スマホ
一年以上ほったらかしちゃったけど、気が向いたので。
またぼちぼち書いていくよ。
「なぁ久楽さんや」
「んあ」
「スマホってどうやって動いてんの?」
「……はい?」
改まってそう言われると、確かに分からない。これだけ日常に溶け込みもはや必需品と化したスマートフォンであるが、正直その仕組みを理解している人など使用者の1%にも満たないのではないだろうか。
翔の誰も気にしないところを気にする妙な鋭さはなかなか侮れない。
……本人に言うと調子に乗り過ぎるので言わないが。
「いや……パソコンとタッチパネルが合わさった感じなんだろうけど、詳しいことは分からんな」
「うーむ、久楽でも分からねーかぁ」
その時、ガラガラと部室の扉を美濃が開けた。
「……来た」
「おー、魔王じゃん!」
「よう」
コクリとうなずき返し、魔王こと美濃も席に着く。
「……なんの話?」
「いやさ、スマホってどう動いてんのかなーって」
「俺は分からなくてな」
小首を傾げ、ジッと翔を見つめる美濃。常に無表情すぎて何考えてるか分からんが、どうやら多少詳しそうだ。
「……ソフト?ハード?」
「やだなぁ魔王、SM趣味の話じゃないってば」
「そっくりそのままお前に返すわ」
「……両方?」
「事態を悪化させるな」
「んでんで、ソフトとハードっちゅうのは?」
「……説明しよう」
「ヤッ○ーマンか」
アプリやシステムなどのデータ上の仕組みはソフト、バッテリーや画面などの物理的な仕組みはハードに分類されることは俺にも分かる。
とは言えスマートフォンがどのような仕組みなのかは全く分からないからな、是非話を聞いてみたいところだ。
「……ソフトはプログラムとかのこと」
「っつーと、ゲームとか写真の加工アプリとか?」
「……そう。あれはパソコンとほとんど同じ」
「ほとんどと言ったが、何が違うんだ?」
「……OSとかが違う」
「あー、なるほどね?」
「翔、お前OSがなんだか分かってんのか?」
「救難信号」
「Sが足りてねえよ」
「……つまりM?」
「プレイの話から離れろよ」
連携プレーが決まって満足気なボケコンビ。ボケ甲斐あるなぁじゃねーんだよ。
「……それで、ハードは装置そのもののこと」
「あーそゆこと。そういやタッチパネルってどういう仕組みなん?」
「……触ると弱い電気が指に通って、それに反応してる」
「えっ!?人間って電気通すの!?」
「そこかよ」
人間の身体は多量の水と塩分などの電解質を含んでいるため電気が通る。ちなみに純粋な水はほぼ電気を通さない。
脳から送られる筋肉への指令も電気信号が神経を通って送られており、人体と電気は切っても切れない関係と言っていい。AEDなどはそれを利用して体外から電気ショックを与える救命装置であり、もし人体が電気を通さなかったら使えないような仕組みだ。
だからこそ電気ショックが発生するパッドは衣服を脱がせて皮膚に直接貼らなければならず、そのせいで救助された女性が「わいせつ行為だ」として男性を訴えたなんて話もあるが、実はあれはデマだ。そのような事例も無ければ、当然ながら救命行為が違法になるはずもない。世の男性諸君には、有事の際には臆せず救助を行ってほしいところである。
「ほえ~、知らなかった……じゃあ俺に電気通したら光ったりすんの?」
「そんなわけねーだろ」
「えー、尻だけ光らせて『ホタル!!!』ってやりたかったのに」
「……全身タイツで?」
「絵面があまりに酷い」
そんな話をグダグダと続けていると最終下校のチャイムが鳴り、俺たちはいつも通り解散した。
帰宅後、夕飯を食べてベッドで本を読んでいるとスマホの通知が来たので確認してみれば、翔から30秒ほどの動画が送られてきていた。全身タイツで尻にLEDライトを括り付けた翔が奇妙な踊りをする動画を見させられた俺は「人生で最も無駄な30秒だった」とだけ返しておいた。
もう一度読んでいた本に目を落とししばらく経ってから、一つちょっとした疑問が湧いた。
……あいつ、なんで全身タイツ持ってんだろう……。
わざわざ連絡して聞くと面倒なことになりそうだなぁと、なんとなく気になってしまったまま就寝時間を迎えた俺は、悶々としたまま部屋の明かりを消した。
ヤッター〇ンとか若者には通じないぞって?
分かる人にだけ伝わればいいのよ。うん。
……すいませんでした。