#2─①
最奥の橙色の光を放つエネルギー炉。その低い駆動音だけが不気味に木霊する広大な空間は無数の照明によって昼間のように明るく照らされており、そこを分厚い二重ガラスで遮った手前には規則正しく並んだ円の床と、その縁からせり出しているのであろう円柱型のマシンが間隔をあけて整然と並び立っていた。
エリザは未知のものが詰まった空間を見回す二人を先導しながら解析を進め、その結果を二人に解説する。
「どうやら、当施設のリソースはこの修復プラントエリアに優先的に割かれているようです。
しかし、やはりエネルギー炉は整備用の機体が居ないため経年劣化が激しく、いつ停止してもおかしくありません」
喋りながら少し早足で歩き、やがてエリザは数少ない地上にせり出している円柱形のマシンの中から、駆動音が聞こえる一基の前で立ち止まった。
「先程の信号を感知した座標に到着しました。
これより、機器内部の解析を開始します」
そう言うと、エリザは修復マシン本体の隣に置かれている操作ポータルにケーブルを接続し、どのようなシステムで構築されているのかを解析していく。
「データ解析完了。マシンの修復システムに破損を確認。
プロセスが正しく実行されておらず、機体の修復が完了していない模様。
そして先程の救難信号は、この修復マシンを介して内部の機体から発せられたようです」
「その機体がどれくらい直ってるかは分かるかい?」
「一部システムの他、人格データの大部分が未だ修復できていないようです。
今救出しても正常であるという保証はできませんが、過去最高の成果が上がる可能性は高いです。
ガイア様、どうなさいますか?」
イーシスの質問に答えた後、エリザはこのパーティの最終決定を担うリーダーであるガイアの方を向いて尋ねる。
「救出しましょう。見殺しにはできません」
「了解しました。
これよりパターン解析の後に命令信号を偽装し、機体を回収します」
ガイアの迷いない判断に従い、エリザは偽装信号を電子頭脳内で構築して接続中のマシンへと送信する。
『緊急停止信号ヲ受信。修復機体ノ排出、並ビニ機体ノ起動しーけんすヲ実行シマス』
壊れかけのノイズ交じりの機械音声が修復マシンから再生された直後、修復マシンとこの空間に変化が現れる。
エネルギー炉の駆動音が重く響き、空間を照らしていた照明は不規則に明滅を繰り返す。
そして、修復マシンも小さな電子音を鳴らしながらプシューと空気を吐き出し、円柱の壁になっていた二枚の扉が観音開きで徐々に開いていく。
そこから姿を現したのは、細さを維持しながらも鍛え上げられた筋肉に、風化も境目も目立たぬ肌、ショートヘアに気の強そうな顔立ちと、右手にはその高い身長と同じくらいはあろうかと言う、赤い鎧に身を包んで戦斧を携えた女戦士。首の接続口に刺さっていたコードが無ければ、一目見てもアイアンゴーレムではなくホムスだと信じてしまうだろう。
そして機体の背面がせり出し、修復マシンが起動シーケンスを実行した旨を報告する。
腰の固定具が背面からせり出し、機体が地面に両足を付けた直立不動の状態になると、首に刺さっていたコードが抜けて背面へと戻り、彼女のコード差込口には人工皮膚のシャッターカバーが下りる。
円柱形の修復マシンは観音開きになっていた扉が閉じ、操作ポータルと共に床へと引っ込んで収納される。
そして──女戦士のヒューマノイドが薄っすらと瞼を開けた。彼女は瞳のカメラを細かく動かしながらうつむいていた顔を上げ、ガイアとイーシスを視界に捉えると一瞬驚いた後にこう言った。
「お前達、見ない顔だな……。私を助けてくれたのか?
それと、ここはどこだ?
私は先程まで戦場にいた筈なのだが……」