焼芋戦争
全く売れないな…。
俺、風浜 竜は売れ残った焼き芋を見て思わず苦笑した。
本当なら高校生でもおかしくない年齢なのだが昔からあこがれていた焼芋屋になる事を決意したのだった。
何故あこがれていたかって?それは焼き芋が大好きだからさ!
しかしもう三月も終りの方に入りこの仕事もそろそろやめたほうが身のためだろうと思い始める
季節になった。
夏には焼きトウモロコシを売ったりしているがその年収は笑いが出るほど少ないものだ。
「石焼芋ー。お芋〜。」
すっかり暖かくなってしまった昼間より夜間の方がまだ売れるだろうとせっせと夕方から焼き始めていたのだがその夜になっても客はちっとも来ない。
昼間に焼いた冷めてまずくなった芋は燃料へと変わる。
最悪の場合自分で食べる事もしばしばだ。
子供づれの親子の横を通る。ゆっくり、ゆっくりと。
「あ、焼芋だ!!」
子供が云った。
よっしゃ!!内心俺はガッツポーズをした。
しかしその期待はすぐに裏切られる事となった。
「ダメよ。さっきおやつは買ったでしょ?」
そう言って母親が子供を制す。
「美味しい〜美味しいお芋ですよ〜♪」
これ見よがしに放送すると子供は美味しいんだってよ?と母親に話しかける。
いけ!!
「だって焼芋は秋に食べるから美味しいんじゃない。正志帰るわよ。」
母親は全く買おうという気が無いらしい。子供の手を引いて強引に帰ろうとした。
俺はしょうがなく窓から首だけをだす。
「まじで美味しいんで買ってください!!」
そんな俺の姿に唖然とする親子。
先に硬直を解いたのは子供のほうだった。
「ほらママ〜。美味しいっていってるし買ってあげようよ〜。」
ナイス正志君!!
「不景気でそんなお金ないんだからダメよ!!」
母親は強情に買わないつもりらしい。
「ママこないだ男の人とこっそり食べに行ってたことパパに行っちゃうよ?」
正志君は不機嫌そうな声で言った。
母親は驚愕した様子だ。
「あ…あれはね?ちょっと昔の友達と食べに行ってただけで…。」
あと一押しだ!
「お願いしますよ奥さん。今日全然売れて無くって困ってるんですよ。あ、知ってます?焼芋って肌にいいらしいですよ?」
俺は何気無くゴマをする。
母親は財布の中身を確認し始めた。やった勝った!!
「…すみません。なんか買い物でお金使い切っちゃったみたいで。」
どうみてもまだ札が入っていそうな財布をいそいそとしまった。
「ほら、正志帰るわよ。あとでソフトクリーム買ってあげるからパパには内緒ね!!」
母親の囁く声が俺にははっきりと聞こえた。
ソフトクリームと聞き、喜ぶ正志君の声も…。
そうか…。こないだちらりと見た駅前の喫茶店のソフトクリームは確か100円セールをやっていたはずだ。
焼芋は一個300円。確かに安上がりで済むとはいえない。
クソ…。俺は怒りに任せてもう売り物としては使えなくなった焼芋を握りつぶす。
そうすることで空しさはさらに広がり俺は深い溜息をついた。
「あの〜…。」
ふと横をみるとおとなしそうな中学生くらいの女の子が立っていた。
「どうかしましたか…?」
俺は暗い声で少女に尋ねる。
「三万円あったら100個買えますよね?100個貰えませんか?」
焼いていたのはちょうど100本。
「はい!!かしこまりました!!」
俺は涙ぐみながら焼き芋をつめていった。
「私…ここの焼芋…大好きなんです。また買いにきます。」
少女はふわりと微笑んだ。
遠ざかっていく後ろ姿を俺はいつまでも見つめていた。
今日の収穫3万円と初恋の…予感…。
2009,3,21