第5話 ようやくのスタート
「うう〜やっぱり寒い〜!」
「まあ冬だからね。あ、走ってる。」
「え?あ、ほんとだ。陸上部、こんな寒いのによく走れるなぁ。」
「結衣奈とは身体の構造が違うんじゃない?」
「同じ人間だよ。というかそんなこと言ったら香菜だって違うでしょ?」
「私はテニス部だから同じだよ〜行ってないけど。」
「ほら。」
「明日ぐらいには行くかな〜。」
「それ絶対行かない人のセリフじゃん!」
「そかそか〜!」
香菜の声に二人は同時に笑い出した。
廊下を歩いていた人が驚いてこちらを振り返る。恥ずかしくなって彼女は階段に逃げ込んだ。
「あ〜結衣奈〜。」
「はいはーい、どうしたの?」
「お父さんに聞いたら入れてもいいんじゃないか。って。」
「なにを?」
「You Tubeの話。もう忘れたの?」
「ほんと?!」
勢い込んで言った結衣奈に母親は少し後ずさりすると結衣奈にスマホを出すように言った。
彼女は心が踊りながらカバンの中からスマホを出した。待ちきれないといった風の結衣奈の前であえて母親はゆっくりと作業をする。
「ね〜、まだ〜?」
「ちょっと待ちなさい。」
「は〜い。」
そういった結衣奈はそのままその付近を歩き出した。
「ちょっとは落ち着きなさいよ。」
「だってじっとしてられないんだもん。香菜に色々と聞いちゃったからさ、余計に楽しみで〜。」
「そう?あ〜難しい・・・。」
「早く〜!」
「わかったから。はい、どうぞ。」
「ありがと〜!」
そう言うと結衣奈はスマホを持ったまま部屋を出ると自分の部屋に入った。
画面には幾つかの動画が並んでいた。スクロールするといろんな動画が出てきた。試しに目に止まった航空機の動画を押して見る。轟音とともに動画が再生され、航空機が煙を立てながら滑走路に降り立った。
「あ、AF-330だ・・。」
その動画が終われば次、終わればその次と気がつけば片っ端から見ていった。母親が歩いていくるその足音で我に返り、彼女は何も考えずに慌てて部屋を飛び出した。
「うわあっ!」
「ひゃ!」
飛び出した瞬間に母親とぶつかりそうになり、慌てて避けた。そのせいで壁にぶつかり、背中が少し痛かった。
「どうしたの?そんなに慌てて。」
「い、いや、ちょっとお茶を飲もうと思って・・。」
「そう?早く寝なさいよ?」
「は、はーい。」
母親の声を背中に聞きながらリビングのドアを開ける。
「危なかった〜。明日からは熱中しないように気をつけないと・・。」
そう、一人で呟いた彼女はコップのお茶を一気に飲み干すとついでにと歯を磨き始める。静かなリビングに歯ブラシの音が静かに響いた。