第6話 VR
「ねぇねぇ、YouTube、どうだった?」
次の日、教室に入った結衣奈を迎えたのは香菜の声だった。
「す、すごかったよ!」
「なんの動画見てたの?!星?それともアイドル?」
「ひ、飛行機だよ。私飛行機も好きだからさ〜。もちろん星の動画も見てたけど。」
「あ、そっか、結衣奈、時々自腹で空港行ってるもんね。」
「おかげで財布は薄いけどね。なんどもお母さんにお小遣い上げて、って言ってるのに聞いてくれなくて・・。」
「大変ね・・・。」
(そういえば高評価押したらなんか登録しましょう!とか表示されちゃったからついついチャンネル登録しちゃったけど・・・良かったのかなぁ・・。)
放課後、香菜によってYouTubeのシステムをみっちりと教え込まれると結衣奈はヘトヘトになりながら帰路についた。その横を何人かの生徒が走り抜けていった。
「ただいま〜。」
「あ〜おかえり。」
いつもの通り、佳奈美はリビングのソファに座り、海外ドラマを見ていた。それをチラチラと見ながら手を洗い、自分の部屋に入った。香菜のYouTube講座によって部屋に入ったときはすでに日没後だった。
「日が短いのも原因かな〜。」
そうつぶやくと彼女はカバンを置き、望遠鏡の接眼レンズを覗いた。昨日動画で見た星空を頭に思い浮かべながら彼女は星を探す。都会部分ではそう簡単にはいかないが、いつもよりも多く星を見つけられたと満足していた。アイピースから目を離すとカーテンを閉じる。唯一の光を失った部屋は闇に覆われた。
「あたっ!なに?なにか踏んだ?」
手探りで部屋の電気をつける時、足元にあったなにかを踏んで彼女は声を上げた。
「あ、充電アダプターか。びっくりした〜。でも痛かった・・・・」
足の裏をそっと撫でると充電アダプターを机の上に置いた。少し散らかっている勉強机の上を簡単に整理するとそこに座り、スマホを手に取った。一日置いていたスマホの通知は半端ない量だった、というのが彼女の願望だが現実はそう簡単ではない。幾つかの動画の通知と残りはLINEだった。
「あ〜香菜から早速ライン来てる〜なになに?YouTube講座で習ったことを活用すること?わかってるよ。というか気が早いよ。あ、昨日の飛行機の動画の新着来てる〜どんなんなんだろ〜。」
ラインの通知を消すと彼女はYouTubeの通知をタップした。パスワードを打ち込むと動画の画面が広がる。
「あ、AF280だ〜成田に来てたんだ〜!この四発エンジンかっこいいなぁ。うん。音もかっこいい〜!」
「なにを一人で話してるの?」
「ひぎゃぁ?!お母さん、どうしたの?」
「ごはんだから呼びに来たら動画見ながら一人で喋ってるから・・。」
「な、なんでもない!独り言!」
「そう?冷めるから早くね?それとあまり熱中しすぎないでよ?あくまで勉強と両立が条件なんだから。」
「うん、ちょっと待って。コメントだけしていくから!」
香菜に教えてもらったとおりに動画一覧の一番のコメント欄に思ったことを軽く書いた彼女はスマホの電源をきると部屋を出た。
「AF280私大好きなんです!4発エンジン最高ですよね〜!」