テスト
前回のつづきから、読んでない人は前話を読むと話が分かりやすいかも
「なぁ、魔王はなんか趣味とかあんの?」
「……特に?」
「そっか、俺らと同じだな。なぁ久楽?」
「まず美濃のこと『魔王』って呼ぶのやめてやれよ」
「……魔王。ふふ……」
「ほら、案外気に入ってるみたいだし!」
「マジかこいつ」
「魔王に憧れない男子なんて居ないってことだな!」
「……ううん、あだ名初めてだから。嬉しい」
「おっ……お、おう、そ、そうか!」
「……うん。美味しそうなあだ名」
「魔王を食うな、破壊神の類かお前は」
翔が満足するまで先程の遊びを続けたあと、俺たちは机を囲んで一息ついている。危うく美濃のあだ名が「魔王」から「破壊神」にランクアップしかけているのはさておき、そろそろちゃんと自己紹介といくか。
「一応、改めて。俺は久楽、趣味は読書ぐらいだ。第一印象は最悪かもしれんが、よろしく頼む」
「……気にしてない。よろしく」
「助かる、あれはそこのアホのせいにしといてくれ」
「……分かった」
「おい!美濃の素直さにつけ込みやがって、どっちが魔王か分かんねえなまったく!」
「どっちもちげーよ」
「……僕は魔王だよ?」
「お前はお前で受け容れはえーんだよ」
ボケが増えたせいで収拾がつかん。誰か助けてくれもう。
「次は俺だな、俺は翔!海賊王になる男だ!」
「……住所不定無職?」
「そう言われりゃ海賊ってそうだな……」
「反論しねえのかよ」
「だってよぉ……つーか船って住所にしたり出来ねえの?」
「海上自衛隊の隊員とかだと艦内を住所にしたりしてるって聞いたことあるが」
「よし、海賊船に住所を移そう」
「賊が役所行こうとしてんじゃねえよ」
「……ギャップ萌え」
「どんな趣味してんだお前」
もう一度言おう、誰か助けてくれ。
「そういや魔王はこれからどうすんの?」
「……これから?」
「これからは部室に来るのかって話よ、俺らは大歓迎だぜ」
「しれっと俺を混ぜんな、まぁ歓迎するのは違いないが」
「ほら、久楽もこう言ってるし」
「……塾が無い日は来る」
「じゅ、塾……………………?」
突然目が据わる翔、そしてそれを見て少し心配そうに首を傾げる美濃。
「ああ、大丈夫。こいつ極度の勉強嫌いなだけだから」
「自ら進んで勉強するくらいなら死を選ぶ」
「ってやつなんだ」
「……そう」
「よく塾なんか行ってられんな……俺なら5分と待たずに発狂する自信があるぜ……」
「……体験入塾してみる?」
「魂を売り渡すくらいなら俺はここで死ぬ」
「魔王軍に勧誘された負けかけの勇者かお前は」
「『魔王軍に勧誘された』までは合ってんな」
「……ナカマガドウナッテモイイノカ?」
「クッ……すまねえ、クダラ……俺はここで諦める訳には……」
「まぁまぁあっさり俺を見殺しにすんな」
……コイツら今日が初対面なくせに息ピッタリ過ぎないか?
「……そういえば」
「ん?なんだ魔王様」
「しっかり軍門に下ってんじゃねぇよ」
「……明後日テストだね」
ピシッ、と音が聞こえてきそうな勢いで固まる翔。油が切れたブリキ人形のような動きで青ざめた顔をこちらに向ける翔に、俺は黙って頷いた。
「ノォォォォオオオオオ!!!!忘れてたぞやべえ!」
「なにやってんだか」
「お、おい久楽!随分余裕そうじゃねぇか!」
「そりゃ先週から準備してっからな俺は」
「ま、魔王は!?」
「……ばっちり」
「マジかお前ら!つーか久楽、ここで勉強なんかしてなかったじゃんかよぅ!」
「ここで教科書なんか広げたらお前泡吹いて倒れるだろうが」
「あったりまえだろうが!!!!」
「自信満々に言うな」
「……自業自得」
「うわぁぁああああ!!!」
頭を抱えうずくまる翔の肩を叩くと不安そうな顔でこちらを見上げてきたので、俺は満面の笑みを浮かべてやった。
「入部の時に聞き流してたかもしんないけど、赤点取ったら退部だぞ?」
「オーマイガァァァァアアアアアアア!!!!!」
テスト当日、目を完全に充血させて登校していた翔は、赤点どころか全ての科目で平均点以上を叩き出し、無事退部を免れた。
しかしその代わり、あまりに鬼気迫る翔のその姿はクラスメイトにドン引きされ、心身ともにズタボロとなったのだった。
……あいつ、どんだけ部室好きなんだ。