第26話 願いのつぶやき
「また負けたー!」
「これで、4連勝、か。」
「うっぜぇ、こいつ。またハーゲンかよ。そろそろ金なくなるって。」
「言い出したのお前だろ?ちゃんと約束守れよー。」
「わかってるよ、仕方ねえな。」
寝転んで顔を空に向けたまま会話する二人。
彼らの顔にも笑顔が戻ってき始め、結衣奈は彼らの回復力に再び驚かされた。
渡辺と瑞井が、二人に先に学校に帰るよう言ったため、結衣奈は莉子とともに道路を歩いていた。
学校に着くころには上がった息も大分収まっていた。門のところにいた守衛に軽く頭を下げ、校内に戻る。
「渡辺先輩たちすごいね。」
「そうですね、瑞井先輩は確か県の大会にも出てますよ。渡辺先輩も結構すごいらしいですが。」
「なんか渡辺先輩がすごくないように感じてきた。」
「渡辺先輩もすごいですよ。大会にこそ出てないですが、瑞井先輩に負けない走りをしてます。なんで大会に出ないんでしょう・・・。」
「さぁ、わかんない。」
再び、足跡のたくさんついたグラウンドを横断すると、二人は陸上部の練習場所に戻っていった。
「ねぇ、渡辺先輩って彼女いるのかなぁ。」
練習終わりの更衣室。唐突に発した結衣奈の言葉に莉子は飲みかけていた水筒の水を吹き出しかけた。
「いきなり何を言い出すんですか?」
「いやぁ、渡辺先輩かっこいいし彼女とかいるのかなぁって。」
「そうですね、同じ学年の人に聞いた限りでは熊田先輩と付き合ってるらしいですよ。」
「まじで?!」
「結衣奈さん、声おっきいです。」
慌てたように結衣奈の口をふさぐ莉子の手をどけると、結衣奈は再び小さい声で確認を取った。
幸いにもまだ話題の先輩は更衣室に戻ってきておらず、二人の話を聞かれることはなかったが、それでも同じ更衣室にいた何人かはこちらのことをチラリと横目で見ていた。
「この話は帰り道にしましょう。」
「仕方ないなぁ。わかったよ。」
莉子のもっともな提案に結衣奈はしぶしぶ乗りながら、陸上のウェアを脱いだ。
「どうやら、今年の最初に渡辺先輩が熊田先輩に告って、熊田先輩もOKして付き合い始めたらしいです。」
「そんな風には全然見えないけどねぇ。」
「若干隠し気味にはしてるみたいです。学校の中なので、あまりおおっぴらにしたくないとかで。」
「確かにいろいろとあるもんね。でもあの二人かぁ。ちょっと意外かな。」
「そうですか?私は聞いたときそこまで意外にも思いませんでしたけど。」
「リア充とかいいなぁ。私も彼氏ほしい・・・。」
「結衣奈さんいっつも同じこと言ってますよ。」
「だってほしいじゃん。いいなぁ・・・。」
結衣奈が呟いた先には、灰色の雲が日に照らされたオレンジ色の空を覆いだしていた。