第三十二章 暴れ姫
第二の終骸による襲撃、その翌日。
俺と陽子は、マリアが意識を取り戻したと聞いて王城に再び赴いてた。
「この前は、不甲斐ないとこ見せちゃって悪かったわ」
「気にすんなよ。俺だって、マリアが助けてくれなかったら、あのままやられてただろうし」
それにしても、土壇場で発動したあの力とこの右手の指輪は、本当になんなんだろうか。『管理者』も漠然とした説明しかしなかったし、正体が不明過ぎる。
「でも、アタシの力がもっとあれば…」
「くよくよすんなって。お、着いたぞ」
城の離れにある屋根付きの東屋に到着すると、そこでマリアが待っていた。
「…来たかよ」
「ああ。体の方は、もう大丈夫なのか?」
「んなこたァ、どうでもいい。それより教えろ」
「なにをだよ」
この高圧的な物言いと態度。マリアのようでマリアじゃない。これは…。
「お前この世界、のっ!?」
尋ねようとした途端、俺の視界は180度グルンとひっくり返った。
反射的に閉じた目を開けると、マリアの綺麗な碧い眼にのぞき込まれていた。ぶん投げられたせいで背骨が痛い。
「なにするのよ、マリア。蓮から手を放しなさい!」
「うるせェ、女剣士。喧嘩る気か?」
「その下品な荒々しさ…。確かに、あのマリアとは違うみたいね」
「クソ天使のこたァ、いーんだよ。それより、どうなってんだ。やたらめったら力が湧いてきて仕方ねェ!」
どういうことだろう。天使のマリアが抑え込んでいた力でもあったのか。俺を投げ飛ばしたのも結構な膂力だった。
「まー、好都合だけどよ。好きに暴れられる力が欲しかったんだ」
「マリアはお姫様なんだろ。そんな好き勝手にしていていいのかよ」
「ァ? オレの勝手だろうが。この国は退屈なんだよ。それとも、テメェがオレの相手をしてくれんのかよ」
歯を剥き出し、凶暴な笑みを浮かべながら、俺の胸ぐらを掴んで顔を近づけてくるマリア。とりあえず距離感がバグってるのをどうにかして欲しい。
マリアの白く細くしかし力強い手を、そっと引き剥がして返す。
「お前とは戦わないよ。俺はな」
「どういう意味だ、そりゃあ」
「もう一人のアンタが、アタシに喧嘩売ったのよ。決闘しようってね」
「ふぅん…?」
そう。そういう話が出ていたはずだ。
陽子も自分の力を高めたいと思っているからいい修行になるし、ここでこっちのマリアの戦闘能力を確認しておきたくもある。
「暴れたいなら、正々堂々やろうぜ」
「……テメェ、変なヤツだな」
「そうか? お前には言われたくないけどな」
「やっぱボコしてやろうか!?」
などと怒るマリア姫(?)を宥めていると、中庭を通ってリエスと王さまがこちらにやってきた。
「やぁ、すっかり元気に、というか元に戻ったようだねマリア」
「…おかげさまでなァ。そっちもまだくたばってなかったかよ」
「もうっ、またそんな態度を取って! お姉様は素直になるといいのですよっ」
「ほっとけよ、アリエス。それに親父のことを信用してねぇんだオレは。ウソだらけだからな。知ってんだろ」
「ですからその態度をっ」
なんだか妙な空気が三人の間に漂っている。単純に仲が悪いってわけではなさそうだけど。
「…まあいいでしょう。マリア、せいぜい稀人の方達に迷惑をかけないようにしてください」
そう言い捨てて、王さまはどこかに立ち去って行ってしまった。
父親が娘に掛ける言葉ではないのはもちろんだが、王が臣下に告げる物にしても中途半端さとモヤモヤが残る。
「…では、わたくしもこれで失礼するのですよ」
「そういえば、リエス。前の決闘の話、本格的に進めてもらっても構わないか?」
「ええ、問題ないのです。けれど、今のお姉様と戦うのは、その……」
まぁ明らかに凶暴性が増しているし、心配にもなるか。
「大丈夫。陽子のことなら心配ない。そう簡単には負けないさ」
「オイオイ自信満々じゃねぇか。テメェの女だろ。勢い余ってぶっ殺しちまってもいいのかよ」
「お、女ってアンタね! ふ、ふん。今のうちに大口叩いておきなさいお姫様。ボコボコにしてやるわ」
うーむ、陽子とマリアの間で見えない火花が飛び散ってる気がする。
ともあれ。
リエスの協力により、改めて、陽子対マリアの決闘が取り行われる運びとなった。
日にちは、明日の正午。場所は王都中央闘技場だ。
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