魔王
新キャラ登場です。
時系列めちゃくちゃだけど、コ〇ンとかサ〇エさんくらいの気持ちで読んでね。
「この部室って、なんでいつもすっからかんなんだろうな」
「さぁ?俺と久楽しか部員居ないからじゃねぇの?先輩たちもほぼ来ないし」
「いや、もう1人居るはずなんだよな。同じ1年生に」
「マジで!?見た事ねえ!」
「俺もない。名簿には載ってんだけどな」
入学してしばらく経ち、囲碁部の部室で毎日顔を合わせるようになった俺たちはすっかりここの番人と化していた。先輩達は元々大して部室には来ず、たまに来ても物を置きに来たりするぐらいのものだ。
同期に居るはずのもう1人は顔すら分からない。会ってみたさはあるが、今更来ることもないだろう。
「ほーん……どんなやつなんだろうな」
「クラスも違うし、まったく分からん」
「男か女かも分かんねーの?」
「名前見た感じ男っぽかったけど」
「ほほう」
「まぁどうでも良いけどな、どうせ来ないだろうし」
「すげー面白いかもしんねーじゃん」
「……たとえば?」
「シャンプーの時に抜けた毛の数をカウントするのが日課とか」
「普通に怖いんだが。そもそも髪流す時どうやって目開け続けてんだ」
「実は異世界から転生した勇者とか」
「幽霊部員になるなよ勇者」
「分かった、ちょっと俺今からその幽霊部員になるからどんな奴か当てるゲームしようぜ」
「急展開な上に意味わからん」
そう言うと翔は1度部室を出て行った。何故外に出る必要がある。
しばらく本を読んでいると、コンコン、とノックの音がした。どうせ翔なんだから勝手に入りゃ良いもんを。もはや本から目を上げるのすら面倒くさい。
「ハイドウゾー」
「よう!俺、ここの部員なんだけど来るの初めてでさ!ちょっとこっちの世界……げふんげふん、2階には不慣れでな。まぁよろしく!」
「いやだから異世界の勇者じゃねぇか。つーか2階には不慣れってなんだよ」
「あっちの世界じゃ平屋の1階建てしかねーんだよ」
「知らねーよ」
コンコン
「ハイドウゾー」
素早くドアを開け、妙に俊敏に部室に入りドアを閉め、音を立てないよう席に着く翔。
「ああ、すまんすまん……音を立てぬよう素早く動くのはクセでござる」
「忍者じゃねーか。クセなのはお前そのものでござるわ」
「正解!」
「うるせーよ」
ガンガン!
「ハイドウゾー」
「オラァ!1番強えー奴はどいつだ!アァ!?」
「道場破りじゃねーか。つーか俺しか居ねーよ」
「タイマン張れやコラ!」
「五目並べなら良いぞ」
「あ、大丈夫です」
コンコン
もういい加減俺としては飽きてきたんだが。
つーか幽霊部員が道場破りってそもそもどういうシチュエーションだよ。脳みそまで筋肉にもほどがあんだろ。
「あーもう、はいはい、はよ入れ」
「……美濃」
「超絶コミュ障無口キャラじゃねーか」
「…………」
ん?ちょっと待て、今の声は聞き覚えがないぞ。
そう思って本から目を上げると、やはり見覚えのない前髪で目が隠れた男子生徒が立っていた。後ろで気まずそうに手を合わせる翔が見える。
……これ、本物来た?
「あー…………すまん、後ろのアホかと思った」
「……いい。本当のこと」
「アホとはなんだ!わ、悪いな美濃。俺は翔、あっちは久楽だ。まぁ、その、なんだ、よろしくな」
「ん、よろしく」
「…………」
「…………」
「…………」
そして流れる沈黙。
どーすんだよこれ、なんか俺めっちゃ悪いことしちまったじゃねぇか。翔も冷や汗垂らしてキョロキョロしてやがるし。美濃は自分から話すタイプじゃなさそうだし。
その時、地獄のような静寂を破ったのは美濃だった。突然ゆっくりと腰を低くし、柔道の構えのようなポーズをとる。
ギョッとする翔をよそに、美濃の口が開いた。
「ヨクキタナユウシャ、セカイノハンブンデドウダ?」
「魔王が戦う前から敗戦交渉すんな」
……反射的にツッコんでしまった。
「…………ぶっ!ははは!おい、美濃!お前めっちゃおもしれーじゃんかよ!」
「……こういう遊びなのかと思った」
「合ってる合ってる!よし、次は2人でやんぞ!」
「わかった」
「おいやめろ、2対1は流石に手に負えん」
「久楽が『もうやめてください』って言うまでやめん」
「もうやめてください」
「はやくね!?」
「…………ふふ」
あとから聞いたところ、ずっと顔を出さなかった理由は「なんとなく」だったそうだ。……変わったヤツがまた1人増えたな。
念の為確認したが、シャンプーの時に抜けた毛は数えていなかった。そして俺と翔の心の中で、美濃のあだ名が「魔王」に決定した。
最後の方、実は久楽がボケて翔がツッコむ貴重なシーン。