天国
何故か2話連続で宗教ネタに……
そんなつもりなかったのに……笑
「なぁ、翔」
「んあ?」
「人間って死んだらどうなると思う?」
そう尋ねられた翔は、豆鉄砲でも食らった鳩のような顔になった。鳩が豆鉄砲なんか食らってるとこ見た事ないけど。
「……悩んでるなら相談乗るぜ?」
「あ、ごめん、別に何一つ悩んでない」
「珍しく心配して損したわちくしょう!」
「なんかすまん」
生きるのが苦しいとかではなくて、ただ単純に疑問に思っただけだったんだが。急に聞かれたらそうなるか。
「気になっただけなんだ、死んだらどうなんのかなって」
「そりゃお前、天国に行くんじゃねーの?」
「天国ねぇ……」
「そうそう、城攻めじゃー!とかやってさ」
「それは戦国」
「そんで、ここに国作るぞー!ってさ」
「それは建国」
「そしたら次は別の国から宣戦布告が届くわけだ」
「それは敵国……って、それのどこが天国なんだ」
このダジャレを瞬時に思い付いて誘導出来る頭の良さを、もっと他のことに活かして欲しい。無駄に無駄のない無駄な会話しか生まれん。
すると翔が何かを思い出したかのように鞄の中を探し始め、一冊の漫画を見せてきた。
「でも天国って人によるよな。この漫画で『ここが天国か!』みたいなセリフを悪人が言うんだけど、そこは普通の人にとっての地獄みたいなとこなんだよ」
「あー、無法地帯みたいな」
「そうそう、悪いことし放題!っていうかさ」
「真面目な話、天国がどんなところかは宗教にもよるしな。天国なんか無いって宗教もあるらしいし」
仏教だけでも輪廻転生の有無やら、天国に行く条件やら、色々な種類が存在する。念仏を唱えるだけで天国に行ける!みたいな宗派は町民の間で大流行したとか。
……今も昔も、そういうとこは変わらないような気がしてきた。楽して稼ごう!みたいな胡散臭い副業を勧める広告と大差ないのではなかろうか。そしてその胡散臭い副業によって本当に得をするのは誰か。推して知るべし。
「そういう意味じゃ、俺たちの考えてる天国ってめちゃくちゃだよな。仏様と天使が同じ所にいるってなんか変だし」
「よく考えたらそうだな……だから天使は天パのイメージあるのか」
「一言で神仏両方を敵に回すのやめろ」
「だって仏様の髪ってアレ、要は空前絶後の天然パーマでしょ?」
「神をも恐れぬ言い草だな」
「まんじゅうはこわいかな」
「別に持ってこねーよ?」
つーかコイツ落語とか知ってたのか。……なんで勉強だけは出来ないのか不思議でならない。
ちなみに仏様の渦巻き模様の団子が沢山集まったような髪型は「螺髪」と呼ばれるものだ。誤解を恐れず言えば、あれはぶっちゃけ本当に天パらしい。
お経の一節に仏様の姿を描いた部分があるが、そこで説明されているとかなんとか。詳しくは知らないが。
「じゃーさ、久楽どう思ってるのさ?」
「俺?俺は死後の世界とか無いと思ってる」
「夢がねぇなぁ〜」
「って言われてもなぁ」
「死に別れた妹のマイだって……いつかきっと会えるって、俺は信じてるぜ……」
「架空の妹を勝手に死なせるな可哀想に」
そのマイって名前、絶対「妹」だろ。間違いなく適当だろ。
「しかし、死後の世界が無いとして、死んだらどうなるんだ?」
「それが分からないから気になってるんだよなぁ」
「うーん、俺ら霊感とかもまったく無いしなぁ」
「まぁ、考えても仕方ないんだけどさこんなこと」
そう言って俺は話に一区切りついたと思い、読みかけの本に目を落とす。しかし、翔はそうではなかったのか、もう一つだけ俺に質問してきた。
「じゃあ聞き方変えるわ。久楽は天国があるのとないの、どっちが良い?」
そう言われて俺は、俺が小さい頃に死んだ爺ちゃんのことを急に思い出し、苦笑しつつ答えた。
「あった方がいいな」
「そっか」
そう、一言だけ告げた翔は、何故だか妙に嬉しそうだった。
「まんじゅうこわい」……何も怖がらないと豪語する男に怖いものを聞いたら「まんじゅうが怖い」と言う。そこで怖がらせてやろうと皆でまんじゅうを持って行くが、ムシャムシャ食べる男を見て「持って来させられた!」と気付くというお話。とても有名な落語の1つ。