第四十章 ホントへの一歩
青空を雲がゆっくりと穏やかに流れていく。そよ風にただ流されていく白雲。
「平和だなー……」
俺と真耶はそんな空を城のバルコニーで何をするでもなくぼうっと眺めていた。
「なにしてるのよ蓮」
「陽子…。いや、さ。これで良かったのかなって考えてたんだよ」
「王さまのこと?」
「ああ」
戦いの後、マリアの弾丸は確かにアウレス王の終骸としての核を貫いた。その結果人の姿に戻りはしたが、アウレス王はそのまま息を引き取った。彼がドミナスから受け取っていた終骸の種はその心臓と深く結びついていたのだ。
マリアとリエスは最後に言葉を交わしていた様子だったが、内容は聞いていない。多分俺たちよそ者が聞いていい内容でもないだろうしな。
「アンタが悔やむことはないわ。王の死は自業自得、己の支配欲に負けた結果なんだから。兄貴と一緒。それに……」
「?」
陽子の指さした方を見ると、バルコニーにマリアとリエスの二人が上がってきた。二人とも思っていたよりも顔色がいい。敵になったとはいえ親父さんと戦った直後だというのに気丈に振舞えるのは、姉妹揃って精神がタフだな……。
「なーにつまんねェ顔してんだよ、テメェ」
「言うに事欠いて第一声がそれかよ……」
「もうっ、お姉さまはその口の悪さを正すべきなのですよ。気を悪くしないでくださいね、蓮さん」
「兄さんの神経は恐ろしく図太いからお気になさらず、リエスさん」
おいそこはフォローしてくれ妹よ。俺だって凹む時はあるんだぞ。
「そうそう。蓮なんて超唐変木なんだし、むしろ蓮の方がもっと気遣いを覚えるべきね!」
「陽子まで……。まあ、いいや。それでこれからリエスとマリアはどうするんだ?」
いくら終骸の力に溺れていたとはいえ、一国の王が討ち取られたのだ。それも自身の娘に。これは立派なクーデターというやつではなかろうか。
「ええ……。先ほど正式に、わたくしがコンティーニュ国二十一代国王として即位する事が決まったのです。未熟者ではありますが、これから頑張るのですよ」
「リエスが王さまに……。そっか、俺たちに手伝えることがあればなんでも言ってくれよ」
「そうね! 全力で力を貸すわ!」
「あー、それならよぉ」
マリアが頭をボサボサっとかきながら言葉に詰まった様子を見せる。どうしたんだ?
「もう、お姉さまったら子どもではないのですから、ちゃんと伝えて欲しいのです」
「わーってるよ! ……その、なんだ。つまりだな。オレを、てめぇらの仲間に加えろや」
「「「え?」」」
突然の申し出に、俺たち三人ともが気の抜けた声で聞き返してしまった。
「な、なんだよ! 不満だってのかぁ!?」
「いや、戦力は大いに越した事ないんだけどさ。どうしてまた急に?」
確かに共通の敵と戦ったことで既に仲間だとは思っているけど、性格的に今後も単独行動するつもりだとばかり。
「それはわたくしが説明するのです。終骸による二度の事件を経て、我がコンティーニュ国は本格的に事態の解明に動くこととなりました。蓮さん、真耶さん、陽子さん、そしてマリア姉さん。四名には対終骸騎士団〈ペレグリム〉として活動してもらいたいのです」
そういうことか。俺としても『管理者』から詳しい話を聞き出せない現状、手掛かりは欲しい。その中で元の世界に戻る方法も見つかるかもしれない。
「問題ないか真耶?」
「ええ、兄さんが良ければ」
「蓮がいいならアタシも大丈夫よ!」
「だ、そうだ」
リエスはニコニコと頷き、マリアもそっぽを向きつつホッとした顔をしている。
よし。次の目標ができたことだし、ここは一つ―――。
「打ち上げでもするか!」
「はぁ……。呑気ですねえ、兄さんは……」
「あはは、良いではないですか! では、四人の壮行会も兼ねて是非盛大なパーティを開くとするのです!」
と、いうわけで。
次の日の王城メインホールにて、大勢の市民と貴族も集められて豪華なパーティが開かれることとなった。集まった人間はみな明るい笑顔を浮かべて活気に溢れており、以前王都内を散策した時に感じた妙な違和感は薄くなっている。これもアウレス王を倒した影響だろうか。
「お集まりの皆さま! 本日はよくぞお越し頂きました。先日の悲しき事件による被害は決して小さいものではありませんが、今後とも我がコンティーニュ国を共に盛り上げ発展させていけるよう願っています。また……」
言葉を区切って僅かに目を伏せるリエスだったが、意を決して話を続け始めた。
「我が父の凶行により国民の皆さまには多大なるご迷惑をお掛けしたこと申し訳ありません。新国王としてわたくし、アリエス=ミーシャ=ディコンから陳謝の意を述べさせてもらうとともに、此度の功労者を紹介させて頂きたく思います」
リエスからマイクを受け取って、壇上にマリアが立った。
「よーし。こっからはオレ、マリア=ジブリエラ=ディコンが仕切るぜ。ここにいる遠岸蓮と遠岸真耶、そして桐立陽子。この三名の助力によって前王の凶行は食い止められた。よって彼らには略式ではあるが貴族位と褒賞を与えることとする! 文句があるやつはいるかァ!?」
いや言い方。言い方をもうちょっと考えようぜマリア……。
幸いマリアの性格は周知のことらしく、苦笑しながらもみんなからは確かな歓声が上がった。
にしても異世界に来て貴族になることになるなんてな……。何ともテンプレな気もするが、まあいいか。立場があった方が動きやすいだろうし。
「そして今回の事件を引き起こした未知の災厄に対し、オレたち四名は新たな騎士団〈ペレグリム〉として活動することを決定したぜ! だからてめぇら安心しやがれ、こっから先は嘘偽りのない真実のために力を振るうと誓うぜ!」
「「「「うぉおおおおおおおおおおおおお!!」」」」
マリアの力強い宣言に、先ほど以上の大歓声が上がる。
「マリア……」
「いい顔するじゃない、アイツ」
「……」
ふと横を見ると、真耶は対照的に浮かない顔をしている。実際俺も、ここから戦う場面は増えるだろうし、愛する妹をそこに巻き込みたくはない。だけどもし戦いが避けられないというのなら、俺は全力で真耶を守ろう。
そして必ず元の世界に戻って、俺たちのホントの生活を取り戻すんだ。




