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燈のひかり繋ぐあかりの町で  作者: 物部がたり
第一章 ぼくの幼年期
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第4話 心にもない

 あの冒険の日から、ぼくはあかりちゃんとよく遊ぶようになった。

 遊びと言っても、男子友達と遊ぶときみたいに外で走り回ったりはできないから、室内でできることをするのだけど。

 

 トランプとか、ボードゲームとか、話をしたりとか、ちょっと調子のいいときは一緒に散歩したりだとかそんなもんさ。

 共通の話題を作るために、ぼくは今まで読んだことのなかった本を読むようになった。

 

 フリガナが付いている児童書というジャンルを、あかりちゃんがぼくに選んでくれたのでそれを読んだ。

 今まで知らなかったけれど、本を読むのは結構楽しいことを知った。

 

 文字だけの本のどこが面白いの? 

 と今までは思っていたけど文字を読むと、景色とかいろいろな出来事がぼくの頭の中で映像となって流れた。


 絵も何もないのに、どうして映像として見えるのだろう。

 不思議だ。

 好きなことの話をするときだけは、あかりちゃんはビクビクせずに話した。


 そんな日がひと月ほど続くと、少しずつだけどあかりちゃんが教室にいる時間が増えて、給食も食堂で食べるようになっていった。

 少しずつ色々とよくなってきている気がする。

 そんなある日だった。


「なあ、サッカーして遊ぼうぜ」


 白と黒のサッカーボールを持って、いつも遊ぶ男子友達に誘われた。


「あ、ごめん……、今から他の子と遊ぶ約束してて」


「またかよ……。最近付き合い悪いぞ。誰と遊ぶんだよ?」


 ぼくは何でかわからないけれど恥ずかしくて、素直に答えることができなかった。


「あかりとだろ」


「うん……」


「おまえ、最近女子とばっかり最近遊んでるよな」


 男子たちのグループの中では、女子と遊ぶことが恥ずかしいことだ、というような雰囲気が何故だかあった。

 誰が言い出したわけでもないけれど、いつの間にかそういう空気ができていた。


「あかりのこと好きなのかよ」


 ぼくはそんなこと言うつもりなかったし、思ってすらいなかったのに、まるで何かがぼくの口を乗っ取ってしまったみたいに、思いもしないことが勝手に口から出た。


「好きなはずないだろっ! ただ遊ぼうって誘われたから、遊んであげていただけさ……」


 ぼくは……ぼくは……ぼくは……なんてことを言ってしまったんだろう……。

 すぐに訂正しなきゃ……。

 訂正しなきゃ……。

 訂正……。

 ほんの少しの勇気が出なくて、言葉もでない……。


「じゃあ、あかりなんてほっといて、おれたちと一緒に遊ぼうぜ。れんが入ってくれないと、人数が合わないんだよ」


「うん……」


 からかわれるのが嫌で、ぼくは結局本当のことを言い出すことができず、男子友達とサッカーをして遊ぶことにした。

 あかりちゃんに対する申し訳なさと、自分に対する嫌悪感とでサッカーをしても楽しいとは思えなかった。


 楽しくないのに楽しそうにふるまってしまう自分が嫌になる。

 その日を境に、あかりちゃんと遊ぶのをちょっとずつ避けるようになってしまった。

 

 理由は自分でもわかっている。

 遊んでいるところが見つかって、馬鹿にされるのが嫌だったのだ。


「れんくん、後で遊ぼ……う」


 廊下とか教室で話しかけられても、ぼくはありもしない嘘の理由を作って断ってしまった。

 周りには男子友達がいたし、仲良く話しているところを見られたくなかった。

 

「ごめん、今日は……」


「じゃあ、明日……」


「明日も……」


 本当は一緒に遊びたいのに……。

 どうしてぼくは思ってもいない嫌な嘘を言ってしまうのだろう……。

 ぼくが言っているんじゃない。


 何かがぼくの体を乗っ取って言わせているんだ。

 そうに違いない、そうに違いないんだ……。

 そういうことが続くと、ぼくの体は意思とは関係なくあかりちゃんを避けるようになっていた。

 

 ぼくが避けているのだとわかると、あかりちゃんの方もぼくに話かけてきてくれることが少しずつ減って、ひと月もしない内に出会う前みたいに、一言も話すことがなくなってしまった。


 話したいのに、遊びたいのに、一言の勇気が出なかった。

 時間が経てば経つほどもっと難しくなるって、わかっているのに……。

 言うのだ、今日こそは……。


 ぼくは今日こそ謝る決意をした。

 今まで避けていてごめん、と。

 朝一番に学校に向かって、ぼくはあかりちゃんが教室に来るのを待っていた。

 

 けれど、みんなが席についてチャイムが鳴っても、あかりちゃんは現れなかった。

 いつもはぼくよりも早く、登校しているのに。


「あかりちゃんは風邪を引いたそうなので、しばらく休むそうです」


 朝の挨拶で先生はみんなに告げた。

 こんな季節に?

 今は七月だ。


 風邪っていうのは冬にひくものじゃなかったの……。

 ぼくがグズグズしていたから、言いそびれてしまった。

 神様がいじわるをしているんだ。


 再び空席になったあかりちゃんの席を見て、ぼくは早く風邪が治るように、今嫌味を言ったばかりの神様にお願いした。

 四日目まで様子を見ていてけど、やっぱりあかりちゃんは来なかった。


 ぼくのせいだろうか。 

 ぼくがいじわるしたから、病気が酷くなってしまったのだろうか……。

 だとしたら……ぼくは……。


 自分が風邪を引いたときのことをぼくは思い出した。

 心細くて、喉が痛くて、だるくて、怖い夢にうなされて……。

 ぼくには他に友達がいるけれど、あかりちゃんにはぼくしかいない。


 それなのに……ぼくは何て酷いことをしてしまったのだろう……。

 自分のしてきたことが今まで以上に酷いことであったことに、ぼくは気が付いた。


「先生……」


 勇気を出せ……。

 少し勇気を出すだけで、この気持ちがなくなるんだ。

 友達を失いたくない。


 あかりちゃんを失いたくない!

 一歩を踏み出すだけで、今までぐちゃぐちゃになっていた心は穏やかになった。

 

「あかりちゃんのお見舞いに行きたいです――」

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