第39話 花のつぼみ
しばらくしてから、部活の名簿から熊田の名前が消えた。「勉学に集中したい」とやめたらしいが、おそらく渡辺のことだろうと2人は言い合っていた。
「ねー、夏休みどうするの?」
「ああ、そうだな、今年はドコ行きたい?」
「海外がいいいなぁ」
「海外高いんだよ」
久しぶりに家族全員が揃った夕食の場で、佳奈美が父親に声をかける。彼は微妙な返事をしながらご飯を口に運んでいた。
「私は飛行機乗れたらそれでいい」
「結衣奈それすごく簡単に言うけど結構高いからな?」
「わかってるよ、それくらい」
父親の言葉に豆腐を箸で切りながら答える。
「ちょっと見てくるよ。行きたい場所とか希望あれば今週の日曜までに言って」
一足先に食事を終えた彼は逃げるようにして部屋を出た。
その後、結衣奈は佳奈美と旅行の妄想を膨らませた。
部屋に入ると、カバンを置き久しぶりに望遠鏡を覗いた。
いつも通り以前にどこかの星にに合わせて以来なにも触っていないピントのネジをいじり、たまたま見つけた星の列を追いかける。
夏の大三角まではなんとか見つけても、その真ん中にあるという小狐座を見つけることはできない。達輝が好きだった小さな星の列は都会の明るさに負けて暗い夜の世界に隠れてしまっていた。
「花火大会ですか?」
「うん。今度陸上部全員で行くんだけど来ない?」
その話は突然振ってきた。ある日の練習。
突然渡辺が近寄ってきたかと思えばその話を伝えられたのだ。二つ返事で行くと決めた結衣奈と違って莉子はしばらく行くかどうか悩んでいたものの、結局行くことを決めた。
「8月の一週目にあるから、集合学校の最寄り駅ね」
必要事項だけを伝えて去っていった彼の後ろ姿を見送った彼女の胸は少しだけときめいていた。




