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燈のひかり繋ぐあかりの町で  作者: 物部がたり
第一章 ぼくの幼年期
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第10話 打ち上げ花火

 喧騒にかき消される中でも諦めずに、僕は何度も燈ちゃんの名前を呼んだ。 

 何度も何度も声が裏返って、咳が出て、声が擦れるまで叫び続けた。

 けれど返事が帰って来ることはなかった。


 どこではぐれたのだろう……。

 いつはぐれたのだろう……。

 スーパーボールすくいのときまでは一緒にいた。


 増え続ける人混みの中で、見つけるのは絶望的だった。

 どうしよう……どうしよう……。

 幼い頃、出かけた先で迷子になってしまったときに感じた、心細さと恐怖に似た感情。


 もう二度と会えないのではないかという感情。

 この世界から消えてしまったみたいな……。

 先にバス停に戻っているかもしれない。

 

 僕は急いでバス停に引き返すことにした。

 誰もいなかった。

 バス停に備え付けられた時計を見てみると六時だった。

 

 あと十分もしない内にバスが来てしまう……。

 探しに戻るべきだろうか、待つべきだろうか……。

 僕は考えた末、バス停で待つことにした。


 すれ違ってしまっては元も子もない。

 こんなことになるならはぐれたときは、バス停に戻ることにしておくべきだった。


 時計の長針だけが過ぎて、燈ちゃんより先にバスがやって来てしまった。

 バスがぷしゅーという音を立てると、浴衣を着た人々が沢山降りてきた。

 僕はバスの運転手に少しだけ待ってくれるように頼んだ。


「お願いします……。友達とはぐれちゃって……もう少ししたらここに戻って来るかも……。だから少しだけ待ってくれませんか……」


 バスの運転手は五分ほど待ってくれたけれど、バスの時刻をこれ以上遅らせることはできないと走り去ってしまった。


 どうすれば……。

 もう一度屋台が立ち並ぶ通りに戻って、何十分も僕は入り組む通りを探し回った。

 何度も何度も同じ道を往復して。 

 

「燈ちゃん! 燈ちゃん! 燈ちゃん!」


 空も暗くなってしまって、時刻は七時前。

 頼れるのは屋台の灯りだけ。

 自分だけの力では見つけられないと判断して、今度は屋台の店主たちに「僕と同じくらいの歳の子を見ませんでしたか」と訊き回った。


 だけど、僕と同じくらいの歳の子なんて至る所にいるから、それだけでは当然見つけられるはずもない。

 涙を堪えながら必死に燈ちゃんの特徴を説明するけれど、それだけでは伝わらない。

 

 このまま見つからなかったら僕のせいだ……。

 そのときだった。

 どこからともなく僕の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「れんくん? れんくん。こっちこっち」


 となりには見覚えのある女性が立っていた。

 

「あ、やっぱりそうだ。どうだったひまわり畑、綺麗だったでしょ」


「……お姉さん」


 観光案内所にいたお姉さんだった。

 見覚えのある顔を見て、張りつめていた緊張の糸が切れ、これ以上涙を堪えることができなくなった。


「ど、どうしたの……えぇ……。な、何で泣くの……」


 僕はお姉さんに事情を説明した。

 

「はぐれちゃったのね。わかった、私がどうにかしてあげる。ここでちょっと待ってて。放送局に言って呼び出し放送流してもらえるように頼んで来るから」


 しばらく言われた通りにその場で待っていると、どこからともなくエコーがかった声が流れて、燈ちゃんの名前が読み上げられた。

 僕が探している趣旨と、待ち合わせ場所が伝えられた。

 それから数分後、燈ちゃんが見つかった。

 

 道に迷って、ずっと僕を探し回っていたけれど、探し疲れてベンチで休んでいた。

 バス停に戻ろうと思ったけれど、人混みと道が入り組んでいたため、道に迷っていたらしい。


「本当にごめん……。僕が後ろも確かめずに先先進んだりしたから……」


「蓮くんのせいじゃないよ……。私がもたもたしてたから……」


 僕と燈ちゃんは自分が悪かった、と何度も謝り合った。

 最終的にどっちもどっちで落ち着いた。

 

「じゃあ、帰ろうか」


 僕はもう二度と離れないように、燈ちゃんの手をとってバス停に戻ろうとしたとき、「ちょっと待って」と観光案内所のお姉さんに呼び止められた。


「今日はもうバスないよ」


「もうないんですか……」


 緊張と恐怖のせいで手に汗がにじんだ。

 じゃあどうやって帰ればいいのだろうか……。

 もう一生戻れないのではないか……。


「数十分前に出た七時のバスが最後だから」


「そ、そんな……」


 お姉さんは僕たちの反応を見て、切り出した。


「もし良ければ私が車で家まで送ってあげるけど?」


 僕は燈ちゃんの顔を見た。

 口には出さなかったけれど、僕は燈ちゃんに(知らない人の車に乗せてもらって大丈夫かな……?)と目で訊いていた。


「言っておくけど誘拐なんてしないからね」


「ほ、本当ですか……?」


「本当だよ。だけど私が言うのもおかしいけど、絶対知らない人の車には乗っちゃだめだからね。私はそんなことしないけど」


 言っていることが矛盾している。

 もうお姉さんは知らない人ではないのかな?

 燈ちゃんの顔を改めて見ると、コクリと燈ちゃんはうなずいた。


「じゃあ、お願いします」


「今すぐに帰ってもいいけど、もうすぐ花火が上がるけどどうする? 三十分ほどで終わるから見て帰る?」


「花火上がるんですか……?」


 訊ねたのは僕ではなく、燈ちゃんだった。


「うん、他の花火大会だったら九時くらいから上がるんだろうけれど、この町の花火は八時に上がるんだよね。もうすぐ八時だからすぐに上がるよ」


 お姉さんは手首につけた腕時計を見た。

 燈ちゃんの横顔を見て、「見て帰ります」と僕は答えた。

 もうどっちにしろ門限は過ぎているのだ。

 

 三十分遅れようと、一時間遅れようともう大した違いではないし、燈ちゃんが花火を見たそうにしている。

 それに僕も花火が見たい。


「じゃあ、付いて来て。よく見える場所を知ってるから。あ、でも何度も言うようだけど、私以外の知らない人に付いて行っちゃだめだからね」


 本当に悪い人ではないのだと、お姉さんの言動一つとってみてもわかった。

 僕と燈ちゃんの保身のために言っておくけど、普段は知らない人にひょいひょい付いて行くような軽い子供ではない。


 今回は特別だ。

 お姉さんの後に付いて行くと、階段を上ることになった。


「ちょっと待ってください……」


「どうしたの? この上からよく見えるのよ」


 燈ちゃんの心臓が弱いことを僕は伝えた。


「激しい運動は駄目なんです……」


「ああ、そうだったの……。じゃあ、私がおぶってあげる」


「大丈夫なんですか……?」


「か弱い私でも、女の子一人おぶるくらいの力あるわよ」


 力こぶを作って見せた

 自分でか弱いって……。

 お姉さんは燈ちゃんをおぶって、石段を上がり始めた。 

 

 階段を半分まで上ったとき、空気を切り裂くようなシューという音がして、閃光が広がった。

 白と黒の二色が世界を包み込み、すべてがコマ送りに見えた。

 少し遅れて空気を揺らす爆発音が鼓膜を震わせる。


「花火上がった」


「もうすぐだから」


 お姉さんはゼーゼー言いながら、最後の力を振り絞って石段を駆け上がった。

 階段を上がってすぐに、花火が咲いた。

 石段は上った先は神社。

 神社の境内にベンチが置かれていて、そこから花火がよく見える。


「はぁはぁ……、だ、誰も、はぁ、いないでしょ……。絶好の……はぁ、穴場スポットなんだから……」


 長距離マラソンを走った後のような疲れ方をしている……。

 僕たちはベンチに座って花火を見た。

 僕たち以外には誰もいない境内で。

  

 まるで僕たちだけのために花火が打ち上げられているかのような気分だ。 

 色とりどりの菊花火、牡丹花火、型物花火。

 火薬の匂いと、煙たいモクモク、体の芯から響く音、綺麗な光。


「すごくきれい」


 燈ちゃんはぼそりと言った。

 額縁から切り取ったみたいな色とりどりの花火が、画面一面に広がった。

 

「うん、きれいだ」


 花火も、燈ちゃんも。

 色々あったけれど来て良かったと心の底から思った――。

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