第三十一章 蒼天の銃閃
【コレ、は。貴様ラ、何ヲ、した?】
「おーおー。確かにコイツぁ、レンの力そのものじゃねえの」
闇を垂れ流していた無形の鏡、黒く濁った空間はもはや見当たらない。
俺が掲げた『弾』から発せられた青い光を受けて、空間そのものが清浄なる水面に変わる。地平線の先まで続く凪の界。
「オレの知るレンの力は、可能性の中から一つのホントを弾に込めるっつーモンだ。これは、あの終骸のウソを引きはがした結果だろうよ」
掴んだ力を感覚的に使ったせいか、説明されてもピンとこないが、向こうの俺を知るマリアが言うならきっとそうなのだろう。
【だと、シテも。我ノ力、写シ身ノ眼の前にハ無意味】
「わかってないねぇ。どれだけ嘘を並べ立てても、天はお見通しなのさ。そして、真実を必ず撃ち貫く。これこそが『天の裁』。オレとレンの合わせ技さね」
「で、具体的にはどうするんだよ」
得意げに語るマリアに尋ねると、彼女はそのドヤ顔のまま、一丁の銃を召喚して手渡してきた。
「これは…?」
「〈トゥルム〉。向こうでお前さんが使っていた銃さ。生み出した弾丸をコイツに込めて使いな。アレの核に届くはずだよ」
「ああ」
銃を受け取って、半ばから折るようにしてチェンバーを開け、そこに『弾』を装填した。
青白い、けど暖かみのある仄かな光を宿した銃を、眼前に向ける。
【そのヨウナものデ、なニがでキルと】
「貫け。"蒼天"!」
終骸の言葉を待たず、トリガーを引き絞る。
青い衝撃が疾る。
空と地平線がさざめき、轟いた銃声が敵を貫いた。くの字に折れ曲がった無形の闇が、盛大に吹き飛ぶ。
【バカ、なァ。我に届ク、攻撃ナド…!】
「なーに驚いてるのさ。言ったろうが。真実を撃ち抜く力って」
相手が虚像を名乗るからこそ、この攻撃が特攻として乗っているわけか。
「てか、マリアも手を貸してくれてもいいんだぞ」
「オッケー。だが天使の助力は高くつくぜェ? ―――顕現しやがれ、“クーゲル=アンルーフェ”!!」
白銀の粒子がマリアの全身を覆う甲冑から噴き上がり、背中の翼に収束していく。幾本もの半透明の銃火器がすぐさまに組み上がり、照準を終骸に定めた。
一発一発はさほど威力が高くない。だが、重なりあう弾幕が轟音とともに降り注ぐ。反撃も防御も許さない圧倒的な物量。
押し寄せる弾丸の波が、終骸をあたりの闇ごと押し飛ばした。
【有リ得なイ、コンナこと、コんナ事態…! 人ノ身で、甘キ偽リに抗ウなどが!】
「もう終わりにしよう。やるぞ、マリア」
「おうさ!」
【終わリを、終ワラセれルもノかッ】
三者が同時に動き出す。
【消え去レ、ニンゲン!】
「お前さんがな! 数多の祈りと願いをここに、“芳醇”!」
無数の鏡がを闇の瘴気を吐きながら迫るが、マリアが尽きることのない弾幕で次々に打ち砕く。俺は、その破片の雨を突っ切っていく。
「我流剣技・久鎖無其。プラス、 “蒼穹の真弾”…!!」
右手に填まった二つの指輪が、静かに熱く滾る。
無数の一撃を束ねて必殺を為す『剣』に、たった一つの真実を貫く『弾』の概念を装填。マリアから貰った〈トゥルム〉が分解して『剣』と融合、リボルバー式の弾倉を柄に備えた大剣に変わる。
「束ねて、断ち切れ」
勢いよく回転する弾倉からエネルギーが流れ込み、蒼く透き通った光刃が生み出された。
「――――天久無双!」
旋回して放った一閃が音すら置き去りにして、自動反撃の上から終骸を叩き破った。手元に伝わるのは、核を砕くはっきりとした手応え。
青天の頂にまで届く光の奔流で、滞留する闇の化身を一片残らず消し飛ばした。
【……………】
断末魔はない。終骸は静かに消えていった。
これはあくまでも端末で、本体はどこかにまだいるのだろうが、ひとまずは勝利だ。
「ふぅ…」
「お疲れさん。さすがレン。いい戦いっぷりだったぜ」
「それはどうも。そうだ、陽子とマリアを目覚めさせないと」
「あー、それなんだが…」
バツが悪そうに頬をかくマリア。どうしたんだ。
「ちょっち力を使いすぎちまってな。オレはしばらく眠る」
「眠る? じゃあ、肉体の方はどうなるんだ?」
「問題はそこなんだよなァ。こっちのオレは、かなり気性が荒いっつーか」
こっちのマリアは、アリエスの姉で騎士でお姫様という話だけど、そんな性格に難がある感じなのか…?
「ん、時間切れだ。まァせいぜい仲良くな。そのうち、オレも戻ってくるからよ」
「ああ。力貸してくれてありがとう。また会おうぜ」
「へっ、水臭ぇこと言いなさんな」
片手をヒラヒラと振りながら、空間が閉じていく狭間で、マリアもふわっと消えていった。
気が付けば、俺は壊れ果てた宿に戻ってきていた。陽子は気絶しているし、マリアはいまだに眠り続けているようだ。
だけど、二人とも無傷だ。それだけで安堵するには十分だった。
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