第二十二章 兄妹の休日 (後編)
リエスが言うには、山を越えればすぐと言っても道中はそれなりに長いらしい。真耶の『万召』で荷馬車を呼び出して、俺たちは一路王都へと向かっていた。
「お二人は、蓮と真耶と言うのですね。改めてよろしくお願いするのですっ!」
「あぁ、よろしくな。で、リエスの家は王都のどの辺りなんだ?」
「そうですね…えっと、都の中央の辺りなのですよ。活気があって、毎日が楽しい所なのです」
「へぇ。どこかの貴族なんですか?」
「そっ、そうですね。そのようなものなのですよっ」
真耶と目くばせする。
この動揺…ただの貴族なんかじゃなさそうだ。なにか事情があるのだろうが、面倒ごとに巻き込まれないよう無事に送り届けないとだな。
山を降りると、平原を貫いて長く伸びる表街道に出た。
「ここを抜ければ王都は目の前なのです」
「了解。…ん? なんだアレ」
行く手に見えてきた巨大な城門前に、何やら人だかりがある。微かに聞こえる、金属のぶつかる音と激しい怒号。厄介ごとのようだ。
「真耶。馬車を止めて、リエスとここで待っていてくれ」
「危ないのですよ蓮。待っていれば収まるのではないですか?」
「大丈夫。ちょっと見てくるだけだよ」
馬車から降りて、騒ぎの起こっている方に走る。喧騒を遠巻きに窺った感じだと、騎士団と、盗賊らしき集団が争ってるようだった。物騒だな…。
面倒だがこのままだと王都に入れないし、さっさと解決しよう。
「っらァ!!」
一気に直上までジャンプ。戦闘中の両者の間に割って入るようにして、地球ではスーパーヒーロー着地と言われるポーズを決めながら、拳で地面を穿った。
巻き起こる砂塵と衝撃波に虚を突かれた両陣営、その内の盗賊側が一際激しくどよめいた。
「お、おめぇは…あの時の…!??」
「っと。あの時……?もしかして、前に平原で変な鳥を出してきた奴らの仲間か」
「くそが。おめぇのせいで頭に大目玉くらっちまったんだぞ! ここで会ったには丁度いい。手土産にしてやんよ!」
なんとも小物じみた台詞とともに、盗賊達の攻撃の矛先が俺に向く。
右手の指輪を輝かせ、スキルで『剣』を呼び出すと走り始める。
別世界の俺が持っていたスキルを発動。それは唯一、目にしたことのある剣技を模倣できるという物だ。それにより、街で陽子が見せた剣技を思い出し、動きをイメージ、実行。
一歩で間合いを詰め、刹那の間に居合いを叩き込む。
「我流剣技・模倣・尾幌!」
俺の身体能力と桐立流の足運びが噛み合い、本来なら縮地とすら呼ばれる絶技と化す。衝撃波が遅れて発生し、刃が触れずとも敵が集団ごと吹き飛ばされた。
えぐれてボロボロになった大地と気絶してしまった盗賊たちを交互に確認しながら、守ったはずの騎士団もじりじりと剣をこちらに向けて近寄ってくる。
む、やりすぎて警戒されてパターンか? できれば戦いたくはないんだが…。
「待ちな!」
「ッ! 今度はなんなんだ…」
突如威勢のいい掛け声と降り注いだ弾丸の雨が、俺と騎士団の動きを止め、分断する。
硝煙の匂いと弾丸…。この中世ヨーロッパみたいな世界にそんなものがあるのか?
「ホールドアップ。そこまでだよ、剣士さん」
声に続いて騎士団をかき分けて現れたのは一人の女性だ。彼女も恐らく騎士なのだろう。肩と胸、太ももに騎士鎧を装備し、頭部には羽飾りの付いた兜をかぶっている。手練れのようだ、軽装だが隙が見当たらない。
だがそれより気になるのは、女性が両手にぶら下げている無機質でゴツい拳銃だ。やはり今の攻撃は銃器による物か。
「聞こえなかったかい? 手を上げな、と言ったんだ見知らぬ剣士さん。おまえ、お節介ではあっても無頼漢というわけではないんだろ。そんなヤツを撃ちたくはない」
「そう言うそっちは何者なんだよ」
「名乗るほどのもんじゃない。ただの銃騎だ」
なんだって? また知らない単語が出てきたぞ。
「それよりも、だ。後ろの方に止まっている馬車なんだが」
「…あの馬車がどうかしたのか?」
「ふっ。嘘が下手だな。あの中にいるのは誰だい?」
「!」
その問いかけに『剣』を握る手が硬くなる。こいつ馬車を攻撃でもするつもりじゃないだろうな。
「そう怖い顔で睨むんじゃない。なにもしやしないさ。ただこの場は退いて欲しいだけでね」
「…わかった。言う通りにする。けど、俺たちは王都に用があるんだ。大人しく通してもらうぞ」
「それで問題ないよ」
信用はできないが、今は従うしかない。相手は遠距離武器を持っている、しかも弓矢じゃなくて銃器を。『剣』しか持たない俺ではいくらなんでも不利だ。
馬車のところまで戻ると、真耶に言って馬車をそのまま進ませる。約束通り、銃を持った女騎士は手を出さずに、むしろ混乱する騎士団を諌めているように見えた。
なんだったんだあいつ…。敵というわけでもなさそうだけど。
城門をくぐると、往来が多く盛況振りを見せる街並みが広がっていた。王都の名前に劣らない人口と活気があるし、俺たちがいる街って郊外の方だったんだなぁ。
「ん…。ありがとうございました、蓮、真耶。ここで結構なのです」
「まだ中心部には遠そうだけどいいのか、リエス?」
「ええ。あとは自力で帰れるのですよ。迎えも来る手筈になっているのです」
「気をつけてくださいね、リエスちゃん。何かあったら山向こうから駆けつけますからねっ!」
「お前は少し落ち着け真耶…」
そんなこんなで、資材を帰り際に山を抜けつつ確保して街の依頼を完了し、俺たちの休日は終わった。
この世界で初めてできた現地の友人のことを二人で話し合いながら、夜は更けていった。
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王都。その中央、豪華絢爛な建築物に囲まれた要所にそびえ立つ一本の塔がある。
その最上階で、手元がようやく見えるかどうかの薄暗い部屋の中で、滑らかな金髪を月夜の光に濡らしながら少女は沈黙していた。
コンコンと窓を叩く音に、少女は視線を外にやった。
「お加減はどうだい」
「戻ったのですね。銃の騎士様」
塔の外から声をかけたのは、昼間に城門前で蓮と対峙した女騎士だった。
「おうさ、お姫さんも長旅ご苦労だったね。で、どうだった? 噂の剣士さんは」
「ええ。想像通りの人物だったのです。強く、慈悲深く、そして確かな意志がある。……安心してこの国のことを頼めそうなのです」
「そいつは良かったよ。そうだな…あの人ならきっと何もかも救ってくれるさ」
「? なにか言いましたか?」
「いや、なんにも。ここからが正念場だよ、お姫さん」
そうですねと頷き、姫と呼ばれた少女は己の国が直面している停滞が一刻も早く終わることを夜空の星に願うのだった。
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