第十四章 束の間の休息、そして
「ほらアンタたち、早く来なさいよ!」
「どんだけ元気なんだよあいつ…」
「女の子の買い物を舐めては駄目ですよ、兄さん」
人々でにぎわう街中。俺と真耶、陽子の三人は、今日は休日にしようということで、出かけていた。魔物の出没騒ぎは減少傾向にあり、街の住人もあまり気にしていない様子だ。あの終骸が魔物を呼び寄せていたと見るべきというのが真耶の見解だが、油断はできない。俺は、真耶だけじゃなく、陽子も守ると決めたんだから。
「なーに、辛気臭い顔してんのよ蓮。荷物持つの手伝いなさいよね!」
「いたっ」
両手いっぱいの荷物を押し付けてきながら、陽子が楽しげに笑っている。彼女のそんな表情を見て少し胸が痛むのは、別世界の俺の記憶を得たからか。
「にしても…服とか買いすぎじゃないか? こんなに持ってても着ないだろ」
「わかってないわねー。買うことに意味があるのよ!」
「なんだよそりゃ」
「さあ、次行くわよ!」
「はいはい…」
どうあれ、陽子が元気を取り戻したみたいで喜ばしい。散財しすぎなのはさておき。
「兄さん、陽子お姉ちゃん。通りに評判のいいクレープ屋さんがあるみたいですよ」
「へぇ、行ってみようぜ」
「くれーぷ?」
「果物とか惣菜をふわっとした生地で包んだお菓子だよ。そっちの世界にはなかったのか?」
「どんなお菓子なのかしら…。早く食べたいわ…!」
「いや答えろよ!?」
俺の知る陽子もこういうマイペースなやつだったと子ども時代を思い出しながら、我先にと歩いていく二人に付いて行った。
噂のクレープ屋に到着すると、評判に違わず、大行列ができていた。これは並ぶと結構時間が掛かりそうだな。よし。
「俺が代わりに並んでるから、二人はどこかで待ってろよ」
「了解です、兄さん」
「あら気が利くわね、蓮。そしたら、アタシは少し寄りたいところがあるから、後で向こうの広場で落ち合いましょう」
「オーケーだ。気をつけてな」
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かくして別行動になった二人は、陽子の希望により、その足でアクセサリー類を多く扱っている街一番の雑貨屋に赴いていた。
「それで、何を兄さんにプレゼントするんですかお姉ちゃん」
「ぶっ!? あ、アンタ急になにを!?」
「バレバレです。少なくとも私には」
「察しが良すぎるのよ、真耶は……」
むしろこの流れで、どうして気づかないのかと真耶は思う。元いた世界でのことを吹っ切ってから、明らかに陽子の兄を見る目が変わってきている。
ド直球に言って恋の色を感じ取っていた。
「いいんですか。あの鈍感な兄さんは、お姉ちゃんの世界とは別人なのですよ?」
「知ってるわよ…。でも、これはレンに対しての気持ちとも少し違う気がするわ。彼への気持ちには憧れもあった。けど、今のコレは…」
「それとは違う、と」
「うん。これがどういう感情なのかはわからない。だから、とりあえず思うままに行動してみることにしたの」
「考えるよりまず行動する…。陽子お姉ちゃんらしいですねえ」
でしょ、と、陽子は明るく微笑む。
「その素直さは羨ましいです。さて…それで、どのアクセサリーを買うんですか?」
「うーん。これとか、どうかしら」
陽子が手に取ったのは、ハスの花のブローチだった。
ハスの花…。蓮の華というわけか。兄の名前に掛けた乙女なチョイスに、真耶の表情も緩んでしまう。
「なら私もなにか…。ふむ、これなんてどうですかね」
「アンズの花なんてマニアックね。サクラの一種で綺麗だし、いいんじゃないかしら!」
「その通りです。でも、こんな工芸品があるなんて、この〈イグニア〉の風土は地球と似ているんでしょうか」
「どうかしら。くれーぷとかいうお菓子はアタシの世界になかったし、並行世界なんてそんな感じなんじゃない?」
似ているところもあれば違うところもある、か。興味深い考察である。あとで兄さんに聞かせるとしよう。
そんなこんなで。店員に頼んでプレゼント用の包装を施してもらい、店を出た。
「さて、次はどうしますか陽子お姉ちゃん」
「武器の調達に行きたいわね。アタシの剣、毎回使うにはちょっとピーキーすぎるし」
「それなら私の『万召』がありますから、問題ないですよ?」
「アンタのスキル便利すぎない?? …でも無尽蔵ってわけじゃないんでしょ。それに自分の武器は、手に馴染ませるものだもの」
「そういうものですか」
なぜかドヤ顔で腕組みする陽子。強調するべき胸がそんなにないのが悲しいところだと、同じ女子として同情から遠い目になる真耶であった。
その時だ。ドォン!と、街並みの向こうで爆発音が轟いたのは。
「今のは」
「さっきのクレープ屋の方からだわ。蓮が心配ね…!」
「待ってください、お姉ちゃん」
駆け出す二人。どうやら休日は返上となりそうだった。




