第三十八章 天使が導く弾丸
炎の尾を引いて一直線に放たれた突きが虚無に包まれた空間を切り裂いたことで、奈落と化していた地面が元に戻り、俺は辛うじて着地に成功した。
「よ、陽子?」
「まったく……情けないんだから。こんな程度のヤツに負けないでよね!」
「お、おう」
相も変わらず強気で凛としたその声に励まされて、再び体に力が漲っていく。
「ふむ、君か。破壊の炎…厄介極まるが、この終わりの虚無の前には無力だよ」
「試してみる? アタシの剣は、全てを照らす炎。汚い影なんて全部塗りつぶしてやるわよ!」
俺の隣に陽子が並び立つ。心地よく頼もしいその姿を見つつ、そういえばとマリアの姿も探してしまった。
「なあ、陽子」
「しっ。……必ず来るわ。今はアタシ達が」
その言葉で察する。なるほど、そういうことか。どうやら二人は随分と打ち解けたらしい。だったら、俺も覚悟を決めないとな!
「作戦会議は終わったかな?」
アレウス王から数えきれないほどの闇の槍が放たれる。こちらの反撃すら織り込み済みの隙のなさ。なら、その予想を超えていくしかない。
「合わせてくれ、陽子」
「ええ! 桐立流剣技―――」
鏡合わせのように陽子と同じ構えを取って、俺の体に宿る別世界の記憶を呼び覚ます。我流剣技・模倣―――。
「「来炎ッ!」」
二人同時に放った居合いがX字を描いて闇の槍と激突した。欲しかったのは一瞬の爆発力。闇の全てをかき消す必要ない。ただ、突破できれば!!
「……!」
「「はぁあああああああああああああああ!!!」」
居合いの勢いに任せて俺と陽子の剣が疾走する。アウレス王の驚愕に歪む顔を目前に捉え、そのまま無心で切っ先を繰り出した。
瘴気の帷を切り裂いた斬撃がアウレス王の体を大きく弾いて、後方へ吹き飛ばす。
「はぁ…はぁ…。やったか?」
「いやそれフラグよ、蓮」
はたして陽子の言う通りゆらりと起き上がったアウレス王は無傷。いや闇の瘴気はいくらか薄れているものの、いまだ余力を感じさせる。
「くそ…」
「お返ししよう。“陰炎”、そして “無間”」
「っ、来るわよ蓮!」
王がかざした両掌から膨大な闇が迸る。右が青黒の炎。左が漆黒の虚無。大地を削りながら襲いかかってくる。
俺たちの技を模倣されたと気付いた時には、避けれない距離に闇の帷が下りていた。咄嗟に陽子を守ろうとした次の瞬間。
「ったくよォ。相変わらず甘ぇんだよ、テメェらは」
垂直に閃く光の筋。真上から放たれた一発、たった一発の弾丸が空間を真っ直ぐに貫いた。
それを成したのは、俺たちの上空からこちらを輝く翼でもって見下ろす美しき天使。
「マリア!」
「……はぁ。柄にもなく人助けなんてしちまった。蕁麻疹が出るぜ」
相変わらず口が悪い。だが、別世界のマリアが消えた直後に見られた迷いのモヤは晴れたようで、その碧眼はとても澄んでいた。
「なんだかさっぱりした顔だな、マリア」
「うるせェ。ようやくだ…ようやくクソ親父をぶん殴れる。嘘偽りないオレ自身の拳で…! この時を待っていたぜッ!」
ストッと降り立ったマリアが全身に気合いを漲らせて、アウレス王にその人差し指を突きつけた。
「やれやれ……。本当に愚かな娘だ。甘く幸せな夢の中で姫として君臨すれば良いものを。残念だよ、余自らが君を始末せねばならないとは」
「ほざけ、メッキの王が。リエスのヤツに全部聞いてんだよこっちは。よくも騙してくれたもんだぜ。いくらぶん殴っても足りねぇし、なにより………」
言葉を切って、マリアが少しだけこちらを見てくる。
「国の為に力を貸してくれてた "アイツ" に申し訳が立たねェッ!!」
「御託はもういいとも。お望み通り、挑戦を受けようではないか。そして余の支配を受け入れるのです!!」
再びアウレス王の全身からドス黒い瘴気が吹き溢れる。離れているはずのこちらを蝕むほどの濃度で息が詰まる。
「マリア、なにか策でもあるのか?」
「……“アイツ”が消える前に残してくれた最後の一発。それさえ当てられりゃ決着がつく。はずだ」
「はずってお前な……」
「いいじゃない。勝負事は大きくいかないとね!」
やる気充分の陽子と覚悟を決めた表情のマリアを見比べながら、俺も自然と笑みを溢しつつ、『剣』を握り直した。
【【別れの挨拶ハ済んだカな? それデはご機嫌よウ、愚か者ドモよ!!】】
瘴気が実体を伴い、アウレス王の姿が異形へと変わる。それは剣の四肢を持つ巨大な王冠。様々な黒に染め上げられた欺瞞の『王』としての終骸が顕現した。
「上等だ。世界の終わりなんて、何度でも救ってやるよ!」
「お前ら、一分…いや五十秒よこせ!」
マリアが拳銃を取り出し、そこに込めた特別な雰囲気の弾丸へと力を充填し始めた。
必殺技の準備ってことか。なら。
「陽子っ」
「任せて!」
次々に生え並んでいく漆黒の剣山を、素早く飛び出した陽子が圧倒的な反射神経でかい潜って見せる。速度を維持したまま神速の居合いが逆袈裟に鞘を走った。
「桐太刀流居合術・昇火!」
【【だカラ効かナいと言ッテいるダろウ!】】
闇の奔流が陽子の体を押し返そうとするが、彼女は決して一人で戦っているわけじゃない。
「させるかよ!」
【【ちィ…】】
全身に『異能』を巡らせて陽子の手前に滑り込み、そのまま全力の右ストレートを叩き込んだ。
激しい破裂音と共に闇が弾ける。
予想外の攻撃だったのか、一瞬だけアウレス王が動きを止めた。ここで畳み掛けようと右手の二つの指輪に力を込めて滾らせる。
無数の一撃を束ねて必殺を為す『剣』に装填するのは、たった一つの真実を貫く『弾』の概念。
勢いよく回転する弾倉からエネルギーが迸り、蒼く透き通る光刃が発生して、唸りを上げる。だけど恐らくこれだけでは足りない。
だから。
「蓮だけにいい格好させないわ!」
裏から重ねるように、陽子が二の太刀を構えている。蒼光を後押しするように爆発した炎が弧を描き、紅蓮の斬撃と化した。
「連なり断ち切れ。―――天久無双!」
「燃え盛るは一輪の大華。天火明命ッ!!」
【【ぉ、オォオオオオオオオオオオオ】】
呼吸を合わせた俺たちの刃が強いうねりとなって、アウレス王の闇の衝撃波と拮抗する。二人分の力を合わせても破壊の渦を抑え込むのが精一杯。
けど、今はこれで充分だ。だって今戦っているのは俺たちだけじゃない。頼もしい三人目がいるのだから。
「マリアッッ」
「ああ、どいてろお前ら。終わりにしてやるからよ、このオレが!!」
マリアの気合の入った声を合図に、俺と陽子は横に跳ぶ。拮抗していた攻撃を失ったことで、終骸の攻撃が再び威力を取り戻す。
【【借り物ノ力しか振エヌ者が、偉そウな口ヲ!】】
「それはテメェもだろ。だからこそ、コイツが効くんだからなァ!!」
マリアが弾丸を込めて構えた銃口へ輝く光が集まり、どこからともなく響いた鐘の音と共に烈風が砲身のように逆巻く。引き絞られたトリガーに呼応して、弾丸に蓄積していた色とりどりの力が一気に解放された。
【【ソノ光は…! マリアぁァアアアアアアあアアアアアアアアアアアア!!】】
「真実を貫き示しやがれ、“天声降燐”ッ!!!」
束ねて放たれた色彩が一点の曇りもない白光となって終骸の闇を音もなく霧散させただけでなく、その威力のままアウレス王の胴を一直線に砕いて貫いた。
数か月ぶりの投稿となってしまいましたが、諸々落ち着いてきているので書く意欲がまた湧いてきましたので、改めて読んでいただいている人はありがとうございます!
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