達と相容れないこの世界と最高の別れをした。
短編&完結作品ですので、★と一緒に忌憚のないご意見を頂けると嬉しいです。




