第7話 寝不足
「う〜食べすぎた・・・。明太子パスタ美味しすぎて・・・・。明日のお弁当も多分パスタなのに〜。」
そうつぶやきながら部屋に入った彼女はスマホに通知が来てるのに気がついた。
「あれ?なにか来てる・・。YouTubeのコメント?私なにかしたっけ?」
夕食前に自分がなにをしたのかあまり覚えていない彼女はパスワードを入力し、通知をタップした。見覚えのある4発機の着陸動画が流れ、コメント欄が表示された。
「あ、私のコメントに返信してくれてる〜!」
『動画の視聴及びコメントありがとうございます。この航空会社のAF280はまだ現役ですのでこれからも目にする機会が多いと思います。』
「あ、そっか、この航空会社もとからAF280のヘビーユーザーだったっけ。」
動画のコメントに返信が来たことにすこし感動を覚え、彼女はまたもや大量の動画を見て、母親に怒られた。
「う〜最近寝不足で授業中眠い・・」
そう言って机に突っ伏した結衣奈の肩を香菜がそっと揉んだ。
「そういえば最近ずっと休み時間寝てるよね。」
「だってYouTubeが面白すぎて・・・。」
「なるほど、それでか〜。自己管理できてないな〜?」
「うう・・気をつけているつもりなんだけどやっぱり気がついたら寝る時間過ぎちゃってたりして・・。」
そう言うと目の前の香菜はそっと息を吐いた。
「結衣奈。」
「はい。」
「来年の受験、大丈夫?」
「あー大変だ、そろそろ封印しておかないと・・・・」
「でも結衣奈さ、今そんな状況なのに封印できる?」
「あう・・・・が、頑張ります。」
「大丈夫かな〜?」
心配そうに香菜が言った時、担任が入ってきて彼女たちの話は中断された。結衣奈は机の中に手を入れると一時間目の数学の問題集を引き出した。角が少し丸まった問題集はノートの上に置かれると、風でほんの少しめくれた。
「あれ?ここどうやって解くんだっけ?」
「ここ?ああ、二次関数のところね、この式にこの値を代入してここの値を出すでしょ?で、それと問題で言われてるこの値を並べて、連立方程式を解いたら出ると思うよ?」
「あれ・・あ・・・ここ昨日宿題でやってとこ〜!」
「ね?」
放課後、朝テストの直しが終わりきらなかった彼女は香菜を連れて図書室に来ていた。図書室はいつもより少しだけ混んでいた。半分は宿題、半分はゲームといったところか。
香菜に教えてもらいながら直しを終えると、彼女たちは帰路についた。クラブがない人が帰るには少し遅いが、クラブのある人が帰るには早い時間帯、通学路には誰もいなかった。
途中コンビニでおにぎりを買うと言った香菜についていき、先生に見つかりかけたのはまた別の話。
「うっひゃー通知がすごいことになってる〜!」
彼女は部屋に入ってスマホを確認すると悲鳴を上げた。
彼女の端末の設定上、家以外のWi-Fiが飛んでいない場所でアプリを起動するとデータを食い、やがて機能停止に陥りかねない。それを恐れて彼女は家にスマホを置いたまま登校していた。
朝、ほとんど見る時間がないため、寝たあとから帰ってくるタイミングまでに通知が消えることなく、ロック画面に表示され続けているため、家に帰ってくると大体はその通知の量に驚き、最初にその通知をすべて消化するところから始まる。
ラインやツイッターだけではなく、YouTubeも例外ではなかった。動画を見て、コメントをし、その返信に答える。それの繰り返しだった。