『好きです。』
携帯小説系の話を書いてみたかっただけです。
夏休みくらいに書いていたはずだったのですがねぇ…(遠い目
卒業式の季節になると皆少なからずドキドキする出来事がある。
バレンタインデーはもう既に終わってしまっている。
それでは何であろうか?そうお思いになられるであろう。まぁ題名から聡い人は分かってしまわれるだろうが、そう卒業式の後に待っているお決まりの後輩(又は同級生)からの告白である。
そんなのいくらなんでも漫画の中だけだろ。とか仰られる方もいるかもしれないのだが私の学校には卒業式に告白して両思いになれると一生幸せに暮らせるという伝説がある。
だから三月になると男子女子共に妙に優しくなるのがこの学校の風習ともいうべきところだ。
終礼が終りいつも通り皆が帰る準備をし始めたとき。
「鷹野さん…良かったら一緒に帰らない?」
隣の席の太田君が少し恥ずかしそうにこちらの表情を伺っている。
ほら来た。決して自分の顔が良いと思ったことはないし告白された事もないのだが結構趣味悪い人達の間ではもてる方だと思う。しかしこんな大物に話しかけられるとは私もそこそこ可愛いのかもしれない。
「別に良いよ。彩子も誰かと一緒だろうし。」
彩子というのは私の親友だ。最近隣のクラスの夏目君とできているという噂がある。そのせいで最近一緒に帰ってくれないのを少し寂しく思っていた。だから誘ってくれたことがうれしかった。
太田君は嬉しそうな明るい表情をした。
(太田君って結構可愛い所あんじゃん…。)
いつも本ばかり読んでいて高身長で近づきずらい雰囲気をだしているからほとんど話したことも無かった。まさかこんな風に話せるときが来るとは思っても居なかった。
「それじゃあ…っと少しだけ図書室によっても良いかな?」
誘っておいてそれはないだろうと、内心呆れるがせっかくの男子とお近づきになれるチャンスだ。このチャンスを逃したら卒業までは巡ってこないかもしれない。
「……うん。少しだけなら構わないよ。」
図書室なんて聞いただけでもやんなってしまう単語だ。
あの静かな空間がどうしても嫌なのだ。よく読むのは携帯小説だし、(無論そんな本置いていない。)図書室なんて眼鏡のオタクがいくところだという先入観があるからだ。(んなわけねぇだろ。)
図書室には幾人かの眼鏡がいた。といっても全員が全員眼鏡な訳ではなかったが。
太田君は慣れた様子で無駄に広い図書館の棚と棚を間をひょいひょいと通っていく。
図書館のどこにどんな本があるかを大体把握しているのだろう。目的の場所まで着くのに時間を要さなかった。
「鷹野さん本とか読まないでしょ。」
太田君はこちらに向けて微笑んだ。彼の眼鏡は彼の知性を表しているようでいいなぁと思ってしまう。
「だって本ってかったるいし…。」
メールとかドラマとか色々面白いものがあるのにわざわざ読書なんていう気が知れない。
「鷹野さんはアニメとか見る?」
何が言いたいのだろう。もしかして私がアニオタにでも見えるって言いたいのか?
私はちょっとむっとする。しかし質問に答えないわけにいかず差障りのなさそうな答えを出す。
「まぁ…名探偵コナンなら弟の影響でわりと見てるけど…。」
太田君はふっと姿を消したかと思うと本を持って戻ってきた。
「江戸川乱歩とコナン・ドイル。どちらも有名で面白い話だよ。」
江戸川乱歩とコナン・ドイル…。江戸川コナン…。
私の頭の中で見た目は子供頭脳は大人(略)というテロップが流れた。
「新一の仮の名前の元になった名前の人でしょ!!知ってる知ってる!」
思わずにこにこしながらその本を受け取ってしまった。
これでは私は本当にアニオタみたいではないか。
「鷹野さんに喜んでもらえて嬉しいよ。推理小説系好きなの?」
その一言で私の何かに火がついてしまったようだ。
ドラマで色々みたりしているから結構好きなんだといえよう。
気づけばいつのまにか何十冊という本を手にさせられていた。
「ごめんなさいね鷹野さん。太田君。そんなに一辺には借りられないわ。」
と図書館司書の先生に笑われてしまうほどに。
私の学校の最高同時貸し出し数は三冊までという誰が決めたのか知らないがそういう規定がある。渋々三冊に絞りそれを真新しいままの自分の図書カードに書き込み借りた。
図書室を出ると太田君は自分の借りた本を私に押し付けてきた。
「これ、あの中からお勧めの三冊を俺の分で借りといたから。是非読んで欲しいな。」
まるで御伽噺に出てくる王子様のような笑顔だ。まぁ本当に御伽噺にでてくる王子様ならば女の子に重い本を六冊も持たせるようなマネはしないだろうが。教科書は入っていないが6冊もの本が入った鞄はとっても重かった。私は少し眉間にしわを寄せながらそれを持って上履きを取ろうとする。その様子を見ていた太田君は自分が結構酷いことをしていたことに気づいたらしく私に声をかける。
「重い…よね。鞄持つよ。」
「いいって。」
「でも…悪いし。」
そういって太田君はちょっと強引に私の鞄を持ってくれた。
太田君はまじで王子様なのかもしれない。それか本の精霊。
私はちょっぴり太田君のことが好きになってしまったかもしれない。
二人きりの帰り道。太田君は意外にも話すことが面白く互いに夢中になって話していた。
気がついたら家についてしまっていてちょっと名残惜しかったけどまた明日と手を振った。
夕飯が出来るまでの間私は自室のベットに横たわりながら借りてきた本に目を通していた。
やはり本はつまらない。でもなぜかいつもよりかは少しだけ面白いと思った。
それはきっと彼の所為だろう。
「なんだかな〜。」
なんだか少しだけ複雑な思いだ。
本を閉じて目も閉じた。目を閉じても脳裏にこびりついた彼は消えそうにない。
彼の笑顔が消えてくれない。
とろんというかふわふわっとしたその雰囲気に負け私はそのまま眠りの世界へ落ちていってしまったのだった。
ー翌朝ー
気づいたら朝になっていた。私は慌ててシャワーを浴びて学校に行く準備をする。
「ほらゆっちゃん。なんだか知らないけど玄関で格好好い子が待ってるよ。だれだれ?彼氏?」
制服のスカートをベルトで止め軽く化粧をしていると母親が入ってきてそういった。
勿論今彼氏さまなんぞいない。居たら太田くんなんかと一緒に帰ったりしないし。
急いで下に降りると玄関でメガネを外した太田君が待っていた。
「鷹野さん、おはよう。」
眼鏡を外しただけではない。割と長く伸びていた髪を切って前髪オールバックにしている。
日本人の割に鼻が高いせいかそれがとても似合っているのだ。
「おっおあよう…。」
ドキマギしてしまってうまく喋ることができない。
「ゆっちゃんいってらっしゃい〜母さんは二人の未来を応援してるわ〜。」
余計な事いうなっての!!
母さんの言葉のせいでなんだか気まずくなってしまった気がする。
「…なんでいきなり髪切ったの?それと眼鏡…。」
太田君はすこし困ったような表情をした。
答えは…ない。
少しこちらが落ち込んでいる素振りを見せると顔を真っ赤にしながら慌てて答えた。
「見合う男になりたかったから?」
恥ずかしい奴…。こんなこという男なんて天然記念物級じゃないか?
天然記念物のせいでせっかく朝一緒に行けたというのにほとんど何も話すことが出来なかった。
学校
「湯葉〜、今日さ一緒がっこさぼってカラオケ行かない?夏目は行くっていうんだけどさ。」
湯葉というのは私の名前である。ネーミングセンスは最悪だと思う。
豆腐のあれだよ?なんでそんな可愛くない名前なんだろう。
まぁそんなことより珍しい。最近まったく話し掛けてこなかった彩子が話し掛けてきた。そろそろ夏目君とも終わり近いんかな?なーんて親友としてはひどいこと考えていた。
「でもぉ〜二人の邪魔しちゃ悪くない?」
私はあえて大声で言う。
「元々付き合ってなんかないっての。最近付き合い悪かったの根に持ってるっしょ。まじごめんって。最近結構いいお兄さん所でバイトしててさー。夏目の紹介なんだけどね。で、どうするの?」
はっきりいってしまえば行きたくない。カラオケが嫌いというわけではないのだが隣のクラスの夏目君といったらワルで有名なのだ。私みたく軽く茶髪いれて化粧してピアスしてるだけじゃない。薬から暴力から万引きから殺し以外の犯罪は大体犯しているのではというほどの噂のある男だ。彼女は北から南に千人は下らなくて…。
誰かに背中を押され、私の妄想は強引に中断された。
「ほらほら、これが夏目。」
その犯人はどうやら彩子だったようだ。お主三代先まで呪って…というか隣にいる人…超美形さんだ…。本当にモデルではないかと思うほど美しいスタイル。
噂の人物とは全くもって別人のようだ。
「どうも。鷹野さんだっけ。よろしく。夏目修哉です。」
「ど…うも…。」
握手を求められきゅっと手を握られた。やばいこれだけでも死ねるわ。
この時私は完全に太田君のことは頭から忘れ去っていた。
夏目君はゆっくりと私を見つめた。それはなんだ詮索されているようでありながらすこし恥ずかしいような不思議な感じがした。
夏目君の形のいい唇がすっと開いて音を発した。ただあまりにぼんやりとしすぎていて私には彼が何を言っているかまでは聞き取ることが出来なかった。
「鷹野さん!!鷹野さっ…。」
呼びかけに私がびくっと肩を震わせたを見て夏目君は安心し、こちらに微笑み掛けてきた。
「湯葉ったら突然フリーズすんだもん。びっくりしたわぁ。」
彩子はお腹を抱えて笑っている。
こんなイケメン見たらフリーズもするよ。
なんていうとなんか面食いみたいだしと思い私は何も言わなかった。
それにしても吸い込まれるような瞳だ。本当に綺麗・・・。
「あっ修哉!」
太田君が夏目君の方へ走ってきた。
「美梨どうしたんんだよ。」
太田君の下の名前は美梨というのか…。なんだかかわいい名前だ。というか少し女のこっぽすぎる気がするけど…。気のせい…か。
「いや?修哉がいるのが見えたからつい…。」
仲がいいのか下の名前で呼び合っている。
「いつまで経っても俺っ子だよなー美梨はー。」
夏目君はぐしゃぐしゃになるぞというほど太田君の頭をなでた。
…なんか…動物のふれあいみたいだ。
私は一人でにやにやとしてしまった。
「ん?鷹野さんどうかした?」
「友達っていいなぁって思って。」
二人は同時に天井を見たあと顔を見合わせた。
「友達…ねぇ。」
太田はふっと笑った後授業があるからと戻っていった。
その謎の笑顔がとても気になった。
でも夏目君はてきとうにはぐらかすしきっと本人に聞いても教えてはくれないだろう。
「もうなによ…。太田の馬鹿〜!!」
もう小さくなってほとんど見えなくなってしまった彼の後姿に向かって私は思い切り叫んでやった。
それですっきりしたわけではなかった。むしろなんだか不快なもやもやが残ったが私はそれを気にしない事にする。
彩子は口元を少し上げてにっこりというよりはこう少し気持ち悪いというようなにやにやした笑いを向けてきた。
「湯葉あれの事好きなの〜?」
「え?鷹野さん美梨の事好きなんだぁ…へぇー。」
夏目君も彩子と顔を見合わせなんだか楽しそうに笑っている。
ほらやっぱり二人はお似合いではないか。
「好きじゃないってば!!」
私は慌てて反論をした。いや、そこまでして反論する必要はなかったのだろうが、というかそんな事をしては相手の思うつぼということはわかっていたがやっぱり・・・ね?反論してしまうのが人間…特に思春期の人間というものではないかと思う。
案の定私の言葉に更に二人はにやにやとした。
あー…もー…。
「二人とも付き合っちゃえば良いのに。二人の方がよっぽどお似合いよ!!」
やけくそのように私は言った。まぁ本当に苛々していたからというのもあっただろうが。
二人は視線を合わせ見詰め合った。ほらほら、両想いじゃない。私が仕返しのごとくにやっと笑って見せるとまるで間欠泉が噴出したかのように二人は笑い出した。
「ないない。」
「そーそ。彩子ちゃんは確かに良い子だとは思うけど。」
二人は同時に声を合わせていう。
『タイプじゃないんだよねー。』
ほうそうか・・・タイプ…か。
たいぷってなんなんだろうか?性格の事?顔?スタイル?成績?それは物の好き嫌いと同じものって考えれば間違えじゃないの?
私は混乱に陥った。何気なく使うタイプってどういう意味だっけ?
私は頭の中の許容量の少ないそれでも空間ががら空きの本棚から白紙だらけの自分辞書を取り出す。
タイプ…性格の分類とか…ものの型とかそんなの。
アバウトすぎるだろ…。私はこの瞬間自分の頭の悪さを嘆く事になった。まさかこんなところで、こんな授業前(いやもしかしたら授業中かもしれないが)の他に誰も居ない廊下でそんな事を悩む羽目になるとは…思いもしなかったのだ。
「それじゃ太田君も私のことタイプじゃなくて…私も太田君がタイプじゃないって事なのかな?」
夏目君はしばらく私を見つめた後おもむろに頭を撫でてきた。
「鷹野サン…可愛すぎるでしょ。頭が。」
頭が可愛いなんて初めて言われた気がする。というかそれは褒め言葉なのだろうか?ちょっと微妙だ。むしろ馬鹿にされてる気がする。
「確かに美梨のタイプじゃぁないかもですな。でもあいつが鷹野サンの事を意識してるってことは確かみたいですけどね。」
にやにやと夏目君は笑う。ちょっと意地悪い感じもまた格好いい。
ふーん。恋愛というのは意外と面倒くさいものなんだなぁ…。人間はタイプでもない相手のことを好きになる事があるだなんて…。
まぁ私も同じことがいえるんだろうけど。太田君が好みのタイプだなんて絶対思わないし。
むしろ付き合うなら夏目君…いやこのひとも生理的に受け付けないからな…。
「彩子だったらどんな基準でタイプかタイプじゃないかって判断してんのよ。」
彩子はしばらくの間考え込んでいた。そこまで考えなければいけない質問を私はしてしまったのだろうか?それなら悪い事をしたと思う。
「まぁ…頼ってくれる人とか好きだな。」
彩子はどこか心ここにあらずという表情をした。いや本当に心が飛んでってしまったいるのではないかと心配するほどに。
「彩子ちゃんは頼ってくれる人が好きなんだね。それじゃあ鷹野サンは?どんな人が好きなの?」
私のした質問にまさか自分が答えなければならなくなるとは思いもよらなかったから驚いてびっくりした声を上げてしまった。
「えっと…。」困ってしまう。
なんて答えればいいんだろう。今までずっとそんなこと考えたこと無かった。
小学生の時に少女漫画で読んで恋とかしてみたいなぁと思ったりしたけれど、実は実際誰かを好きになったりなんていう経験はあまり無いんだ。だから…分かんない。
でもそれをどうやって伝えればいいかわかんなくて頭ぐるぐるしていて・・・。
「わっかんない!」
つい叫んでしまった。
彩子と夏目君がびっくりした顔でフリーズしている。大声を出しすぎたかもしれない。
しばらく黙っていたと思ったらいきなり二人は噴出した。
「ぷはははっははっ。なにそれーっ。」
彩子は大袈裟に笑う。そんなに笑うと化粧崩れるよ。っていいたくなるくらいに思いっきり。
「鷹野サンほんとっ…可愛いなぁ。美梨が惚れるわけだわなぁ。」
また夏目君がにやにやと笑った。
「だぁぁあああっ。」
私は手をばたばたと振って反論する。
「授業中だぞ!クラスに戻りなさい!」
先生の怒鳴り声が聞こえた。
「…っあ。」
私は情けない声を出して彩子を見上げる。
「んじゃ、そういうことでっ夏目とカラオケ行ってくるから湯葉あとよろしくねぇー。」
いつの間にか二人は階段を駆け下りていた。
「ちょっとーーっ。」
私もその後を追おうとしたが国語のハゲ親父に捕まってしまった。
「たあああああかあああああのおおおおっ」
禿げ上がった額に青白い血管がぴくぴくと浮き上がる。
相当怒っているようだ。
「ごっごめんなさいいいいいっ。」
私は逃げ込むようにして教室に入る。
その様子を見てクラスメートは笑い転げたがちらりと視線をずらし太田君の方を見ると彼は私を見て意味ありげにくすりと笑った。
その行動に全身が沸騰するように熱くなる。胸が高鳴り、頭が真っ白になっていて…。
私は席に着くと太田君の方を見ることが出来なかった。
彼はそっと自分の取っていたノートを私に差し出してくれたけれどお礼を言うことさえ出来なくて自分は情けないなぁ…って思ったのだった。
これはきっと恋の始まる一歩手前なんだろうなぁ。
なーんてぼんやり考えながら私は必死に国語のノートを書き写していた。