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ヒューマノイド・バネッサ  作者: ふぉるて
第1章 再起動
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#1─①

 森の草木が生い茂る中、男女混成の三人組が草をかき分けながら歩みを進めていた。

 一人は、黒髪ツンツン頭で腰に剣を下げた二十代前半の男リーダー。一人は、長身の銃を携えた二十代後半の、真っ白い翼が肩甲骨の下あたりから生えた有翼人の男。最後の一人は、頬の皮膚に縦方向の線と、木々の間から差す微かな日光に鈍い輝きを返す指、間近でなければ聞こえない程に小さな駆動音が聞こえる肉体を持った、肩まで届かない程度の銀髪がきらめく麗しい女性であった。

 そして、ギルドで受け取った地図の通りに森を進んでいた三人の視界が一気に開ける。

 視界の先には建造物があり、リーダーの男がメンバーの一人に確認を取る。


「エリザさん、あれですか?」


「一致率80%。風化が見られますが、目的地で間違いありません」


 エリザと呼ばれた女性は眼球のレンズを忙しなく動かし、ギルドで記憶した写真との照合処理を行い、結果を報告した。

 抑揚のはっきりとした感情がこもっていない声をリップシンク(口の動き)に合わせて喉奥の人工声帯から発しながら、電子頭脳で自分が次に取る行動を行うための命令信号を両手へと送る。


「では、これより内部構造の分析を行います。

ガイア様、イーシス様、完了まで周囲の警戒、並びに護衛をお願いします」


 そう言うと彼女は左手首から先と右手の中指の変形を開始し、左手首を超音波発生装置、右手中指を吸音パネルにそれぞれ換装させ、それを施設へ向けて起動することで内部構造の解析を開始した。

 そしてエリザの分析の間、残った二人──身体能力の高いホムスの男・ガイアはエリザの傍らで、有翼人種クーリアの男・イーシスは空中から周囲を警戒する。エリザと出会った当初こそ挙動や独特な兵装に驚いたりもした二人だったが、今となってはもはや慣れたもの。

アイアンゴーレムという機械仕掛けの身体を持つ人類種の彼女は、パーティの一員として十分な信頼を置かれていた。


「にしてもそれ、本当に便利ですね」


 警戒する姿勢は解かないまま、前二回に比べて時間が掛かっていることを察したガイアが暇潰しに話し掛ける。

 その言葉に対してデータの解析速度を若干低下させても問題ないと判断したエリザは、電子頭脳に今作った余分の思考プロセスを使って数秒の間を置いて言葉を返した。


「……ありがとうございます。他にも装備を換装すれば……、後方支援から前衛までこなすこと……も可能です。

カスタム機……能による拡張性……こそが、我々ア……イアンゴー…………レムの長所ですの…………で」


「……ごめんなさい、処理落ちさせてしまったみたいですね」


「いえ…………お気になさ……らず」


 不自然な間が生じ、最後の方ではリップシンクと音声にズレが生じたその様子から、施設構造の広さとエリザの電子頭脳に負荷をかけてしまった事を察したガイアはそのまま口を閉じた。


 彼女の種族名は、アイアンゴーレム。機械で構成された身体を持ち、各種パーツやプログラムをカスタマイズすることによる無限の拡張性が特徴の種族であり、エリザは解析と射撃支援に長けた中衛タイプであった。

 だが、一見万能そうに見えるアイアンゴーレムには幾つか明確な欠点もある。一つは、専用プログラムが無ければ声色や表情から感情を読めない事。二つ目は、機械の身体である都合上怪我をすると自然治癒が行われない事。そして三つ目は、過負荷によるオーバーヒートの危険性が伴う事である。


「電子頭脳の急激な温度上昇を確認。放熱を行うため、現在のタスクは低速モードに移行します」


 エリザの口からシステムメッセージが発せられると同時に後頭部のハッチが開き、ひしめいていた機械が脇の方に逸れて50℃程に上昇した電子頭脳まで直通の穴を作り出す。

解析対象の想定外の空間の広さとガイアとの会話と言う負荷が重なった結果、電子頭脳の処理が追い付かなくなってしまったが故の出来事であった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] プロローグで、主となるであろうアイアンゴーレムの当世界での立場を表し、その半世紀後のこの話にてこの三人組への特異感が出てる印象が持てました。 処理落ち、不具合も愛嬌ですね。これぞメカ娘……
2021/08/31 11:35 退会済み
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