#2─②
ガイアとイーシスは目を丸くさせる。エリザが人格データに破損があると報告していたため、二人は彼女からまともな言葉が聞けるとは思っていなかったのだ。
流石、最高到達点のモデルと言われるだけある──そう関心していると、彼女の背後でポータルからケーブルを抜いたエリザがこう言った。
「先程の救難信号は、あなたが出したのではないのですか」
「救難信号? 何の事──ッ!!」
エリザの問いに応えながら振り向き、エリザを視界に捉えたその直後。
彼女は目つきを一瞬丸くさせた後に敵意を宿した物へと変え、右手に持っていた斧を素早く両手でしっかりと握り、左足で踏み込みながら腰を落とす。
素早く切り払われた斧の一閃。斧が振るわれた先には、肩関節の部分でバッサリと斬られたエリザの右腕が内部の機械をむき出しにした状態で力なく宙を舞っていた。
攻撃の直撃を回避したエリザの着地の音と同時に、宙を舞っていた腕が鈍い音と共に地面に落下する。
その様子を見た彼女は、実に不愉快と言わんばかりの表情で毒づいた。
「今のを避けるとは、多少はやるようだな」
「ちょ、ちょっと、いきなり何するんですか!!」
突然の信じがたい暴挙に出た女ヒューマノイドの行動に驚き、ガイアは剣に手を添えて真意を問う。
すると、彼女はガイア達の価値観では考えられない言葉を口にする。
「……そうか、その出来の良い木偶は貴殿らの所有物か。
それはすまないことをした」
その言葉に、場の空気が凍り付いた。
「は……?」
目の前の人物が当たり前のように吐いた言葉に、ガイアは顔に冷や水を掛けられたような感覚に陥る。
直後にガイアの心に沸き上がったのは、彼女の明後日な方向への解釈と、そこから導き出された差別発言に対する怒りであった。
「謝罪して下さい。
エリザさんを木偶と言った事を、今すぐ」
「……どうやら、とんだ見当違いだったようだ」
そんなガイアの怒りを抑えた懇願を聞いた途端、彼女の目つきと声色が侮蔑を含んだ冷たい物へと豹変する。
そして──
「人の姿を模倣した機械の癖に、人に劣る芸しかできぬ、生き物と呼べるのかどうかも分からぬ者に頭を下げる。
大層立派な心掛けだ。私ならそんな身の程を落とすような真似、恐ろしくてとても出来んよ」
その口から続けて紡がれた皮肉の言葉は、彼女との溝を決定的な物へと変貌させた。
ガイアとイーシス、そして一人離れた配置のエリザが各々得物を構える。
「光栄に思うがいい! このバネッサが貴様ら反逆者の処刑人になることをな!!」
その言葉を言い終わるのを待たず、ガイアが剣を構えて飛び出し、イーシスが上空から狙撃弾を放つ。
しかし、バネッサは弾丸を斧の一閃で軽く弾くと、ガイアの剣閃を斧の石突の方で軽々と弾いてその鳩尾に鋭い突きを繰り出す。
「がッ……!?」
早い上に、気を失いそうになるほどの鋭く重い一撃。だが、そこからの追撃を阻止するべくバネッサの背後、ガイアを射線上に巻き込まない角度に回り込んだエリザが、銃身に換装した左手の五本の指先から銃弾を乱射する。
しかし弾が足に着弾する直前、凄まじい力で斧を床に深々と突き刺して固定させたバネッサは斧へと駆けあがっており、弾は床を削って虚空へと跳弾する。
そして、斧の刃を踏みつけて位置取りを変えようとしていたイーシスの方に跳躍した。
「な──」
その驚異的な身体能力に驚く暇もなく、イーシスは背中に衝撃を受けて地面へと叩き落される。
そして立ち上がろうとしたところを真上からバネッサに着地され、その衝撃に耐え切れずにイーシスは気絶してしまった。